アプリケーションノート 突入電流防止NTCサーミスタの使い方
スイッチング電源(SMPS)、インバータなどの電子機器は、電源投入時に瞬間的に高いピークをもつ異常電流が流れます。これを突入電流(Inrush Current)といい、無対策のままでは、半導体素子の破壊や平滑コンデンサの寿命に悪影響を及ぼします。NTCサーミスタは突入電流を簡便・効果的に制限するICL(突入電流リミッタ)として、電気・電子機器の回路保護に使用されています。
NTCサーミスタの特長
NTCサーミスタは負の温度係数(NTC:Negative Temperature Coefficient)をもつ特殊な半導体セラミックスを利用した温度依存抵抗です。室温時では抵抗が高く、通電すると自己発熱して、温度上昇とともに抵抗が低くなる性質があります。この性質を利用して、電源投入時の突入電流などの異常電流を簡便・効果的に制限する電流保護素子として、電気・電子機器に利用されています。電流保護素子として使われるNTCサーミスタは、パワーサーミスタとも呼ばれます。
突入電流を制限する方法として、固定抵抗やNTCサーミスタを使用する方法があります。
ただし、固定抵抗は常に電力損失を発生させて効率を低下させます。NTCサーミスタの場合は、高い初期抵抗によって突入電流を制限した後、通電による温度上昇により抵抗値は室温時の数%まで低下するため、固定抵抗を使用した場合と比べて電力損失を低減できます。言い換えれば、同じ初期電力損失の固定抵抗と比べると、NTCサーミスタはより大きな突入電流の制限効果が得られます。
突入電流防止NTCサーミスタの具体的な応用例を以下にご紹介します。
突入電流防止NTCサーミスタの応用例
応用例:スイッチング電源における突入電流防止
電子機器の電源として、小型・軽量・高効率の各種スイッチング電源(SMPS)が多用されています。SMPSでは、電源ON時に、平滑コンデンサを充電するために、高いピークをもつ突入電流が流れます。この突入電流はコンデンサの寿命への悪影響、電源スイッチの接点の損傷、整流ダイオードの破壊などを起こすおそれがあり、何らかの対策が必要になります。
下図に示すように、SMPSの突入電流をNTCサーミスタの挿入で制限する方法は、電源機器における低コストかつ簡便な突入電流防止回路として広く採用されています。NTCサーミスタの接続位置は、整流回路の後段でも同じ効果が得られます。
図1 スイッチング電源における突入電流防止
応用例:AC-DCパワーモジュールにおける突入電流防止
各種の電源回路や周辺回路をコンパクトに一体化した組み込み型の電源をパワーモジュールといいます。AC-DCパワーモジュールはAC-DC整流回路とDC-DCコンバータを合体させた電源で、わずかな外付け部品を接続することで最適な電源システムが省スペースで実現します。電源投入時の入力/出力コンデンサへの突入電流は、NTCサーミスタ(パワーサーミスタ)を挿入することで効果的に制限できます。
図2 AC-DCパワーモジュールにおける突入電流防止
応用例:DC-DCコンバータにおける突入電流防止
DC-DCコンバータなどの直流電源回路においても、NTCサーミスタがパワーサーミスタとして用いられ、電源投入時に入力コンデンサや出力コンデンサを充電するときに流れる突入電流を効果的に制限します。通電後のNTCサーミスタの抵抗値はきわめて低くなるので、固定抵抗を使用した場合よりも電力損失が少なくてすみます。
図3 DC-DCコンバータにおける突入電流防止
応用例:産業用インバータにおける突入電流防止
工場や大型施設、オフィスビルなどでは、ファン、ポンプ、空調用などに誘導モータが多用されています。誘導モータは構造がシンプルで堅牢なのが特長ですが、回転速度は周波数に依存します。回転速度を制御するためにはインバータが必要です。インバータを搭載したモータは可変速度ドライブ(VSD)と呼ばれ、消費電力を大幅に低減できます。
インバータ装置はコンバータ部、インバータ部、コンバータ部の後段に置かれたDCリンクコンデンサ(平滑コンデンサ)からなっています。電源を投入すると、このDCリンクコンデンサを充電するために、定常電流の数倍のピークをもつ突入電流が流れます。この突入電流はDCコンデンサの寿命に悪影響を与えたり、半導体素子を破壊するおそれがあります。そこで、NTCサーミスタ(パワーサーミスタ)を接続することで突入電流から保護します。
図4 産業用インバータ(三相)における突入電流防止
図5 産業用インバータ(単相)における突入電流防止