高感度xMRセンサ「Nivio」をベースに新開発 微小領域からの微弱な磁界計測を可能にする
小型・高性能磁気センサ「Migne」

TDKは、HDDヘッド製造で培った先進の薄膜プロセス技術を応用展開し、きわめて微弱な磁界を検出できる高性能磁気センサを新開発しました。製造・検査ラインでの金属異物検査などにも活用でき、医薬品、化学工業製品ほか、リチウムイオン電池や燃料電池などの品質向上にも大きく貢献します。

微弱な心磁界の常温計測を世界で初めて実現した「高感度磁気センサNivio」の技術をベースに、TDKは従来の検査機ではとらえられなかった100μm以下の微小磁性金属異物(鉄、ステンレス鋼など)を、非接触で効率的に検出可能にする小型・高性能のxMRセンサ「Migne(ミグネ)」を新開発しました。医薬品、化学工業製品ほか、リチウムイオン電池や燃料電池の電極材料やセパレータなどの製造工程における微小磁性金属異物の混入リスクを軽減し、製品の安全性・信頼性・寿命を大幅に高めます。

TDKのxMRセンサ「Migne」の特長
  • HDDヘッド技術で培ったスピントロニクス技術を応用展開した超高感度の磁気センサ。
  • 微弱な心磁界の常温計測を実現した「高感度磁気センサNivio」をベースに小型・薄型化を達成。
  • X線検査機では困難な数十μmの磁性金属異物(鉄、ステンレス鋼など)を着磁により検出。磁気を帯びる鉄錆(マグネタイト:Fe3O4、マグヘマイト:γ-Fe2O3)も検出可能。
  • 医薬品、化学工業製品ほか、リチウムイオン電池や燃料電池の電極材料やセパレータなどへの磁性金属異物の混入リスクを大幅に低減。
  • 直流電圧(USB電源)で駆動、微弱磁界を検出する高いSN比を実現。
  • アレイ化またはスキャニングによる広範囲の微小磁界検出も可能。
CONTENTS

異物検査の種類と原理

医薬品メーカー、化粧品メーカー、化学工業製品メーカーなどの製造現場では、目視できる異物はもとより、コンタミネーションやパーティクルなどと呼ばれる、目に見えないほど微細な異物の付着や混入にも細心の注意が払われています。異物検査の方法はさまざまで、その原理により次のような種類があります。

図1 異物検査の原理と種類

カメラやイメージセンサなどを用いた検査は、画像処理技術やAI(人工知能)技術などとも融合して、ますます高度化しています。しかし、これらの光学式検査機は、不透明な被検査物や包装後の製品などについては、表面しか検査できないのが難点です。

超音波を用いることで、内部まで検査が可能になりますが、分解能はmmオーダーにとどまり、微小異物の検出は困難です。磁気カー効果検査機は、視野が狭いうえ表面のみの測定で、汚れや凹凸などがあれば検出することができません。また、AFM(原子間力顕微鏡)、MFM(磁気力顕微鏡)といった装置は、数十~数百nm(10-9m)の高い空間分解能をもち、さまざまな研究用途で使われています。しかし、走査範囲がかぎられることと、センサ感度が低いため非接触での検査が求められる製造業での検査機には不向きです。

主流はX線検査機と金属異物検出機

現在、食品メーカーや医薬品メーカーなどの製造現場で異物検出機として多用されているのはX線検査機です。ベルトコンベアで運ばれる被検査物にX線を照射して、ラインセンサでその透過量の異常を察知することで、表面や内部の異物をスピーディに検出します。鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅などの金属異物はじめ、ガラス、石、ゴム、プラスチック、紙、布などの非金属の異物も検出できるのもメリットです。ただし、X線異物検査機の検出感度は金属異物でも数百μm程度が限界で、200μm以下の微小金属異物に関しては、X線検査機だけでは検出が困難です。そこで、X線検査機とともに各種の金属異物検出機が併用されています。

図2 X線検査機と金属異物検出機の主な対象

鉄やステンレス鋼のパーティクル(細粉)が主要ターゲット

200μm以下の微小金属異物が検出可能な高性能の金属異物検出機は、リチウムイオン電池や燃料電池などの電池メーカーで需要が拡大しています。主要部材である電極材料やセパレータなどへの微小金属異物の混入は、発熱・発火、電池容量の低下、電池寿命の短縮などの原因となるからです。

さまざまな微小金属異物の中でも、主な検出対象とされるのは、鉄やステンレス鋼などの磁性金属です。非磁性金属であるアルミニウムや銅などは、粘性が高いので微粒子になりにくいうえ、製造環境のクリーン度を高めることで混入リスクを防ぐことができます。しかし、製造設備の多くは鉄やステンレス鋼で作られており、それらの稼働やメンテナンスなどにともなって発生するパーティクル(細粉)の混入は、細心の注意を払ってもなお、避けることが困難です。このため、これまで見逃されていた数十μm以下の磁性金属粒子も検出できる高性能の金属異物検出機が、強く求められるようになりました。

