アプリケーションノート電流保護素子としてのPTCサーミスタの使い方
PTCサーミスタは過大な電流に対しては、自己発熱して高抵抗になる性質があります。この性質を利用して、過電流保護素子として利用されています。
その応用例を以下の用途別にご紹介します。
« 突入電流制限用 »
« 過電流保護用 »
« テレコム用 »
PTCサーミスタの特長
PTCサーミスタは高い正の温度係数(PTC:Positive Temperature Coefficient)をもつ特殊な半導体セラミックスをベースにした温度依存性の抵抗素子です。室温時では比較的低い抵抗値を示します。電流が流れると、発生した熱がPTCの温度を上昇させます。ある温度(キュリー温度)を超えると急激にPTCの抵抗値が増加します。
この効果は、回路やデバイスを過電流から保護するために利用できます。この場合、過大電流によりPTCが高温になり、結果として生じる高抵抗によって過電流が制限されます。誤動作の原因が解消されると、PTCは冷却され、リセッタブルなヒューズとして再び動作します。この機能を利用して、PTCサーミスタは過電流保護素子として使用されます。以下の応用例では、PTCサーミスタを過電流保護に使用する方法について説明します。
目次
- 突入電流防止PTCサーミスタの応用例
- 過電流防止PTCサーミスタの応用例
- テレコム用PTCサーミスタの応用例
突入電流防止PTCサーミスタの応用例
応用例:車載充電器(OBC:オンボードチャージャ)における突入電流制限
電子機器の電源として、小型・軽量・高効率の各種スイッチング電源(SMPS)が多用されています。SMPSがスイッチオンされると(つまり、平滑コンデンサへの充電が開始されると)、高いピークをもつ突入電流がその機器に流れます。この突入電流は、平滑コンデンサの寿命への悪影響、電源スイッチの接点の損傷、整流ダイオードの破壊などを起こす可能性があります。したがって、SMPSへの突入電流を制限する必要があります。
以下の回路図はPTCサーミスタとサイリスタ(またはメカニカルリレー)を組み合わせたICL(Inrush Current Limiter:突入電流制限)回路例です。
電源スイッチが閉じられて充電プロセスが開始されると、充電されていないコンデンサは短絡のようであり、したがって非常に高い突入電流を呼び込みます。このとき、サイリスタは高オーム状態(または、メカニカルリレーがオープン状態)であるため、平滑コンデンサに直列に接続されたPTCは、突入電流(コンデンサの充電電流)を望ましい低レベルに制限します。コンデンサが充電されると、サイリスタはPTCを短絡し、電気的負荷が印加されます。
場合によっては、サイリスタ(またはメカニカルリレー)が誤動作する可能性があり、PTCが短絡しないことがあります。この場合、回路に負荷がかかり、高い動作電流がPTCを加熱します。すると、PTCは高オーム状態に入り、誤動作電流を危険ではない低レベルに減少させます。PTCサーミスタは、損傷を受けることなく、そのような負荷に耐えることができます。
過去に一般的であったように、固定抵抗を突入電流制限に使用すると、高い動作電流によって抵抗が過熱され、抵抗器の破壊や火災の発生を招く可能性があります。
図1 スイッチング電源における突入電流制限
応用例:産業用インバータにおける突入電流制限
工場内のファン、ポンプ、空調装置などに誘導モータが多用されています。誘導モータは構造がシンプルで堅牢であり、その速度は電源の周波数に依存します。インバータは誘導モータの速度を制御するために使用されます。そのような可変周波数駆動装置(VFD)は、モータの効率を高め、結果として電力消費を低減することができます。
インバータ装置はコンバータ部とインバータ部とで構成されています。コンバータ部の後段にDCリンクコンデンサ(平滑コンデンサ)が置かれています。システムに電源が投入されると、DCリンクコンデンサは、コンデンサを充電するのに必要な定常電流の数倍のピークを持つ突入電流で充電されます。この突入電流は、コンデンサの寿命に悪影響を及ぼしたり、電流にさらされた半導体素子を破壊したりする可能性があります。
突入電流を制限する良い方法は、PTCサーミスタとサイリスタ(またはリレー)を組み合わせた突入電流リミッタ(ICL) を使用することです。PTC ICLの機能は、車載充電器応用例で説明したのと同じです。ここでも、PTCは自己保護特性(回路の誤動作の場合に抵抗が増加する)を有しています。
図2 産業用インバータにおける突入電流制限
過電流防止PTCサーミスタの応用例
応用例:車載DCモータにおける過電流保護
稼働中のモータが過負荷状態になったり、回転が停止するロック状態になったりすると、モータに過電流が流れます。これにより、コイルに熱的な過負荷がかかります。PTCサーミスタは、モータをそのような過電流から効果的に保護することができます。
たとえば、自動車のドアミラーが障害物に妨げられている状態でミラーを格納・復帰しようとすると、モータはロック状態になります。その結果、モータ巻線に過電流が流れます。こうした熱的な過負荷を防止するためにPTCサーミスタが使用されています。この高電流は、PTCを加熱させます。それによりPTCの抵抗が実質的に増加し、その結果、高電流がシステムに過大な負荷を与えないレベルに減少します。この過電流保護サーミスタは、ドアロック、パワーシートなどを駆動するモータにも利用されています。
図3 車載DCモータの保護例
応用例:ソレノイドにおける過電流保護
コイルの磁力により接極子(アーマチュア)を動作させるソレノイドは、プリンタなどのOA機器、電気錠などに使われる簡便なアクチュエータです。ソレノイドには、直動型や回転型などがあります。
ソレノイドコイルが何らかの機械的な障害等によりロックすると、過電流状態が続くことによりドライバ回路の破損を生じることがあります。
PTCサーミスタはこのような過電流が続くと自己発熱により抵抗値をトリップさせて出力電流を軽減することによりドライバ回路の破損を防ぎます。
図4 ソレノイドにおける突入電流制限
テレコム用PTCサーミスタの応用例
応用例:セキュリティシステムのSPD(サージ防護デバイス)における過電流保護
工場やオフィスビルなどの各種のセキュリティシステムでも、テレコム用PTCサーミスタが活用されています。火災報知器システム、監視カメラシステムなど、複数の施設を結ぶネットワークシステムでは、信号ケーブルが雷サージなどの被害を受けやすく、これらシステムの重要な場所にサージ保護デバイス(SPD)が設置されます。
下図は交換に便利なプラグイン方式のSPDの保護回路例です。プラグ側には過電圧保護用にアレスタとバリスタが含まれています。ソケット側には過電流保護用にPTCサーミスタが搭載されています。
TDKではテレコム用アプリケーション向けとして、PTCサーミスタを豊富にラインアップしています。SPDには、PTCサーミスタを2個内蔵したプラスチックケース入りのTPP(Telecom Pair Protector)製品などが良く使用されています。
PTCの機能は、前のセクションで説明したものと非常に似ています。
図5 プラグイン型信号用SPD(サージ防護デバイス)の保護回路例
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