「USB4®」および「Thunderbolt® 4 」におけるTDK TVSダイオードのシグナルインテグリティ対策 - 高速データラインのESD対策
目次
ESDと保護回路
USBを使用する周辺機器は広く普及しており、そのコネクタは静電気放電(ESD)という環境現象にさらされることがあります。その結果、携帯機器内の繊細な電子回路にダメージを与える可能性があります。この問題を解決するためには過電流をICから遠ざけ、エネルギーを吸収することでICの閾値以下の高い電圧レベルを抑制する保護部品を内部に追加することが標準的なアプローチとなります。これらの保護デバイスは通常、ラインの通信信号を損なわないようにする必要があります。
USB4とThunderbolt® 3は異なる規格で開発されたUSB2.0やUSB3.2とは異なり、USB4 Electrical Compliance Test Specificationに準拠しています。さらに、「Thunderbolt 3」と「Thunderbolt 4」は同じ周波数で使用されるため、同様のESD対策部品で対応が可能です。
USB Type-CコネクタとTDK保護ソリューション
USB インプリメンターズ・フォーラム(USB-IF)が規格策定にあたって定めたのは、一本のUSB Type-Cコネクタでデータ転送、ディスプレイ出力、ロード/ストア機能を可能にしつつ、既存のUSBとの互換性を保持することです。これには、Thunderbolt製品も含まれます(USB Type-CはAlternate(Alt)Mode〔信号線の一部に別規格の信号を流す仕組み〕によって「Thunderbolt 4」(TBT4)システムもサポートしています[参照:www.usb.org]。USB Type-Cコネクタは親機・子機兼用であり、ピンが上下二列に点対称に配列されているため、裏返しても差し込めるという使い勝手のよさが、広く支持されています。但し、こうした端子配列は日常的に静電気放電にさらされやすいため、充分なESD対策を施す必要があります
下図はUSB-C プラグに使用されている 24 本のピンの配置を示したものです。ESD対策は静電気放電の影響を受けやすいコネクタにできるだけ近い場所に設置するのがベストです。そのため、小型で場所を取らず、かつ十分な保護を提供できる過電圧サプレッサデバイスが必要とされます。なお、下記の24本のピンのうち、4 本はグランド接続に使用されるため、対策の必要はありません。 レセプタクル〔機器側のメスコネクタ〕インタフェース[参照:www.usb.org]
USB Type-Cレセプタクルインタフェース(前面図)
A1 | A2 | A3 | A4 | A5 | A6 | A7 | A8 | A9 | A10 | A11 | A12 |
GND | TX1+ | TX1- | VBUS | CC1 | D+ | D- | SBU1 | VBUS | RX2- | RX2+ | GND |
GND | RX1+ | RX1- | VBUS | SBU2 | D- | D+ | CC2 | VBUS | TX2- | TX2+ | GND |
B12 | B11 | B10 | B9 | B8 | B7 | B6 | B5 | B4 | B3 | B2 | B1 |
USB Type-Cプラグは上下反転接続が可能なリバーシブル設計であり、上下二列に「D+/D-」ピンを一対ずつ設けているため、接続されるピンは計18本となります。「D-/D+」は「USB 2.0」までの信号伝送用のピンで、差動信号±ペアの接続に使用されます。よって、レセプタクル側が「USB 2.0」の差動ペアの両方のピン(上下に配置)に配置していればよく、プラグの向きによってどちらか一方のペアのみがアクティブになるかが決まります。
「GND」(Ground Return)ピンは、すべてPCBに接続されるグランドリターンピンです。
Tx/Rx ピンは高速データ用に使用され、これらのピンの保護部品の選定は信号ラインのシグナルインテグリティを考慮し て慎重に選択する必要があります。
「VBUS」(Bus Power)ピンは、高電圧・大電流に対応し、急速充電に使用されます。定格電圧は最大20 V、電流は最大5 Aで、最大100 Wの電力伝送能力を備えています。
USBフル機能搭載Type-Cプラグ(前面図)
A12 | A11 | A10 | A9 | A8 | A7 | A6 | A5 | A4 | A3 | A2 | A1 |
GND | RX2+ | RX2- | VBUS | SBU1 | D- | D+ | CC | VBUS | TX1- | TX1+ | GND |
GND | TX2+ | TX2- | VBUS | VCONN | SBU2 | VBUS | RX1- | RX1+ | GND | ||