図3 X線検査機と金属異物検出機の検出限界

さまざまな磁気センサとその原理

磁性体の磁界測定には、さまざまな磁気センサが活用されています。身の回りの磁界の発生源と強さ、主な磁気センサの検出可能な磁界範囲を以下に示します。

図4 身の回りの磁界発生源と主な磁気センサの検出可能範囲

上図に示した各種磁界測定法の基本原理を概説します。

サーチコイル法(電磁誘導法)
空港のセキュリティゲートなどの金属探知機と同じ原理によるもの。発振コイルと受信コイルの間に金属が通過すると、電磁誘導現象により金属表面に渦電流が発生して磁界が変化するので、この変化を受信コイルが検出するしくみです。
ホール素子法
電流を流した金属や半導体に外部から磁界を加えると、ローレンツ力により電位差が発生するホール効果と呼ばれる現象を利用したもの。GaAs(ガリウム・ヒ素)やInSb(インジウム・アンチモン)などの化合物半導体を用いたホールセンサは、小型で簡便な磁気センサとして多用されています。
FG(フラックスゲート)法
高透磁率のソフト磁性材料コアに励磁コイルと検出コイルを巻いた構造のセンサ。被検査物からの磁界がコアに加わると、磁界に比例した電圧が検出コイルに誘導されることから磁界の強さを測定します。
MR(磁気抵抗効果)法
半導体や強磁性金属などに磁界を加えると、電気抵抗がわずかながら変化する磁気抵抗効果(MR効果)を利用したもの。自動改札機における切符の磁気データ、紙幣の磁気インクのパターンなどを読み取る磁気センサとして利用されています。HDD用磁気ヘッドの読み取り素子であるGMR(巨大磁気抵抗効果)センサ、TMR(トンネリング磁気抵抗効果)センサなども、広い意味でのMRセンサの一種です(HDD用磁気ヘッド)。
SQUID法
SQUID(スクイド)とは、Superconducting Quantum Interference Device(超電導量子干渉素子)の略語。超電導体のコイルの一部にジョセフソン接合を接続した磁気センサ。心磁界、脳磁界を検出できるほど超高感度が特長ですが、コイルの超電導状態を維持するために液体ヘリウムによる冷却装置が必要です。
TDKのxMRセンサ(Nivio、Migne) の特徴
xMRセンサというのは、検出方法としてはMR法の一種ですが、製法的には高度な薄膜プロセス技術により製造されるTDKの高感度磁気センサです(製品名は、「Nivio」および「Migne」)。
GMR(巨大磁気抵抗効果)やTMR(トンネリング磁気抵抗効果)などを含めたスピントロニクス型のMRセンサであるため、TDKではxMRセンサと称しています。冷却装置などを必要とせず、常温でSQUIDに迫るpT(10-12T)オーダーの検出感度をもちます。TDKは東京医科歯科大学大学院との共同研究により、心磁界も測定可能な高感度磁気センサの開発に成功(2016年)。この技術をベースに開発したのが使い勝手にすぐれたxMRタイプ「Nivio」で、さらに小型化したxMRタイプの磁気センサが「Migne」です。

微小磁性金属異物の検出が難しい理由

上記の各種磁界測定法のうち、地磁気以下の微弱な磁界を検出できるのは、FG法、MR法、SQUID法です。ただし、微弱磁界にも発生源のしくみや大きさなどにより、さまざまな様相があります。たとえば、地磁気は微弱とはいえ、地球上のどこでもほぼ一様に分布しているため、方位磁石でも検出が可能です。スマートフォンの電子コンパスには、簡便なホールセンサも使われています。

心磁界は心臓内部に流れる生体電流が生む磁界です。地磁気の約1,000万分の1というきわめて微弱な磁界とはいえ、握りこぶし大の心臓周辺にほぼ一様に分布しているので、体の表面から検出することが可能です。

図5 微小磁性金属異物の検出が難しい理由

これに対して、微小磁性金属異物の磁界の検出では、センサ素子を異物に近接させて測定する必要があります。地磁気や心磁界などと違って、磁界の発生源そのものが微小であり、しかも、その磁界の強さは距離に応じて急激に減少するからです。
磁界の強さは、粒子の大きさや形状(球状、棒状など)、磁化の強さ、磁力線の方向などに異なってきますが、理論的に磁極からの距離が大きくなるにつれ、ほぼ距離の3乗に反比例して減少します。

