ワイヤレス給電製品
目次
ワイヤレス給電の方式と規格
電子機器に内蔵された二次電池の充電を、コードレス・無接点で実現するワイヤレス給電(Wireless Power Transfer:非接触給電、無接点電力伝送などとも呼ばれます)の普及が急速に進んでいます。
TDKではスマートフォンやノートパソコンなどに向けた低出力・中出力のワイヤレス給電、産業機器やEV(電気自動車)などに向けた、よりハイパワーのワイヤレス給電への対応ほか、超小型・薄型のウェアラブル機器/ヘルスケア機器向けなど、多種多様なワイヤレス給電製品を提供しています。
ワイヤレス給電はさまざまな方式がありますが、現在の主流は磁界結合により電力伝送する電磁誘導式と磁界共鳴式です(図1)。
ワイヤレス給電の主な規格としては、標準化を推進する業界団体WPC(Wireless Power Consortium)のQi、AirFuel Alliance(2015年、A4WPとPMAが合併して誕生した業界団体)のAirFuelなどがあります。
TDKはWPCおよびAirFuel Allianceの加盟企業で、電磁誘導式や磁界共鳴式など、ワイヤレス給電に必要な技術の研究開発を早くから進め、各種仕様に対応したワイヤレス給電用コイルなどを製品化して提供しています。
以下では電磁誘導式のワイヤレス給電の原理や要素技術や電磁誘導式をベースとしながら正確な位置合わせの必要がなく(ポジションフリー)、かつ複数の小型電子機器の同時充電を可能にするTDKの新開発ワイヤレス給電システムをご紹介しています。
電磁誘導式と磁界共鳴式のメリットとデメリット
電磁誘導式と磁界共鳴式のワイヤレス給電は、送電コイルが発生する磁界を受電コイルが受け取ることで、非接触で電力伝送する方式です。置くだけでスマートフォンなどを無接点で充電できる充電スタンドが多数市販されていますが、これは電磁誘導式(低電力向けQi規格など)のワイヤレス給電を利用したものです。電磁誘導式のワイヤレス給電は、以前から電気シェーバやコードレスホンなどに広く利用されてきた技術です。原理も構造もシンプルで、低コストでシステムを実現できるのが長所ですが、送電コイルと受電コイルの対向距離を大きくすると、電力伝送効率が急激に低下してしまうため、コイルどうしを近接しなければないという難点があります。
一方、磁界共鳴式のワイヤレス給電は、送電側と受電側にコンデンサを挿入してLC共振回路を形成し、送電側と受電側の共振周波数を一致させて電力伝送する方式で、コイルの対向距離を大きくとることができ、また、コイルどうしの中心が多少位置ずれしても電力伝送できるのがメリットです。このため、複数台のモバイル機器を同時充電する充電パッドなども可能にします。
電磁誘導式と磁界共鳴式の基本回路と双方の特長を図2にまとめました。
電磁誘導式 | 磁界共鳴式 | |
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給電可能距離 | 10mm以下(*) | 50mm以下(*) |
システム構成の難易度 | 比較的容易 | 比較的困難 |
システムコスト | 比較的安価 | 高価(見込み) |
製品サイズ | 小型化可能 | 小型化困難 |
同時充電台数 | 1対1 | 複数充電可能 |
磁界共鳴式は給電可能距離を大きくできるとともに、走行しながらEVのバッテリ充電も可能にするため、近年、にわかに注目を集めるようになったワイヤレス給電技術です。しかし、磁界共鳴式はシステムが複雑なため小型化が困難で、ウェアラブル端末や補聴器といった小型電子機器のワイヤレス給電は、やはり電磁誘導式が有力な選択肢となります。そこで、電磁誘導式のワイヤレス給電の原理と技術をもう少し踏み込んで解説することにいたします。
電磁誘導式のワイヤレス給電の伝送効率を左右する要因
電磁誘導式のワイヤレス給電においてコイルどうしを近接する必要があるのは、コイルが離れるにつれ、磁束の一部が漏れ磁束(リーケージ・フラックス)となって伝送されず、2つのコイルが磁気的な結合が弱まっていくからです(図3)。
送電コイルおよび受電コイルのインダクタンスをそれぞれL1、L2、2つのコイル間の相互インダクタンスをMとすると、この磁気的な結合の度合は、結合係数kとして、次の式で表されます。
k=M/√L1・L2
2つのコイルのインダクタンスと相互インダクタンスには、L1・L2≧Mという関係があるため、結合係数は0≦k≦1の範囲の値となります。漏れ磁束がない理想的な場合の結合係数は1ですが、現実には1未満の値となり、コイル間距離が大きいほど、漏れ磁束も多くなって結合係数は低下し、ついには0となります。