B1 | B2 | B3 | B4 | B5 | B6 | B7 | B8 | B9 | B10 | B11 | B12 |
以上のUSB Type-Cポート機能にさらに追加されたのが、「USB PD(パワーデリバリ)」給電規格です。これは、エンドデバイスの急速充電を可能にする規格であり、エンドユーザに大きな利便性をもたらすことが期待されます。下表に示すとおり、「USB PD」の規定電圧は最大48 Vであり、Extended Power Range(EPR)ケーブルとともに使用できます[「USB Type-Cケーブルコネクタ仕様」(May 2021)による]。
電力供給オプションの概要
USB規格〔動作モード〕 | 電圧 | 電流 | 備考 |
---|---|---|---|
USB 2.0 | 5 V | USB 2.0参照 | |
USB 3.2 | 5 V | USB 3.2参照 | |
USB4 | 5 V | 1.5 A | Section 5.3.参照のこと |
USB BC 1.2 | 5 V | 1.5 A1 | レガシーシステム |
USB Type-C Current 電流 @ 1.5 A |
5 V | 1.5 A | 高電力デバイスをサポート |
USB Type-C Current 電流 @ 3.0 A |
5 V | 3 A | 高電力デバイスをサポート |
USB PD | 最大 48 V | 最大 5 A | 方向制御および電力レベルの管理が可能 |
注釈 1:
USB BC 1.2仕様は、0.5Aから1.5Aまでの電流に対応するように供給側を設計することができるのに対し、USB Type-C仕様は、USB BC 1.2をサポートする供給側ポートに対しても、最小で1.5 Aが供給可能であることを求めており、かつ、USB BC 1.2供給側端子のサポートに加えて、USB Type-C Current @ 1.5 A仕様を推奨するよう求めている。
「CC」(Configuration Channel)ピンと「SBU」(Sideband Use)ピンは、接続構成の検出や、Alt Modeでサポートされている他の規格(HDMI規格など)のための予備のラインに使用されます[参照:www.usb.org]。これらのピンは、VBUSピンや差動信号(前述のD+/D-)ピンとともに、いわゆる低速信号のピンです。これに対し、Tx/Rxピンは高速信号専用です。
EUでは近く、すべての周辺機器の給電規格として、USB Type-Cが採用される見通しです。欧州議会は新たな「無線機器指令」(Radio Equipment Directive)の制定により、給電ポートと急速充電技術のハーモナイゼーションをすすめており、通常の立法手続き(共同決定)にもとづき欧州議会および欧州委員会による採択後、24カ月の移行期間を経てUSB Type-CコネクタはEU諸国における標準的な充電器となる見込みです。[参照:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_21_4613]。
USBと給電技術の標準化についてはさらに、IEC 62680-1-2, Ed.5: 2021 "Universal serial bus interface for data and power Part 1-2: Common components - USB Power Delivery specification"と、IEC 63002, Ed.2: 2021 "Interoperability specifications and communications method for external power supplies used with computing and consumer electronics devices" も制定されています。
TDKのTVSダイオードは上記のアプリケーション要件に適合するように設計されています。このサプレッサは、ESD過渡現象に対して堅牢な過電圧保護を提供する必要がありますが同時に通常の動作時には、これらのライン上の信号に障害を与えてはならないため、高速Tx/Rxピンの保護には、特に慎重にESD対策部品を選択する必要があります。この信号のデータレートは、USB4 20Gbpsでは最大20Gb/s、USB4 40Gbpsでは最大40Gb/sで2ペアで使用されます。つまり、1本のラインでは最大10Gb/s、2本のラインでは最大20Gb/sのデータレートを実現します。これらのデータレートに対応する周波数はデータレートを半分にすることでおおよそ算出されます。したがって、このナイキスト周波数は、USB4で使用される40Gbpsのデータレートの場合は10GHz、それより遅い20Gbpsのデータレートの場合は5GHzとなり、下表のようになります。