たとえば、シート状の材料に50μmの磁性金属異物が1個混入しているとします。これを検出するには、センサ素子を数mm程度まで近接させ、シートのすみずみまで走査しなければなりません。これは砂漠に埋もれた1本の針を探し当てるようなもので、微小磁性金属異物の検出は技術的にきわめて困難なのです。

金属異物検出機は着磁型が多用

前述したように、各種製品の製造ラインにおいて問題となっているのは、鉄やステンレス鋼といった磁性金属のパーティクル(摩耗粉、剥離粉など)です。なかでも主な発生源となっているのはステンレス製の製造装置で、搬送装置や容器、工具などからも発生します。そこで、これらの微小磁性金属異物を強力なマグネットで着磁(磁化)してから、磁気センサを用いて検出する着磁型(磁化型)の金属異物検出器が多用されるようになっています。

図6 着磁型(磁化型)金属検査機の基本構造

スプーンなどの食器に使われる18-8ステンレス(SUS304)は磁石に吸いつかないので、一般にステンレス鋼は非磁性金属のように思われていますが、これは誤解です。ステンレス鋼は鉄(Fe)を主成分とし、鉄族元素であるクロム(Cr)やニッケル(Ni)を含有した合金鋼で、金属組織の違いにより、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系に分類されます。製造装置などに使われるステンレス鋼の多くはマルテンサイト系やフェライト系で、磁石に吸いつく磁性体です。また、非磁性金属であるオーステナイト系の18-8ステンレス(SUS304)も、曲げたり、叩いたり、細片にしたりすると、金属組織が変化して磁石に吸いつくようになります。

したがって、ステンレス鋼の磁化率は鉄ほど大きくありませんが、着磁によって磁気センサで検出が可能なのです。磁気を帯びる鉄錆(マグネタイト:Fe3O4、マグヘマイト:γ-Fe2O3)も検出できます。

着磁型の金属異物検出機に適した磁気センサ

100μm以下の微小磁性金属異物を検出する着磁型の金属異物検出機には、どのような磁気センサが適しているのでしょうか。SQUIDは超高感度とはいえ、液体ヘリウムによる冷却装置が必要で、装置が大がかりになるため不向きです。一般的な他方式の磁気センサを用いた金属異物検出機も市販されていますが、検出感度が十分とはいえません。

そこで、微弱な心磁界の常温測定を世界で初めて実現した高感度磁気センサNivioをベースにして、TDKが新開発したのがxMRタイプの磁気センサMigneです。磁気回路などの工夫により、高感度磁気センサNivio に比べ微小磁界に対するS/N比(信号/ノイズ比) を高めつつ、8×8×5mmサイズという指先に乗るほどの小型・薄型化を実現しました。

図7 高感度磁気センサNivioと新開発Migneの外観

xMRセンサの基本原理

TDKのMigne に搭載されているxMRセンサの基本原理を以下に示します。xMR素子は非磁性体の薄膜を強磁性体の薄膜ではさんだ多層構造となっています。ピン層と呼ばれる強磁性体の薄膜は、磁化の方向が固定(ピンニング)されていますが、もう片方の強磁性体の薄膜は、外部磁界の方向に自由に追随するフリー層となっています。素子の電気抵抗はピン層とフリー層の磁化の向きの相対角に比例して変化するので、出力電流の大きさから磁界の強さを検出することができます。

xMRセンサは、nT~pT(10-9~10-12T)レベルの高感度とともに、FGセンサなどのように複雑な発振回路などを必要とせず、電源から直流電流を供給するだけで信号が得られるのも大きなメリットとなっています。

地磁気以下の微弱な磁界を対象とする磁気センサでは、温度特性もきわめて重要になります。xMR素子は温度特性にすぐれていますが、温度変化によってわずかながら抵抗値が変動します。この温度ドリフトを最小にするため、Migne は、4つのxMR素子を基板上にブリッジ構成(ホイートストンブリッジ回路)して製造し、その差動電圧により温度補償する方式を採用しています。そのためには、4つの素子の特性をそろえることが求められますが、TDKでは高度な薄膜プロセス技術により、この問題をクリアして、きわめて信頼性の高いxMRセンサを実現しています。

図8 xMRセンサの原理および4素子によるブリッジ回路(ホイートストンブリッジ回路)

微小磁性粒子の磁気双極子を鮮明に画像化

下図は、着磁した微小な鉄粒子(球形)をテストピースとし、これをマグネットで着磁して、その磁界をMigneでスキャン(エリア:20×20mm)した際の画像です。着磁された鉄粒子は、N極とS極をもつ微小な磁気双極子となっていることがわかります。赤色は磁力線の吹き出し方向、青色は磁力線の引き込み方向を表しています。

