インダクタ(コイル)

テックノート

PoC(Power Over Coax)の通信品質とPoCフィルタ用インダクタ

自動車はインタフェースの高速化・高度化にともない、LVDS伝送の車載カメラシステムなどでは、1本の同軸ケーブルに信号と電源を重畳させるPoC(Power over Coax)化が進行しています。回路側で信号と電源を分離する際には、インダクタ及びチップビーズを使用したPoCフィルタが使用されます。PoCフィルタは通信品質の確保が重要となり、フィルタ構成に使用されるインダクタには低帯域から高帯域までの交流成分に対して高いインピーダンスが要求されます。

PoC(Power Over Coax)の通信品質を確保する必要性

PoCは通信と電源供給を一本の同軸ケーブルで両立させていますが信号と電源を分離する際には、インダクタ及びチップビーズを使用し信号が電源ラインを通過しない様にPoCフィルタを使用した対策が必要となります。
PoCフィルタがシステムの要求を満足できない様なインピーダンス特性のインダクタを使用した場合は通信品質が劣化し、誤作動の原因となってしまい安全性に支障をきたす事が考えられます。

例)
PoCフィルタが伝送品質の確保やEMSなどのノイズ耐性が不足し、通信エラーなどの原因となり、図1の様にカメラからの画像が写らなくなり運転に支障をきたす可能性があります。

図1.通信エラーによりカメラ画像が途絶える
通信エラーによりカメラ画像が途絶える

広帯域で高インピーダンスを実現する製品構造

前章で述べた通信品質の確保にはPoCのノイズ耐性が必要です。その為、PoCフィルタ用インダクタには低帯域から高帯域までの交流成分に対して高いインピーダンスである必要があります。また、通信周波数帯域は数MHz~数百MHz(~数GHzの場合もある)と広い周波数帯域で高インピーダンスが求められます。
既存の多層巻線構造のインダクタ単体では、広い周波数範囲において高インピーダンスを確保できないために複数のコイルを直列接続する必要があります。(図2)
既存の多層巻線構造のインダクタは高インピーダンスを得るために巻数が多くなり、直流抵抗が大きくなってしまう問題点がありましたがTDKのPoCフィルタ用インダクタは1層巻線構造を採用している為、多層巻線構造と比較し、寄生容量が抑えられ共振周波数が高くなっています。(図3)
従って同じインダクタンスにおいて、より高周波数帯域で高インピーダンスを実現しています。(図4)
直流抵抗においても極力小さくなるように設計をしております。
また、PoCフィルタ用インダクタを使用する事で既存のフィルタ構成と比較すると部品点数削減による実装面積の縮小が可能です。
次の章では、この通信と電源供給を両立させるために必要なインダクタ及びチップビーズの選定についてアイパターン波形を例に紹介します。

図2:フィルタを構成した場合の比較
フィルタを構成した場合の比較

多層巻線構造のインダクタでPoCフィルタを構成する場合は高インダクタンス(低周波側)から
低インダクタンス(高周波側)まで複数のインダクタを必要とします

図3:インダクタの多層巻線構造と1層巻線構造の比較
インダクタの多層巻線構造と1層巻線構造の比較
図4:PoCフィルタ用インダクタのインピーダンス特性
PoCフィルタ用インダクタのインピーダンス特性

同じインダクタンスを有する場合でも、PoCフィルタ用インダクタは広周波数帯域で高インピーダンスを確保しています

インダクタ及びチップビーズの選定とアイパターン波形について

ここではPoCフィルタ特性の比較として既存のインダクタとTDKのPoCフィルタ用インダクタでアイパターン波形で比較します。

図5:評価条件
評価条件
PoCフィルタ構成 インダクタの構造 Chip Beads
既存のインダクタによる構成 多層巻線構造 MPZ1608S601ATD25
TDK推奨PoCフィルタ用インダクタによる構成 1層巻線構造 MPZ1608S601ATD25

