世界最小クラスの車載Ethernet用コモンモードフィルタ
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アプリケーションノート

世界最小クラスの車載Ethernet用コモンモードフィルタ

近年の自動車はセンサ系やカメラ系の機器が増え、先進のマルチメディア・情報通信系の車載LANとして、Ethernetの導入が急速に進められています。TDKでは、すぐれたノイズ抑制特性を小型・低背形状で実現した Ethernet用コモンモードフィルタACT45Lシリーズを開発しました。



車載LANの基幹ネットワークとしても期待されるEthernet

車載LANはボディ系、安全系、パワートレイン系、マルチメディア・情報通信系に大別されます。現在、ボディ系を中心に最も普及しているのはCANで、データ転送速度は最大1Mbps(CAN-FDは5Mbps)、パワートレイン系のFlexRayでは最大10Mbpsになりますが、これらの車載LANはデータ転送速度やネットワークという拡張性などにおいて限界があります。

これに対しEthernetは100Mbps以上という高速データ転送速度をもつとともに、基幹ネットワークとして拡張性にもすぐれており、高度なネットワーク・アーキテクチャが可能なため、現在、IVIシステム、ADASを実現するインタフェースとして注目されています。

車載LANにおいては、LINや低速CANを例外として、一般に差動伝送方式が採用されています。差動伝送方式は、基本的に輻射ノイズのレベルも低く、外来ノイズにも強いという特長があり、USB、IEEE1394など、パソコンと周辺機器を結ぶ高速インタフェースとして広く採用されています。しかし、こうした高速インタフェースのケーブルは、ノイズを輻射したり、ノイズを拾ったりするアンテナとして機能します。そこで、そのEMC対策として、インタフェースのコネクタ部にコモンモードフィルタが使用されます。各種車載LANの用途と、そこに使用されるTDKの推奨コモンモードフィルタを図1に示します。

図1:各種車載LANの通信速度とEMC対策に使用されるTDKのコモンモードフィルタ

図1:各種車載LANの通信速度とEMC対策に使用されるTDKのコモンモードフィルタ

IVI(車載インフォテインメント)システムやADAS(先進運転支援システム)を実現するためのセンサ系、カメラ系の電子機器の高速で結ぶ車載LANとして、Ethernetの利用が推進されている。

OPENアライアンスSIG による車載Ethernet規格

コモンモードフィルタは、ディファレンシャルモードの信号電流には影響を与えず、コモンモードのノイズ電流のみを効果的に阻止することができるEMC対策部品です。しかし、自動車内は大電流による強磁界、モータなどによる誘導性ノイズ、点火プラグによる瞬間的なバースト系ノイズなど、劣悪なノイズ環境にあり、車載Ethernet用コモンモードフィルタとしては、従来製品よりも、はるかに高い特性が求められます。

車載Ethernet用コモンモードフィルタに対する要求特性は、標準化団体であるOPENアライアンスSIGにより、“BroadR-Reach”として規格化されています。UTPケーブル(非シールド・ツイストペアケーブル)を用いた差動伝送方式で、データ転送速度100Mbpsという高いパフォーマンスを実現します。安価で軽量なUTPケーブルが使用できるのは、自動車メーカーにとって大きなメリットです。ワイヤハーネスの長さと重量を大幅に削減し、自動車の軽量化と燃費向上に寄与するからです。

車載Ethernet用コモンモードフィルタのモード変換特性

車載Ethernetにおけるノイズ特性や信号品質に関する指標としてSパラメータが利用されています。Sパラメータとは散乱パラメータ(Scattering parameter)の略語で、回路に流れる交流信号を波動としてとらえたとき、その波動の反射や伝送の度合で、回路の特性を表したものです。

図3は2端子対回路(4端子回路)のSパラメータ(ミックスト・モードSパラメータ)の概念図です。簡単化するため順方向のみで説明します。ポート1側からの入射波a1はポート2側にb2として伝送されますが、一部は反射してポート1側に戻ります。このとき、入射波a1に対する伝送波b2の割合は、S21というパラメータで表されます。このパラメータはフィルタ特性でいえば、挿入損失とほぼ同等のもので、一般にdB(デシベル)の単位で示されます。21という表記は、ポート1からポート2への伝送(2←1)を表しています。

