磁気トナー濃度/残量センサ TSシリーズ
1成分系現像剤と2成分系現像剤
静電記録方式の複写機に用いられている現像剤には1成分系と2成分系があります。1成分系は用紙上に定着するトナー(着色粒子)を現像剤とする方式で、2成分系はトナーにキャリアを混合したタイプです。また、1成分系、2成分系ともに、磁性、非磁性のバリュエーションがあります。
磁性2成分系におけるキャリアの役割
磁性2成分系に使われるキャリアには、トナーを摩擦し帯電させる役割と、トナーを感光体上に搬送する機能を担う役割があります。キャリアの材料としては、耐環境特性、耐摩耗性を強化するための樹脂を表面にコーティングした50~150μm程度の鉄またはフェライトの微粒子磁性粉が一般的に多く用いられています。
このキャリアよりさらに小さな粒径約10μm程のトナーは、キャリアとの摩擦で帯電し、感光体上に静電的に吸着した後、用紙に転写され、高熱ロールで定着されます。一般的にトナーは、バインダー樹脂、着色剤、荷電制御剤、外添剤で形成されます。
また、磁性2成分系の複写メカニズムにおいては、通常トナーだけが消費され、キャリアは回収・再利用されるため、複写を繰り返すたびにトナーとキャリアの混合比がしだいにキャリアリッチとなり (トナー濃度が薄くなり)、良好な画質を維持するためには、しかるべきトナー濃度の制御を行う必要があります。
磁性2成分系のトナー濃度検知方式
現在採用されているトナー濃度の検知、制御方式は、
- 1)トナー濃度(画像濃度)を化学的に検知し、各パラメータにフィードバックをかける方式
- 2)現像剤の透磁率、量、流動性などの変化からトナー濃度を検知し、それを安定化させるようにフィードバックをかける方式
の2つに大別でき、さらに、前者の方式は - 1)-1. 実際に感光体上に基準のバッチ像を作成し、その反射光量により濃度を検知する方法と
- 1)-2. 現像剤を透明な疑似感光体上に現像し、その画像の透過光量により濃度を検知する方式
の2方式があります。また、後者も、 - 2)-1.磁性体の透磁率を利用する透磁率検知方式
- 2)-2.トナー量(かさ) 、流動性を検知する方式
に分類されます(図1)。
TSシリーズの検知方式と駆動原理
現在主流の複写機およびレーザプリンタには、形状とコストの優位性から、上記2)-1.の透磁率検知方式が多く採用されており、TDKのトナー濃度センサー、TSシリーズも、この検知方式を採用しています。
高精度透磁率センサの活用領域
キャリア(鉄、フェライトなどの磁性体)とトナー(非磁性体)の混合比率の変化に応じて増減する現像剤の透磁率。その推移を高精度に検知するTSシリーズの秀逸な感度は、磁性体や導電体の有無(接触、近接度)検知やコロイド濃度、分散度測定など、複写機、レーザプリンタ以外の用途にもこれまでにないメリットを提供します。以下に、TSシリーズのアナログ出力特性例(図2)とアプリケーションモデル(図3)を示します。
磁性体/導電体近接センサ
(カウンタ/選別スイッチ)
磁性体/導電体微粒子濃度センサ、
分散度センサ
駆動原理
TSシリーズの群を抜く出力安定性を確立したTDKの技術的な取り組みについて記します。
透磁率を検知するセンサとしては、コイルのインダクタンス成分を利用するのが一般的です。 これにも周波数型、磁気ブリッジ型など、いくつかの方式がありますが、TDKは差動トランスを使用した磁気ブリッジ型センサを開発、提供し、数多くご採用いただいています。 以下、その動作原理について説明します。
差動トランスのコイル構成を図4に示します。差動トランスは、駆動コイルL1、基準コイルL2、検出コイルL3を同芯に重ねたもので、L1を高周波で駆動すると、
- 差動出力V0=(V2 - V3)
が得られます。
ここで、現像剤の基準濃度における基準コイルL2と、検出コイルL3の出力電圧をそれぞれV20・V30とし、V30=V20となるように巻数比を設計すると、現像剤の濃度変化に対応した検出コイルL3の出力微小変化△V3に対し、
- V0= V20 - (V30+△V3)= - △V3
の関係が成立し、微小変化△V3がそのまま差動出力V0となります。しかし、通常の現像剤では検知面近傍におけるトナー濃度の変化に対応した差動出力△V3が微小なため、電圧の変化として検出するには、かなりの増幅処理が必要となり、センサの安定度が大幅に低下してしまいます。
独自の位相弁別方式
そこで、安定度を損なわずに出力電圧の変化量を拡大する工夫として、△V3の電圧を弁別するのではなく、位相を弁別する回路を開発、適用しました。電圧弁別方式では、差動出力△V3は差動電圧V30 - V20そのものですが、位相弁別方式においては、差動出力△V3の位相が、差動電圧V30 - V20の大きさによって変化するようにします。
すなわち差動出力△V3の位相Pが
P(V20 - V30)>0 → 現像剤の濃度が高いとき
P(V20 - V30)<0 → 現像剤の濃度が低いとき
となるようにします(図5)。
たとえば、基準濃度のとき
V20 - V30=0
とすると、基準濃度を境界として差動出力△V3の位相が逆転します。このとき、差動出力△V3に、位相が90°異なる参照信号Vrを加算し、その合成信号V0の位相変化を位相弁別器で弁別すると、以下に示すとおり、トナーの濃度変化に対し、アナログ的な変化を示します(図6)。
TSシリーズの回路構成
上記の方式によるTSシリーズの回路図とその出力信号例を図7に示します。
この回路図中、ICはすべて排他的論理和ゲートで構成されています。IC1はコルピッツ発振器として動作し、約500kHzでコイルを駆動します。IC2は波形整形インバータとして動作し、差動出力を矩形波に整形します。IC3は位相比較器として動作します。
またC1は、共振用コンデンサで、センサ面に現像剤がないときの出力オフセットを最小にする動きをし、R1は、参照信号を作動信号に加算し、センサ感度を適度に保つ働きをします。