このため、電磁誘導式のワイヤレス給電は、1未満の結合係数の状態でも、できるだけ損失を少なくして電力伝送効率を向上させることが主眼となります。
また、送受電コイル部において、電力伝送効率を低下させる主な要因として銅損と鉄損があります。
銅損 | コイルの導線に流れる電流によって生じる損失です。導線の直流抵抗が小さいほど損失が少なくなります。ただし、電磁誘導式のワイヤレス給電システムでは高周波の交流電流が使用されます。交流電流は周波数が高くなるにつれ、導線の内部を流れず表面を流れるようになり(表皮効果)、実効断面積が小さくなって電気抵抗が増大します。被覆絶縁した多数の細い線材を撚(よ)って束ねたリッツ線が、送受電コイルに使用されるのは、この表皮抵抗による損失を低減するためです。 |
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鉄損 | もともとはコイルが発生する磁力線を集束させるトランスのコア(磁心)において生じる損失のことをいい、渦電流損、ヒステリシス損などがあります。ワイヤレス給電でも送受電コイルにはトランスコアに相当する磁性シートが用いられます。後述するように、その特性は電力伝送効率に深く関係してきます。 |
先進の磁性技術が投入されたTDKのワイヤレス給電用コイル
スマートフォンなどの充電に利用される電磁誘導式のワイヤレス給電システムにおいて、主に高周波(おおむね100~200kHz)が使われるのは、この周波数帯において高い電力伝送効率が得られるからです。しかし、コイル間隔はもちろん、コイル中心のわずかな位置ずれによっても電力伝送効率は低下します。このため送電コイルと受電コイルの正確な位置合わせが、きわめて重要となります。
正確な位置合わせを実現するため、たとえばWPCの低電力(最大5W)向けQi規格(Volume Ⅰ Low Power)では、以下の3つの方法に関する仕様が規定されています。
①マグネットアライメント方式 | マグネットの吸引力を利用して位置合わせする方式。 |
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②ムービングコイル方式 | 充電対象となる機器を検出して、その位置まで送電コイルを何らかの駆動装置で移動させる方式。 |
③コイルアレイ方式 | 多数の送電コイルを配列しておき、置かれた機器直下の送電コイルを作動させる方式。 |
これら3つの方式のうち、最も単純なのは、①のマグネットアライメント方式です。ただし、この方式は送電コイルの中心に配置したマグネットの磁力により、受電コイル中央に配置した磁性体を引き付けて位置合わせするため、後述するように磁気回路の設計において考慮すべき課題があります。
また、受電コイルは上記3つの方式のすべてで正常に動作できなければQi規格の認定を受けることができません。そこで、TDKでは、まずマグネットアライメント方式に対応したTx(送電)コイルユニットとRx(受電)コイルユニットを設計して製品化し、さらに、この設計に基づいてムービングコイル方式とコイルアレイ方式に対応した製品も開発してきました。WPC準拠のTDKのTxコイルユニット(例)を図4に示します。
寸法・WPC仕様:Φ50mm(A10)
寸法・WPC仕様:52×52mm(A1、A9)
寸法・WPC仕様:100×56mm(A6)
慎重な設計が求められる磁性シートの材質と厚み
ワイヤレス給電に対応したスマートフォンなどのモバイル機器においては、搭載される受電コイルと磁性シートは、可能なかぎり薄くすることが求められます。しかし、磁性材の特性と厚みは慎重に設計する必要があります。磁性シートを薄くしすぎると、磁気飽和の問題が起きてくるからです。磁気飽和するとコイルのインダクタンスが突然低下し、ワイヤレス給電動作の障害につながるおそれがあります。
また、受電コイルの搭載場所によっては異常発熱を起こす可能性もあります。たとえば受電コイルがバッテリに近接して搭載された場合、磁性シートの磁気シールド特性が不十分のままでは、高周波の磁束が磁性シートを貫通してバッテリケースまで届いてしまいます。通常、バッテリケースはアルミニウム製なので、高周波磁束によってケース表面に渦電流が発生し、それにともなう鉄損による電力伝送効率の低下のみならず、異常発熱するおそれがあるのです。とりわけ万全の磁気シールドが必要となるのは、マグネットアライメント方式の受電コイル側です。この方式では、送電コイルから送られてくる高周波の磁束に加えて、マグネットからの磁束も吸収・シールドする必要があるからです。
