高温・振動にも耐える高信頼性の性能と構造
車載用の厳しい要件を満たしたパワーインダクタ
自動車の電装化が急速に進み、さまざまな車載システムを管理するECU(電子制御ユニット)は増加傾向にあります。ECM(エンジン制御モジュール)はECUの一種で、燃料噴射、吸気、排気、冷却まで、エンジン内のすべてのプロセスを監視し制御する役割を担います(図1)。その主な目的は、最適な燃料効率と最小限の排気ガス排出量を達成することです。
近年、重いワイヤハーネスをできるだけ短くすることで自動車の軽量化を図るために、ECMはエンジン近くに置かれるようになっています。特にエンジンに直付けする場合においては、ECMおよび使用される電子部品は、過酷な環境温度や強い振動に耐えるように設計されなければなりません。
TDKでは、このような用途のために、SMD巻線型のパワーインダクタCLF-NI-Dシリーズを開発しました。-55ºC~+150ºCの動作温度範囲をもつ本製品はAEC-Q200に準拠しており、自動車業界からの厳しい要件を満たしています。ECMはじめ、ABSシステム、HIDランプ、エアバッグシステムなど、各種車載用ECUの電源回路に最適です。
図1 ECMの機能と基本構造
パワーインダクタCLF-Dシリーズは、ECMのDC-DCコンバータにおける重要部品。
ECMにおける効率的な電力供給の確保に役立ちます。
ECMのDC-DCコンバータにおける重要部品
ECM に使われるDC-DCコンバータは降圧コンバータです。図2に降圧コンバータの基本回路を示します。回路に直列に接続されたMOSFETなどのスイッチング素子が、デューティ比に応じて周期的にON/OFFを繰り返し、バッテリの12V電圧をECMのサブシステムに必要な直流電圧(ICに応じて約1.2~5Vの範囲)に変換します。この回路において、パワーインダクタは、安定した直流電流を確保するために、エネルギーを蓄積・放出する役割をもちます。また、パワーインダクタはコンデンサとともに平滑回路を形成し、デューティ比によって決まる一定の電圧で出力します。
図2 降圧コンバータの基本回路図
降圧コンバータにおけるパワーインダクタは、
エネルギー貯蔵と出力電圧の平滑化という2つの機能を同時に果たします。
完全自動化された製造プロセスにより信頼性と高品質を実現
エンジン直近あるいは直付けという過酷な環境条件に耐えられるように、パワーインダクタCLF-NI-Dシリーズは、全体に特殊な耐熱材料を採用するとともに、強い振動にも耐えられるよう独自のシンプルな構造に設計されています。
CLF-NI-Dシリーズは、フェライトのドラムコアを用いた巻線型のインダクタです(図3)。干渉や電力損失の原因となる他の電子部品との磁気結合を防止するために、巻線とドラムコアはリング状のフェライトコアによって磁気シールドされています。この磁気シールドにより、CLF-NI-Dシリーズは高密度実装を容易とし、ECMや他の車載ECUの小型化にも寄与します。
また、CLF-NI-Dシリーズは高耐熱ワイヤの使用と、リフロー時に溶融しない溶接による継線を特長とした高信頼性の製品設計となっております。さらに本製品は、完全自動化された製造プロセスにより量産されています。これは完成製品がきわめて均質かつ高品質であることを意味しています。
図3 パワーインダクタCLF-NI-Dシリーズの製品構造
CLF-NI-Dシリーズは、高耐熱ワイヤと溶接による継線構造により、高い信頼性を実現しております。
ベストソリューションとなる車載用電子部品を提供
TDKの巻線パワーインダクタCLF-NI-Dシリーズは、耐熱性にすぐれた材料開発により、-55ºCから最大+150ºCまでの幅広い動作温度範囲を実現するとともに、機械的強度を高めた独自の構造設計や、製造プロセスの完全自動化などを取り入れて生産されているきわめて高品質・高信頼性の製品です。このため、厳しい要件が求められる車載ECU用パワーインダクタとして最適です。TDKでは、パワーインダクタのみならず、金属端子付き積層セラミックチップコンデンサ“メガキャップ”、高温保証のコンデンサやインダクタ、各種センサなど、車載用としてベストソリューションとなる多種多様な電子部品を提供しています。
