ソリューションガイド

電解コンデンサからMLCCへの置き換えガイド

Vol.1  C0G特性・高耐圧MLCCの特長と置き換えソリューション 概要

電子機器にはさまざまなコンデンサが、それぞれの持ち味を生かして使われています。一般にコンデンサの静電容量と耐電圧(定格電圧)は両立しがたいトレードオフの関係があり、同じサイズで耐電圧を高めると、静電容量が低下する傾向があります。
フィルムコンデンサは高い耐電圧と静電容量をバランスよく備え、また周波数特性や温度特性にもすぐれるため、車載電子機器や産業機器、家電機器などで多用されています。
しかし、近年、温度補償用(種類1)のMLCC(積層セラミックチップコンデンサ)においても、耐電圧と静電容量の拡大はめざましく、特に共振回路などの用途では、従来、一般的にフィルムコンデンサが使用されてきた分野においても、MLCCへの置き換えが可能になっています。
TDKが開発したC0G特性・高耐圧MLCCは、C0G特性で1000Vの耐電圧を業界最高クラスの広い静電容量範囲(1nF~33nF)で実現した製品です。
このC0G特性・高耐圧MLCCの特長をフィルムコンデンサと比較しながら、さまざまな置き換えメリットについて解説いたします。

目次
主要コンデンサの特性

MLCCは誘電体として使用されるセラミック材料の違いにより、種類1(温度補償用)と種類2(高誘電率系)に大別されます。
種類2のMLCCは大容量を特長としますが、温度による静電容量の変化率が大きいという短所があります。一方、種類1のMLCCは、高誘電率系ほどの大容量は得られませんが、温度による静電容量の変化率が小さく、また周波数特性にもすぐれるため、高い精度が求められる回路などで使用されます。

主要コンデンサであるアルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサ、MLCC(種類1および種類2)の定格電圧–静電容量対応領域を図1に示します。

図1 各種コンデンサの定格電圧–静電容量の対応領域

図1 各種コンデンサの定格電圧–静電容量の対応領域

静電容量の大きさにおいては、種類2のMLCCは静電容量100μF超のアルミ電解コンデンサの領域まで達しています。また、種類1のMLCCも、従来はフィルムコンデンサの領域に一部が重なる程度でしたが、近年、高耐圧化と大容量化が進んで、重なる領域が急速に拡大しています。
フィルムコンデンサとMLCCの特性の比較を表1にまとめました。

表1 主要コンデンサの特性比較

フィルム
コンデンサ
MLCC
(種類1)
MLCC
(種類2)
高容量
耐電圧
温度特性
周波数特性
ESL特性
DCバイアス特性
耐湿性
寿命・信頼性
小型化

:すぐれる :良好 :普通

アルミ電解コンデンサは大容量が持ち味ですが、その他の特性ではフィルムコンデンサやMLCCのほうがすぐれています。また、フィルムコンデンサと種類1のMLCCとの比較では、フィルムコンデンサは小型化に難点があり、種類1のMLCCでは大容量化と耐電圧の向上が課題となっていることがわかります。

種類2のMLCCは、温度変化とともに静電容量値が大きく変化するのに対して、種類1のMLCCは、ほぼ直線的な変化を示します。温度に対するこの直線の傾きを温度係数といい、[ppm/°C]の単位で表されます。
JIS規格やEIA規格では、温度係数値とその許容差がクラス分けされています。EIA規格の最も厳格なC0G特性MLCC(種類1)では、–55~+125°Cの温度範囲において、温度係数は0ppm/°C、許容差は±30ppm/°Cと定められています。

図2  C0G特性MLCCと各種コンデンサの温度特性(温度変化による静電容量の変化)の比較

図2  C0G特性MLCCと各種コンデンサの温度特性(温度変化による静電容量の変化)の比較

グラフから明らかなように、C0G特性MLCCは、X7R特性MLCC(種類2)、U2J特性MLCC(種類1)、および各種フィルムコンデンサとくらべて、きわめて安定した温度特性を示しています。