USBのデータレートおよび周波数
総データレート | データレート(1信号線あたり) | 周波数(1信号線あたり) | |
---|---|---|---|
USB 3.2 Gen1 | 5Gbps | 5Gbps | 2.5GHz |
USB 3.2 Gen2 | 10Gbps | 10Gbps | 5GHz |
USB 3.2 Gen2x2 | 20Gbps (2線) | 10Gbps | 5GHz |
USB 4 20G | 20Gbps (2線) | 10Gbps | 5GHz |
USB 4 40G | 40Gbps (2線) | 20Gbps | 10GHz |
シグナルインテグリティと保護アプローチ
データ線に並列接続されたESD対策部品はある程度の挿入損失を伴います。部品がどの程度信号に影響を与えるかは対応する信号のアイパータンで確認することができます。部品による信号劣化を確認するためには測定・評価を行うことが有効です。正しく評価するためのは標準化された回路を用いて対策部品の有無で信号波形を記録し、そのeyeパターンを比較する試験をおこないます。高周波(HF)信号で動作するよう設計された同一のボードを二つ用意し、下図のように一方にはESD対策部品を実装し、もう一方には実装せずに両ボードに同一のテスト信号を送ってアイパターンを比較します。
その後、同じ試験信号での測定値を比較します。
TDKのULC TVSダイオードはUSB 3.2信号を用いて試験されています。測定はUSB 3.2信号試験およびアイパターン解析の認定を受けている外部ラボ、Eurofins Digital Testingに委託しており、それぞれの信号マスクは下図に示すとおりです。
試験は最悪条件を想定して実施しなければならないために長い伝送路での試験が必要となります。この試験は試験仕様が定めるとおり、Standard-Bレセプタクル、3メートルのケーブル長、追加のPCBトレースを用いておこなわれます。さらに、Micro-B製品とType-C製品を用い、ホストとデバイスにおいて信号品質のもっとも低いチャンネルにもとづく試験も実施されます。TDKのTVSダイオードはいずれの製品もすべての試験をクリアしています。保護部品がUSB 3.2信号でのテストに合格した場合、その部品は、高いデータレートの信号を使用するラインの保護に適しており、ライン上に必要な他の部品のためのマージンが十分にあり、かつ低いデータレートにも対応できることを意味します。
TDKのTVSダイオードは、USB4信号でもテストされています。これらのテストでも同じアプローチがとられ、アイパターンは以下のとおりです。
20Gのアイパターン
20.0G (Rounded) | |
---|---|
TP2_Pass through board 01005 | TP2_With TDK TVSD SDO1005 SL-ULC101 |
TP3_Pass through board 01005 | TP3_With TDK TVSD SDO1005SL-ULC101 |
ここでは、USBコネクタ・ケーブル試験仕様の定めるとおり、コネクタテストポイントTP2およびTP3は以下のようになります。
上図の TP2 と TP3 の間には,USB-C コネクタ (S パラメータでシミュレーション) とパッシブケーブル (ケーブルの想定長は 10 Gbps で 2 m,20 Gbps で 0.8 m) が組み込まれています [ref www.usb.org]。
上記の試験とアイパターン計測に使用される試験信号は公称信号です。ESD保護部品の有無の測定値を比較するとジッター値がわずかに増加しますが、わずかな違いです。この試験結果から、TDKのTVSダイオードは、すべての試験信号で試験をクリアしていることがわかります。
TDKは、USB 3.2 10G、USB4 20Gおよび40G信号に対応する堅牢なTVS ESD保護ダイオードを提供しています。USB 3.2信号およびUSB4のテストレポートは、ご要望に応じてご提供します。
USB 3.2およびUSB4の40G信号に対応するTDK TVS ESD保護ダイオードは、スペースに制約のあるアプリケーション向けに小容量の2サイズが用意されています。
EIA(米国電子工業会)の0201サイズのSD0201SL-ULC101、「ウェーハレベル・チップスケール」(WL-CSP)
過渡電圧サプレッサ - TVS (SD0201SL-ULC101) と WL-CSP パッケージの EIA 準拠のサイズ 01005 の SD01005SL-ULC101 過渡電圧サプレッサ - TVS (SD01005SL-ULC101) 。