信号波形評価① 既存インダクタ(多層構造)vs PoCフィルタ用インダクタ(1層構造) / Coaxial cable:1.7m

既存コイル(多層巻構造)単体では信号帯域のインピーダンス確保ができないため、波形品質が悪化してしまいます。

図6:信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:1.7m
信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:1.7m
信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:1.7m

信号波形評価② 既存インダクタ(多層構造)vs PoCフィルタ用インダクタ(1層構造) / Coaxial cable:10m

ケーブル長が長くなると信号が減衰するため電圧値が下がり、アイパターンが閉じてしまいます。また、1.7mの時と比較し更にマージンが無くなります。

図7:信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:10m
信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:10m

信号波形評価③  チップビーズの選定について

PoCフィルタ用インダクタを使用した場合でもチップビーズの選定によって信号帯域のインピーダンス確保ができず、波形品質が悪化してしまいます。 TDKでは推奨組み合わせのチップビーズについてもご提案いたします。

PoCフィルタ構成 巻線構造 Chip Beads
チップビーズの選定が最適ではない場合 TDK推奨PoCフィルタ用インダクタ MPZ1608S101ATD25
TDK推奨のチップビーズによる構成 TDK推奨PoCフィルタ用インダクタ MPZ1608S601ATD25
図8:チップビーズの違いによる信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:1.7m
チップビーズの違いによる信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:1.7m
チップビーズの違いによる信号波形(アイパターン)の比較 / Coaxial cable:1.7m

イミュニティ耐性について

車両内ではカメラや多岐にわたる電子機器が搭載されており、それら電気系統は複数のケーブルで張り巡らされています。車両内は限られたスペースにあらゆるケーブルを束ねて配線する必要がありますが、エンジンやECUといった外部からのノイズがケーブルに印加されて通信エラーを起こす可能性があります。そのため、BCI(Bulk Current Injection)評価といったイミュニティ対策が重要となります。また、正しく選定されていないインダクタやチップビーズを使用すると、通信品質に悪影響を及ぼし、イミュニティ耐性が低くなってしまいます。
本章では、イミュニティ耐性を保つために必要なインダクタ及びビーズの選定についてBCI評価例を紹介します。

図9:BCI試験のセットアップ
BCI測定の評価条件

BCI評価方法

図10:BCI測定の評価条件
BCI測定の評価条件
評価フィルタの製品組み合わせ
PoCフィルタ構成 インダクタの構造 チップビーズ
既存のインダクタによる構成 多層巻線構造 MPZ1608S601ATD25
TDK推奨PoCフィルタ用インダクタによる構成 1層巻線構造 MPZ1608S601ATD25

BCI評価結果

通信波形にマージンが少ない多層巻線構造ではケーブルが長くなる事により通信品質が劣化する為、BCI試験において通信エラーが発生します。 それに対して1層巻線構造では十分なマージンが得られている為、通信エラーの発生は見られません。

BCI評価結果
PoCフィルタ構成 巻線構造 Coax cable length
1.7m 10m 10m(4connection)
既存のインダクタによる構成 多層巻線構造 Pass Fail Fail
TDK推奨PoCフィルタ用インダクタによる構成 1層巻線構造 Pass Pass Pass

まとめ

ここまで説明してきたPoC用インダクタを使用することによって以下の効果が得られます。
●PoCフィルタとして要求されるインピーダンスを、より少ない部品点数で構成する事ができます。
●広帯域で十分なインピーダンスがあり、波形品質及びノイズ耐性が確保されます。
●PoCフィルタ構成時の部品点数の削減により実装面積が約37%の削減の可能となります。(当社比)
●PoCフィルタ構成時の直流抵抗が約50%の削減が可能となります。(当社比)

TDKでは許容電流やフィルタ要求に応じてPoCフィルタ用インダクタを用意しております。
ADL3225V、ADL3225VT、ADM32FSC、 ADM45FDCシリーズは広帯域に対応した製品です。
また、小型のADL2012シリーズ、MDF1005GADシリーズ及び大電流用として、ADL3225VMシリーズ、ADM32FSCシリーズのラインナップを進めています。

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