プロダクトオーバービュー MEMSマイクロフォンT4064/T4081

録音や音声による状況認識まで、用途の広がるMEMSマイクロフォン

近年のスマートフォンなどには、MEMS(微小電気機械システム)技術を利用したMEMSマイクロフォン(以下、MEMSマイクと略)が多用されるようになりました。また、スマートフォンばかりでなく、ウエアラブル製品、アクションカメラやデジタルカメラなど、周囲の状況を音で認識する機能や録音機能をもつ電子機器で、MEMSマイクのさらなる小型化や音響特性の向上が求められています。また、音声認識インターフェースの利用にも、高性能のマイクロフォンは必須です。TDKでは、こうした先進ニーズに応えて、SAWデバイスなどで培ったCSMP(チップサイズMEMSパッケージ)技術を駆使して、MEMSマイクのさらなる小型・低背・高性能化に成功しました。

図1 TDK MEMSマイクロフォンT4064/T4081
図1 TDK MEMSマイクロフォンT4064/T4081 T4064タイプ(極小製品)
T4064タイプ(極小製品)
図1 TDK MEMSマイクロフォンT4064/T4081 T4081タイプ(高耐入力製品)
T4081タイプ(高耐入力製品)

MEMSマイクは、音響センサ(音響トランスデューサ)であるMEMSチップと、信号処理するICチップをアセンブリしてパッケージングした小型マイクロフォンです。MEMSチップは半導体製造技術を応用して、フォトリソグラフィやエッチングなどにより、シリコンウエハに微細構造を形成してチップ化されます。サイズは数mm程度と小さく、スマートフォンには3個ほどのMEMSマイクが搭載されています。また、ハンズフリー通話用のイヤホンマイク、ノイズキャンセリング機能のついたヘッドフォンなどにもMEMSマイクが使用されています。

信頼性・耐久性にすぐれたメタルキャップを採用の第2世代パッケージ

T4064およびT4081においては、TDK MEMSマイクの第2世代にあたる新パッケージを取り入れています。図2は、その内部構造の概略です。マイクエレメントであるMEMSチップと信号処理するASICをセラミック基板に実装し、ポリマーフォイルで封止してから、キャップをかぶせた構造となっています。T4064およびT4081においては、従来の樹脂キャップにかわりメタルキャップを採用しています。

図2 TDK MEMSマイクの基本構造
図2 TDK MEMSマイクの基本構造

MEMSマイクはサウンドホールを通じて外部環境とつながっています。サウンドホールとMEMSチップのバックチャンバー(空洞部)の間には、ダイヤフラム(振動電極板)とバックプレート(固定電極板)が、わずかな空隙を隔てて配置されています。
ダイヤフラムとバックプレートは平行平板型コンデンサのように作用し、音圧によってダイヤフラムが振動すると、バックプレートとの空隙長が変わって静電容量が変化します。MEMSマイクは、この変化を電気信号として取り出す静電容量型と呼ばれるタイプのマイクロフォンです。
図3にMEMSマイクの回路をブロック図で示します。チャージポンプはバックプレートにバイアス電圧を供給する昇圧回路で、センサ信号はプリアンプに送られて増幅などの処理をしてから出力します。

図3 MEMSマイクの回路ブロック図
図3 MEMSマイクの回路ブロック図

さらなる小型化と音響特性の向上を両立させたT4064

TDK MEMSマイクT4064は2.7×1.6×0.89mm(L×W×H)いう極小・低背を特長とし、従来最小品であるT4063タイプとくらべて、実装面積を約15%削減しつつ、音響特性をいちだんと向上させた製品で、スマートフォンはじめ、イヤホンマイク、ヘッドセットなどの用途に最適です。
マイクロフォンの主要な音響特性として、感度、ダイナミックレンジ、周波数特性などがあります。
マイクロフォンの感度は特定の音圧を加えたときの出力電圧の大きさで示されます。MEMSマイクにおいては、同じ音圧に対して、ダイヤフラムの変位量が大きいほど、高感度なマイクロフォンとなります。このため、一般にMEMSマイクを小型化すると、ダイヤフラムの面積は小さくなって感度は低下する傾向があります。
ただし、MEMSマイクの感度には、ダイヤフラムの面積ばかりでなく、材質、厚み、内部応力、バックプレートとの距離などが関係してきます。TDKのMEMSマイクT4064はきわめてフラットな周波数特性をもち、低周波から超音波までをカバーしているため、測定用途としても応用できます。

ジェットエンジンの轟音なみの大音量にも音割れを起こさないT4081

また、TDK MEMSマイクT4081 (3.35x2.5x0.95mm)は、ダブル・バックプレートという革新的設計の採用により、130dBの大音量でも音割れしない高耐入力性が特長です。

