ESD/サージ保護デバイスの使い方:各種バリスタ
産業機器・エネルギー機器などでは、最大許容回路電圧(定格電圧)や最大サージ電流耐量が大きなディスクバリスタが使われます。
●リード付きディスクバリスタ
●SMDディスクバリスタ
●ストラップバリスタ
●ブロックバリスタ
各種バリスタの特長
バリスタはESD(静電気放電)や雷サージなど、過渡的な異常電圧から機器・回路を保護するサプレッサとしての用途にご使用いただけます。
比較的大きいサージ電流(100A~25kA)の保護には、リード付きディスクバリスタやSMDディスクバリスタが適しています。また、より大きいサージ電流(約25kA以上)の保護には、ブロックバリスタおよびストラップバリスタが適しています。
以下にその具体的な応用例を示します。
応用例:スイッチング電源の入力部のサージ保護
電子機器の電源として、小型・軽量・高効率の各種スイッチング電源が多用されます。スイッチング電源においては電源回路の前段に、電源ラインを通じて侵入する伝導ノイズを抑止するためのEMCフィルタ回路が置かれます。しかし、EMCフィルタだけでは雷サージや開閉サージを阻止できないため、EMCフィルタの前段にはディスクバリスタを用いたサージ保護回路が置かれます。サージアレスタなどとの組み合わせや回路構成は多種多様です。ノートパソコンなどに使用されるACアダプタにおいても、同様の保護回路が内蔵されます。雷ガード機能の付いた電源タップやコンセントにもバリスタが使われます。
図1 スイッチング電源のサージ保護回路例
応用例:LED照明システムのサージ保護
LED照明システムは、複数のLEDを接続したLEDアレイ、ドライバ(駆動回路)、制御回路、LED電源などのほか、通信用電源などのサブシステムで構成されます。インタフェース部のESD/サージ対策として、多数のチップバリスタが使われるほか、ESDアレイにもバリスタが必須です。LEDは半導体を利用した素子であり、無対策では静電気やサージなどによって破壊されます。このため、LED素子に並列にバリスタが搭載されます。
図2 LED照明システムにおけるLED素子の保護
応用例:モータなどの誘導性負荷のサージ保護
モータ、ソレノイド、電磁弁など、コイルを利用した誘導性負荷の機器は、電源をOFFにした瞬間、それまで蓄えていた磁気エネルギーを逆起電力として放出し、高いサージ電圧を発生させます。このサージ電圧から機器を保護するために、負荷に並列にバリスタを接続します。
図3 モータなどの誘導性負荷のサージ対策
応用例:電磁ブレーキ付きモータのサージ対策とスイッチ接点保護
産業機器に使われるACモータに、ブレーキ付きモータというタイプがあります。電磁石とアーマチュア(可動鉄板)そしてスプリングを利用した電磁ブレーキにより、スイッチOFFとともに瞬時にモータの回転を停止することができます。しかし、電磁石はコイルを用いた誘導性負荷であり、電流が遮断された瞬間、コイルに逆起電力が生まれ、高いサージ電圧が発生し、スイッチの接点を損傷します。このサージ電圧の吸収と、スイッチの接点保護のためにバリスタが接続されます。
図4 電磁ブレーキ付きモータのスイッチ接点保護
応用例:SSR(ソリッドステートリレー)のサージ対策と出力端子の保護
大電流が流れる産業機器の多くに、半導体素子(サイリスタなど)を用いたSSR(ソリッドステートリレー)が使われます。フォトカプラによって電気的に絶縁されたリレーなので、直流電源の微小電流のON/OFF信号により、機器を安全にON/OFF制御できるのが特長です。ただし、大電流がON/OFFするため、出力端子が開閉サージにより損傷しやすくなります。これを抑制するために、出力側にバリスタが並列接続されます(バリスタを内蔵したSSRもあります)。
図5 SSR(ソリッドステートリレー)の出力端子の保護
応用例:ロードダンプ/フィールドディケイへのサージ対策
モータやオルタネータ(発電機)など、コイルを利用した誘導性負荷に流れる電流が遮断したとき、逆起電力の発生により高いサージ電圧が生じます。
ロードダンプはオルタネータからバッテリに電流を供給している状態で、バッテリ端子が外れるなど、バッテリラインが何らかの原因で遮断されたとき起こるサージ障害です。また、フィールドディケイは誤ってバッテリの極性を逆接続した状態で発生する負電圧のサージで起こる障害です。
いずれもECUに伝わって誤動作を起こすおそれがあるため、ロードダンプ試験、フィールドディケイ試験をクリアする必要があります。サージ対策としてディスクバリスタが利用されます。
図6 ロードダンプとバリスタによるサージ対策
ECUのイミュニティ試験とエミッション試験
ECUのEMC評価試験として、ECUが誤作動しないことを確認するイミュニティ試験と、ECUが限度値以上のノイズを出さないように設計されているかを評価するエミッション試験があります。
イミュニティ試験 | 規格 | 内容 |
---|---|---|
静電気放電試験 | ISO10605 | 静電気放電を加えて耐性を評価 |
RFイミュニティ試験 | ISO11452-2、-3、-4 | 強い電波を加えて、耐性を評価 |
ロードダンプ試験 | ISO7637-2 | 正のサージ電圧を印加して耐性を評価 |
フィールドディケイ試験 | 負のサージ電圧を印加して耐性を評価 | |
エミッション試験 | 規格 | 内容 |
輻射エミッション試験 | CISPR25 | ECUからの放射ノイズを評価 |
伝導エミッション試験 | ECUからの伝導ノイズを評価 |
応用例:太陽光発電システムの接続箱/パワーコンディショナのサージ保護
ソーラーパネルで発電された直流電力は、接続箱を経てパワーコンディショナに送られ、DC-DCコンバータで昇圧、インバータで交流に変換されてから商用電力系統に送られます。誘導雷サージなどから回路を保護するため、接続箱やパワーコンディショナの入力・出力部にバリスタを用いた電圧保護回路が挿入されます。サージアレスタと組み合わせることで、より信頼性は向上します。
図7 太陽光発電システムの接続箱/パワーコンディショナのサージ保護
応用例:耐雷トランスを用いた重要機器のサージ保護
データセンターのサーバー、電話の交換機など、重要な機器を雷サージから保護するために、耐雷トランスという装置が使われます。バリスタを用いたSPD(サージ防護デバイス/避雷器)と、1次巻線と2次巻線を静電シールドした特殊トランスを組み合わせたもので、SPDで除去しきれなかったサージは、接地された静電シールド材を通じて大地にバイパスされます。コモンモードの誘導雷サージに対して、すぐれた効果があります。
図8 耐雷トランスによる雷サージ対策例
応用例:産業機器における高エネルギーサージへの対応
ブロックバリスタやストラップバリスタは、産業機器や通信機器の電源、発電所や変電所の配電盤など、鉄道信号システムなどに使われる高エネルギータイプの製品で、きわめて大きなサージ電流耐量が特長です。ブロックバリスタはケースに格納されたネジ端子タイプ、ストラップバリスタはネジ固定(または、はんだ付け)用の穴あきストラップ(平板)端子タイプです。ACパワーラインアレスタも併用されます。
図9 産業機器における高エネルギーのサージ対策例
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