図9 Migneによる磁化した鉄粒子のスキャン(走査)画像

すぐれた感度ともに、きわめて高いSN比を実現

微弱磁界の検出に重要なのはS/N比(信号/ノイズ比)です。磁気センサによって検出された磁性粒子の磁界は、急峻なピークをもつ信号として出力されますが、磁気ノイズによって信号が隠されてしまえば使い物にならないからです。
下図は、着磁した鉄粒子(直径80μmおよび50μm)のMigneによるX-Y面およびX-Z面の磁界強度の画像です。Migneはすぐれた感度とともに、きわめて高いS/N比を有することがわかります。

図10 着磁した直径80μmおよび50μmの鉄粒子のMigneによる磁界強度の測定例

Migneは高感度磁気センサ NivioをベースとしたxMRセンサですが、磁気回路の工夫などにより小型化を達成して、微小磁性金属異物の検出性能をいちだんと向上させました。下図は、NivioとMigneのS/N比の評価結果です(対象物:鉄粒子20~80μm径、センサとの距離2mm)。

図11 高感度磁気センサNivioとMigneによる微小磁性粒子の検出特性

従来困難だった微小ステンレス粉も検出可能に

磁性金属の微小異物は鉄よりもステンレスのほうが検出困難ですが、製造・検査ラインなどでは微小なステンレスのパーティクルが検出可能な金属検査機の需要が高まっています。
TDKのMigneは、従来困難だった微小ステンレス粉の検出も可能にする最新鋭の磁気センサです。
下図は、着磁した微小ステンレス粉(サイズ40×16.6μm)のサンプル例と、Migneによる磁界強度の測定画像です。Migneとステンレス粉の距離は1mm。ステンレス粉でありながら、鉄粒子と遜色のない鮮明な画像が得られています。

図12 微小ステンレス粉(サイズ40×16.6μm)のサンプル例とMigneによる磁界強度の測定画像

1mmの距離で、サイズわずか40×16.6μmの微小ステンレス粉を検出可能にするMigneの驚異的な性能を実感していただくために、100倍に拡大した模式図を作成しました。
100倍に拡大すると、直径2mmのステンレス粉の微弱磁界を10cm離れた距離からMigneが検出することに相当します。磁界強度は距離の3乗に反比例して減衰することを考えれば、Migneは磁性金属異物検出用として画期的な磁気センサであることがわかります。もちろん、異物検出以外の微小磁界検出用途でも、優れた検出性能を発揮します。

図13 直径約20μmの微小ステンレス粉をMigneにより距離1.0mmで測定したときの模式図(100倍に拡大)

まとめ

医薬品メーカー、化学工業製品メーカーなどでは、X線検査機とともに金属異物検出機が併用されていますが、鉄やステンレス鋼などの微小磁性金属異物の検出には、着磁型の金属異物検出機が主流となっています。

100μm以下の微小磁性金属粒子が検出可能な着磁型の金属異物検出機には、nT~pT(10-9~10-12T)レベルの微弱磁界を検出する高感度と、小型でアレイ化も容易なすぐれた磁気センサが必要です。TDKのMigneは、心磁界も測定可能な高感度磁気センサNivioをベースに新開発した小型・薄型かつ使い勝手にすぐれた磁気センサです。多数のセンサ素子をコンパクトにアレイ化することにより、広範囲で、数十μmの微小磁性金属異物検出も可能にします。

モバイル機器、ロボット、ドローン、EV(電気自動車)などのバッテリに用いられるリチウムイオン電池の生産量が急増していて、その安全性・信頼性・長寿命化が強く求められています。リチウムイオン電池ばかりでなく、燃料電池や新タイプの二次電池の電極材料やセパレータなどの微小磁性金属異物検査においても、TDKのMigneの活用が期待できます。もちろん、異物検出のみならず、その他の微小磁界検出用途でも、すぐれたパフォーマンスを発揮します。

TDKは横浜国立大学ととともに、xMRセンサを活用した画像診断技術である磁気粒子イメージング装置の研究開発も進めています。製造業の異物検査ばかりでなく、非破壊探傷検査、医療やバイオテクノロジー分野(たとえば細胞活動の磁界計測など)にまで応用を拡大しつつあるTDKのxMRセンサの今後にご注目ください。

本記事でご紹介したTDKのxMRセンサおよびMigneについて、ご質問やお役立てできる案件がございましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。Migneを搭載した微小磁性金属異物検出用の卓上スキャナの提供サービスも予定しております。

お問い合わせ、資料提供などについて

Copyright(c) 1996-2022 TDK Corporation. All rights reserved.
TDK logo is a trademark or registered trademark of TDK Corporation.