部品のパッドレイアウトからわかるとおり、いずれのダイオードも基板のスペースをほとんどとらないうえ、厚さ100 µmの低背パッケージで体積も最小限に抑えており、スペースに制約のあるアプリケーションに最適です。ESD対策は一般に保護回路と並列に部品を配置することでIC を保護するライン上のどこにでも配置することができます。推奨される方法はサプレッサをコネクタの近くに配置してノイズ源にできるだけ近い場所に接続することで発生しうる寄生インダクタンスの影響を最小限に抑えることができます。また、過渡現象発生源側から見てESD保護素子の背後にある部品をすべて保護することが可能です。さらに、リードレスパッケージを採用しているため、ピンの寄生インダクタンスが生じるおそれもありません。また、ダイオードは迅速に動作するためSMD WL-CSP 小型パッケージがESDデバイスにとって大きなメリットです。信号パス全体をみると、チョークコイル、コモンモードチョーク、コンデンサ、ケーブル、プラグ、コネクタなど、信号品質の低下の要因よなる挿入損失の発生源が数多く存在することがわかります。信号線上にある部品はいずれも信号になんらかの影響を及ぼす可能性があります。ESD保護部品は、信号のこうした外乱要因を防ぐ機能を果たす重要な部品であり、過渡的な過電圧、とくにESDからICを安全に保護するのに欠かせません。TDKのTVSダイオードのもう一つの重要な特長として、下図の最悪のシナリオのeyeパターンから、マージンが充分にあることがみてとれます(青紫色の波形の内側)。このマージンは、ESD保護部品による損失とは別に線に沿った追加の挿入損失を導入する部品に使うことができるため、回路設計の自由度を高めるものです。
B74111U0033M060_TVS01005SL datasheet
他の部品の挿入損失容量マージン
「USB4」と「Thunderbolt 4」はいずれも同一の試験仕様 “USB4 Electrical Compliance Test Spec” に依拠するため、試験結果はThunderbolt信号を伝送する信号線にも適用可能です。
製品ラインナップ
既述のUSB Type-CコネクタピンESD保護ソリューションのラインアップを下表にまとめます。
TDK品番 | B74121U0033M060 | B74111U0033M060 | B74121U0055M060 | B74111U0055M060 | B74121G0160M060 | B74121G0200M060 |
---|---|---|---|---|---|---|
製品図 | ||||||
パッケージ | WLCSP 0201 | WLCSP 01005 | WLCSP 0201 | WLCSP 01005 | WLCSP 0201 | WLCSP 0201 |
厚さ | 150 μm | 100 μm | 150 μm | 100 μm | 150 μm | 150 μm |
動作電圧 | 3.3 V | 3.3 V | 5.5 V | 5.5 V | 16 V | 20 V |
クランプ電圧 ITLP = 8A |
3.9 V | 3.8 V | 4.1 V | 3.9 V | 22 V | 26 V |
静電容量 1 MHz |
0.65 pF | 0.48 pF | 0.55 pF | 0.43 pF | 9 pF | 5.3 pF |
ESDレベルの接触放電 | 15 kV | 15 kV | 15 kV | 15 kV | 15 kV | 10 kV |
保護対象のピンの種類 | Tx/Rx | Tx/Rx | D+/D-(Tx/Rx) | D+/D-(Tx/Rx) | VBUS (CCI SBU) | VBUS (CC / SBU) |
品番リスト |
Pins of the USB Type-C connector
関連データシートは以下のリンクから入手可能です
過渡電圧サプレッサ TVS - ICT、民生、高速アプリケーション向け高性能TVSダイオード
以上から、TDK TVSダイオードはESDからICを保護することを目的に設計された最先端のUSB ESD保護部品であり、USB Type-CのESD保護に最適であることがわかります。小型・低背形状で省スペースな上、試験結果が示すとおり、USB規格やその他の高速データレートの信号品質を損なわず、ES対策ではクランプ電圧を低く抑えることで優れた回路の保護性能を発揮します。
備考
USB 4.0 Specificationの詳細については、www.usb.orgをご確認ください。
USB4®、USB Type-C®、USB-C®は、USBインプリメンターズ・フォーラム (USB-IF)の登録商標です。 Thunderbolt®は、Apple Inc.の登録商標です。