主な特長・用途・仕様・電気的特性
主な特長
- 耐熱性にすぐれた材料の採用により、最大+150ºC(自己温度上昇を含む)の幅広い動作温度範囲(-55~+150ºC)を実現
- はんだフリー設計
- 完全自動化された製造プロセスにより一貫した最高水準の品質を実現
- AEC-Q200準拠
- RoHS指令、鉛フリーはんだに対応
主な用途
- 自動車のECM、ABSシステム、HIDランプ、エアバッグシステムなど、各種車載ECUの電源回路
主な仕様
※5~12.5mm角の各形状について、インダクタンス1~470µHまで対応
タイプ | 温度範囲 | 梱包数量(個/ リール) | 単重量(g) | |
---|---|---|---|---|
動作温度(°C)* | 保存温度(°C)** | |||
CLF6045NI-D | –55 to +150 | –55 to +150 | 1,000 | 0.6 |
* 動作温度範囲は自己温度上昇を含みます。
** 保存温度範囲は基板実装後を示します。
主な電気的特性(例)
L | 測定周波数 | 直流抵抗 | 定格電流* | 品番 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
Idc1 | Idc2 | |||||
(μH) | 許容差 | (kHz) | (Ω) | (A) | (A) | |
1.0 | ±30% | 100 | 0.011±30% | 6.7 | 4.8 | CLF6045NIT-1R0N-D |
1.5 | ±30% | 100 | 0.013±30% | 5.5 | 4.5 | CLF6045NIT-1R5N-D |
2.2 | ±30% | 100 | 0.015±30% | 4.2 | 4.1 | CLF6045NIT-2R2N-D |
3.3 | ±30% | 100 | 0.019±30% | 3.5 | 3.7 | CLF6045NIT-3R3N-D |
4.7 | ±30% | 100 | 0.023±30% | 3.1 | 3.3 | CLF6045NIT-4R7N-D |
6.8 | ±30% | 100 | 0.027±30% | 2.5 | 3.1 | CLF6045NIT-6R8N-D |
10 | ±20% | 100 | 0.035±20% | 2.1 | 2.6 | CLF6045NIT-100M-D |
15 | ±20% | 100 | 0.060±20% | 1.7 | 2.0 | CLF6045NIT-150M-D |
22 | ±20% | 100 | 0.075±20% | 1.4 | 1.8 | CLF6045NIT-220M-D |
33 | ±20% | 100 | 0.100±20% | 1.1 | 1.6 | CLF6045NIT-330M-D |
47 | ±20% | 100 | 0.130±20% | 0.97 | 1.4 | CLF6045NIT-470M-D |
68 | ±20% | 100 | 0.200±20% | 0.81 | 1.1 | CLF6045NIT-680M-D |
100 | ±20% | 100 | 0.320±20% | 0.61 | 0.86 | CLF6045NIT-101M-D |
150 | ±20% | 100 | 0.480±20% | 0.53 | 0.72 | CLF6045NIT-151M-D |
220 | ±20% | 100 | 0.720±20% | 0.47 | 0.57 | CLF6045NIT-221M-D |
330 | ±20% | 100 | 0.920±20% | 0.36 | 0.49 | CLF6045NIT-331M-D |
470 | ±20% | 100 | 1.300±20% | 0.28 | 0.41 | CLF6045NIT-471M-D |
* 定格電流:Idc1 およびIdc2 のいずれか小さい方の値です。
Idc1: インダクタンス変化率に基づく場合(公称値より30% 低下)
Idc2: 温度上昇に基づく場合(温度上昇40°C)