マイクロフォンが拾える最大検出音圧と最小検出音圧の比率を、dB単位で表したのがダイナミックレンジです。マイクロフォンには、できるだけ高感度でダイナミックレンジが広いことが求められます。しかし、感度とダイナミックレンジはトレードオフの関係があります。
MEMSマイクにおいても、小さな音でも拾えるように高感度にすると、ダイヤフラムの変位量が増して、許容音圧レベルは低くなり、ダイナミックレンジは狭くなります。このため、大音量が入ってきたときには、出力信号の歪みが大きくなって音割れを起こします。
逆に、大音量でも歪みが少なくなるようにダイヤフラムの変位量を抑えると、許容音圧レベルは高くなり、ダイナミックレンジも広くなりますが、感度は低下してしまいます。
出力信号の歪みの度合は、一般にTHD(Total Harmonic Distortion:全高調波歪み率)で表されます。
図4はTDK MEMSマイクT4064およびT4081のTHD-SPL(音圧レベル)特性です。THD-SPL特性は、一般にTHDが1%を超えるまでの最大SPLで表されます。T4064は110dBまで1%以下のTHDを保っています。110dBというのは、電車が通過するときのガード下など、きわめて騒がしく感じられるレベルです。T4064は、このような大音量でも音割れすることなく拾える特性をもっています。

図4 T4064とT4081のTHD-SPL特性比較
図4 T4064とT4081のTHD-SPL特性比較

グラフが示しているように、T4081のTHD-SPL特性は驚異的で、130dBまで達しています。これは至近距離のジェットエンジンが発する音のレベルで、肉体的な苦痛を感じるほどの轟音です。したがって、ライブのロックコンサートのような大音響も、T4081では音割れすることなく拾うことができます。
このような驚異的な音響特性を可能にしたのは、T4081のMEMSチップの音響センサ部に、ダブル・バックプレートという革新的な設計を採用したことにあります。
図5に一般的なシングル・バックプレートと、T4081に採用したダブル・バックプレートの構造を示します。シングル・バックプレートは、ダイヤフラムに対して1枚のバックプレートが対向配置された非対称的な構造です。これに対して、ダブル・バックプレートは、ダイヤフラムの両側に2枚のバックプレートを対向配置した対称構造となっています。

図5 一般的なシングル・バックプレートMEMSと新設計のダブル・バックプレートMEMSの構造
図5 一般的なシングル・バックプレートMEMSと新設計のダブル・バックプレートMEMSの構造

図6に示すように、シングル・バックプレートにおいては、音圧が加わらないゼロSPLの状態においても、バイアス電圧の静電気力(クーロン力)によって、ダイヤフラムは片側(バックプレート側)に変位しています。この状態から音圧が加わると、ダイヤフラムは非対称に変位し、音圧が高まるとともにTHDが大きくなって、音割れを起こすことになります。
一方、ダブル・バックプレートにおいては、音圧が加わらないゼロSPLにおいて、静電気力はダイヤフラムの両面に均等に作用するので、ダイヤフラムに変位はありません。また、音圧が加わってもダイヤフラムは対称的に変位するので、すぐれたTHD-SPL特性をもち、大音量でも音割れしない高耐入力性を示します。また、このTHD-SPL特性と高いS/N比(66dB(A))により、遠隔音源でも良好な音質での録音を可能にします。

図6 ダブル・バックプレートMEMSが音割れを起こしにくい理由
図6 ダブル・バックプレートMEMSが音割れを起こしにくい理由 <シングル・バックプレートMEMSの場合>

《シングル・バックプレートMEMSの場合》

音圧が加わらないゼロSPLの状態でも、バイアス電圧の静電気力(↓)によって、ダイヤフラムは片側に変位しています。

この状態で大音量が加わると、ダイヤフラムは大きく非対称に変位することになり、THDが大きくなって音割れが起きやすくなります。

図6 ダブル・バックプレートMEMSが音割れを起こしにくい理由 <ダブル・バックプレートMEMSの場合>

《ダブル・バックプレートMEMSの場合》

音圧が加わらないゼロSPLの状態において、バイアス電圧の静電気力(↓↑)は、ダイヤフラムの両面に均等に作用するので、ダイヤフラムに変位はありません。

この状態で大音量が加わっても、ダイヤフラムは対称的に変位するので、THDが抑制され、音割れは起きにくくなります。

TDK MEMSマイクT4081は、ハイエンドのスマートフォンほか、ANC(アクティブ・ノイズキャンセリング)機能をもつイヤホンマイクやヘッドセットなどにも最適です。ANCとは、マイクが拾った周囲の雑音と逆位相の信号を処理回路でつくり、雑音と重ね合わせて消去する機能です。
T4081は高S/N比・高耐入力タイプかつ小型形状なので、ヘッドフォンのイヤーカップなどにも、スピーカーやANC回路とともにコンパクトに収納できます。等価雑音(自己雑音)レベルは30dB以下と低く、普段は低出力で使用できるので、バッテリの節約につながります。また、最大SPLは130dBにも及ぶため、騒音環境下で出力を高めても音割れを起こしません。

TDK MEMSマイクロフォンT4064/T4081の主な仕様・電気的特性

TDK MEMSマイクロフォンT4064/T4081は、SAWデバイスなどの製造で培ったMEMS技術やパッケージング技術を応用した製品です。製品ラインアップのうち、本記事でご紹介したT4064は業界最小クラス、T4081は高耐入力性という特長があり、お客様の用途に合わせて、お選びいただけます。

■主な仕様・電気的特性
タイプ T4064(TDK 最小製品)
T4064(TDK 最小製品)
T4081(高耐入力製品)
T4081(高耐入力製品)
品番 MMIC271609T4064 MMIC332509T4081
寸法 2.7×1.6×0.89mm 3.35×2.5×0.95mm
S/N比 61.5dB(A)(20~20kHz)
66dB(A)(20~20kHz)
THD 1% 110dB SPL 130dB SPL
周波数特性:T4064
周波数特性:T4081