共振回路にC0G特性のMLCCが用いられる理由

コンデンサとコイル(インダクタ)を組み合わせたLC共振回路の共振周波数(f)は、コンデンサの静電容量をC、コイルのインダクタンスをLとして、f=1/2π√LCで表されます。この式からわかるように、共振コンデンサの静電容量の変動は、共振周波数の変動をもたらします。共振周波数が一定せずに揺らいだりすると、伝達すべき波形に歪みが発生して、エネルギーの伝送効率が低下してしまいます。
このため、従来、高電圧で大電流が流れる車載電子機器などの共振回路用途では、温度変化に対して比較的安定しているフィルムコンデンサが使われてきました。
また、上式が示すように、共振周波数が低いほど、より静電容量の大きいコンデンサが必要となります。車載電子機器の共振回路における共振周波数は、数10kHz~数100kHzに設定されていて、耐電圧と静電容量がともに高いフィルムコンデンサが適していたのです。
しかし、前述したように、近年、種類1のMLCCの耐電圧と静電容量の向上はめざましく、フィルムコンデンサからC0G特性MLCCに置き換えるメーカーが増えています。MLCCはフィルムコンデンサとくらべて小型であり、高精度な共振による伝送効率の向上を、省スペースで実現できるなどの特長もあるからです。

《特長》

  • 高い使用温度範囲の上限
    C0G特性は使用温度範囲の上限は+125°Cと高いため、エンジンルーム内の車載電子機器などに最適です。
  • AEC–Q200準拠
    車載用電子部品の信頼性試験や認定基準試験の世界的な規格であるAEC–Q200に準拠した製品です。
  • 小型、軽量、SMDタイプ
    基板に表面実装できる小型・軽量のSMDチップ部品です。大幅な省スペース効果をもたらします。
    このように、フィルムコンデンサとくらべて多くのメリットがありますが、MLCCには以下のような特有の弱点もあり、置き換えにあたっては注意が必要です。

《MLCCへの置き換えの注意点》

  • 基板たわみクラックなどの問題
    基板たわみなどによる応力により、はんだクラックが発生したり、最悪の場合、コンデンサ素体にクラックが発生してショート不良を起こすこともあります。
  • プリント配線板の絶縁距離(沿面距離)の問題
    SMDタイプの小型チップ部品であるため、プリント配線板に表面実装するランドパターンの間隔は狭く、高電圧が加わると使用条件や環境によっては絶縁耐圧が不十分になる場合があります。
リード端子型の採用によるソリューション

MLCCへの置き換えにあたっての前記のような注意点は、リード端子型MLCC(積層型リード付きコンデンサ)を採用することで解決できます。これはMLCCの外部電極に2本のリード線をはんだ接合して樹脂コーティングした構造のラジアルリードタイプのコンデンサです。
リード端子型への置き換えは、MLCCならではの特性に加えて、こうした問題のソリューションとなります。

《リード端子型への置き換えソリューション》

  • リードが基板たわみのストレスを吸収・緩和。
  • リード端子型にすることで、配線パターン間隔を広げることができ、絶縁耐圧を確保することが可能。

リード端子型MLCCについては、
ソリューションガイド
「積層型リード付きコンデンサ・ソリューション」

において、詳しく解説していますのでご参照ください。

図3 SMDタイプからリード端子型(積層型リード付きコンデンサ)への置き換えソリューション

図3 SMDタイプからリード端子型(積層型リード付きコンデンサ)への置き換えソリューション
車載グレードMLCC(積層セラミックチップコンデンサ)CGAシリーズ C0G特性

TDKでは中耐圧MLCC(定格電圧100~630V)、高耐圧MLCC(定格電圧1000V以上)などの各種MLCCを車載グレード・CGAシリーズとして提供しています。このうち、定格電圧1000V、温度特性がC0G特性、静電容量が1nF~33nFの製品として、以下のようなタイプを取りそろえています。
EVや自動運転など、次世代のオートモーティブの発展の鍵となるのは、バッテリを効率的に充電するワイヤレス給電技術です。磁界共鳴式のワイヤレス給電においては、共振コンデンサの特性が電力の伝送効率に大きく関係してきます。耐電圧1000Vを実現したTDKのC0G特性・高耐圧MLCCは、EVのワイヤレス給電における共振コンデンサとして最適の特性を備えた温度補償用(種類1)MLCCです。またESRがきわめて低いことも、C0G特性・高耐圧MLCCの見逃してはならない重要な要素です。TDKでは耐電圧や静電容量範囲の拡大など、製品ラインアップのさらなる充実を図ってまいります。

シリーズ 外形寸法(L×W) 温度特性 定格電圧 静電容量
CGA6
3.2×2.5mm
(EIA 1210)
C0G* 1000V 1nF~22nF
CGA9
CGA9
5.7×5.0mm
(EIA 2220)
C0G* 1000V 10nF~33nF

* C0G:–55~+125°Cにおいて、温度係数が0±30ppm/°C以内