図2 車載Ethernetにおけるコモンモードフィルタの役割

図2 車載Ethernetにおけるコモンモードフィルタの役割

車載Ethernetでは安価で軽量なUTPケーブルが使えるのがメリットだが、
コモンモードノイズに対するEMC対策が重要になる。

図3 2端子対回路のSパラメータ(ミックスト・モード)の概念図

図3 2端子対回路のSパラメータ(ミックスト・モード)の概念図

車載Ethernet用コモンモードフィルタにおいては、モード変換特性というパラメータが重要になります(図4)。
たとえば、代表的なScd21というモード変換特性は、ポート1側からポート2側への伝送において、ディファレンシャルモード(d)成分がコモンモード(c)成分に変わるモード変換量(c←d)を表します。簡単にいえば、Scd21が小さいほど、信号電流(ディファレンシャルモード成分)のコモンモード成分への変換が少なく、コモンモードノイズの発生が抑制されることを意味します。

図4 モード変換特性の表記法

図4 モード変換特性の表記法

車載Ethernetの要求特性も余裕をもってクリア

TDKの車載Ethernet用コモンモードフィルタACT45Lシリーズの周波数特性例を図5に示します。ディファレンシャルモード成分は、ほとんど阻止されることなく素通りさせる(Sdd21)のに対して、コモンモード成分は10~100MHz付近で大きく阻止される(Scc21)のがわかります。図6はCAN用の従来製品とACT45Lシリーズとのモード変換特性の比較で、赤い実線は車載Ethernetの要求特性(Class A)です。特性曲線はグラフの下のほうへいくほど、信号(ディファレンシャルモード)がコモンモードノイズに変換されにくい、すなわちコモンモードフィルタとして良好な特性をもつことを表します。ACT45Lシリーズでは、広い周波数範囲にわたってCAN用の従来製品よりも約30dBも特性が改善され、車載Ethernetの厳しい要求特性も余裕をもってクリアしていることがわかります。

さらに、ACT45Lシリーズは、全工程が完全自動化されていて、一貫した高品質・高信頼性を確保しているのも特長です。4532サイズという小型・低背形状で、200μH(at 100kHz)の高いインダクタンス値を維持しながら、きわめてすぐれたモード変換特性を実現できたのも、独自の巻線設計と高精度な自動巻線システムによるものです。

図5 ACT45Lの周波数特性例

図5 ACT45Lの周波数特性例

図6 従来製品とACT45Lのモード変換特性の比較

図6 従来製品とACT45Lのモード変換特性の比較

まとめ

車載カメラからの高画質映像などを自動車の安全・快適走行に利用するための車載LANとして、大容量データを高速伝送できるEthernetの採用が急速に進んでいます。TDKが長年にわたり培ってきたフェライト技術、巻線技術、設計技術などを駆使して開発したのが、車載Ethernet用コモンモードフィルタACT45Lシリーズです。CAN規格対応の従来製品ACT45Bシリーズ/ACT45Rシリーズ、CAN規格/FlexRay規格対応の小型製品ACT1210シリーズなどとともに、車載LAN用コモンモードフィルタの製品ラインアップをさらに充実してまいります。

主な特長・用途・仕様・電気的特性

主な特長

  • 小型・低背タイプ(実装面積4.5×3.2mm、高さ2.8mm)
  • 独自の巻線設計と高精度自動巻線システムにより、200μHの高いインダクタンス値を維持しながら、モード変換特性Scd21の高特性化を実現
  • 完全自動化された製造プロセスにより、一貫した高品質・高信頼性を確保
  • はんだレス設計
  • AEC-Q200準拠
  • RoHS指令、鉛フリーはんだ対応

主な電気的特性

  • 車載カメラからの映像情報や音響情報をはじめとする車内環境用EthernetシステムにおけるEMC対策。

主な電気的特性

製品名 コモンモードインダクタンス
at 100kHz[μH]typ.
直流抵抗
[Ω]max.
定格電流
[mA]max.
絶縁抵抗
[MΩ]max.
定格電圧
[v]max.
ACT45L-201-2P-TL000 200 4.5 100 10 50