磁気シールド特性に深く関わるのは、磁性シートに用いられる軟磁性材料です。TDKのワイヤレス給電用の送電コイルユニットや受電コイルユニットの磁性シートには、トランスやチョークコイルのコアなどに使われている高周波用の高特性フェライトや軟磁性金属材料を採用しています。これにより、効率よく磁力線を集束して電力伝送効率を上げるとともに、ノイズの発生も抑制します(図5)。
ワイヤレス給電システムは、出力の大きさに応じて、さまざまな規格が策定されています。
WPCでは2010年に策定した低電力(最大5W)向けQi規格(Volume Ⅰ Low Power)に続き、2015年、中電力(5~15W)向けのQi規格(Volume II Medium Power)が策定されました。
TDKではスマートフォンやノートパソコン向けの低出力・中出力タイプ、および15W以上の高出力タイプへの対応ほか、超小型・薄型のウェアラブル機器やヘルスケア機器のワイヤレス給電に向けた2W未満の超低出力の小型コイルもカスタム規格製品として各種開発してきました。
TDKのワイヤレス給電関連製品の出力タイプとその主な用途を図6に示します。
超小型・薄型のウェアラブル機器やヘルスケア機器のワイヤレス給電の方式としては、前述したように原理も構造もシンプルな電磁誘導式が有力な選択肢となります。しかし、従来型の電磁誘導式では1台ごとにしか充電できないという短所があります。そこで、TDKでは、電磁誘導式をベースとしつつ、その短所を克服した小型・低出力ワイヤレス給電システムを新開発しました。
ウェアラブル機器・補聴器などのワイヤレス給電に求められる技術
腕時計型、リストバンド型、アクセサリ型など、さまざまなウェアラブル機器が登場していますが、こうした小型電子機器においては、モバイル機器とくらべて搭載されるバッテリが小さいため頻繁な充電が必要です。また、コネクタ差し込み式や接点式など充電方式では、端子の破損や腐食による充電不良といった問題があります。
電磁誘導式のワイヤレス給電は、こうした問題を解決し、小型化への対応も容易なのがメリットです。しかし、従来のような電磁誘導式では送電コイルと受電コイルの位置精度が厳しく、複数同時充電が困難などの問題をかかえていました(図7)。
こうした問題のソリューションとして、TDKが新開発したのが、小型・低出力ワイヤレス給電システムです。
電磁誘導式のワイヤレス給電の技術をベースとしつつ、電磁誘導式の弱点である給電時の位置決め性を改善するとともに、複数製品の同時充電も可能にする画期的なシステムです。
図8に示すのは、MEDTEC 2016で参考出品した小型・低出力のワイヤレス給電システムの試作例です。ポット型の送電ユニットに、受電ユニットを投入するだけで、位置合わせする必要なく(ポジションフリー)、自動的に充電が開始されます。しかも、複数同時充電できるので、小型ウェアラブル機器ばかりでなく、小さなボタン電池を用いている補聴器などでも、わずらわしい電池交換から解放されて、きわめて便利です。また、完全防水への対応も可能になり、容易に洗浄や滅菌ができるようになります。
- 充電時のわずらわしさを解消
(投入するだけで充電開始、ポジションフリー) - 複数台の同時充電が可能
- 製品サイズに影響しない超小型ワイヤレス給電システム
- コネクタ浮揚により完全防水対応が可能
- 送受電システム提供による最適充電環境の提案が可能
図8 TDKが新開発した小型・低出力ワイヤレス給電システム(試作例)
また、近年、指紋認証機能やディスプレイ機能などを搭載した高機能なICカード(スマートカードやディスプレイカードなどと呼ばれます)が利用されるようになりました。こうした高機能ICカードは、消費電力が大きいために、内蔵された二次電池への頻繁な充電が必要になります。図9に示すのは、高機能ICカードを10枚まで複数同時充電でできるTDKのワイヤレス給電システムの試作例です。1枚ずつ充電するシステムとくらべて、時間が大幅に節減できます。
高機能ICカード(スマートカード、ディスプレイカードなど)を10枚までワイヤレスで同時充電。
図9 複数の高機能ICカードを同時充電するワイヤレス給電システム(試作例)
TDKの小型・低出力ワイヤレス給電システムの特長
ウェアラブル機器やヘルスケア機器、補聴器などの小型電子機器に向けた電磁誘導式のワイヤレス給電システムには、磁性材料技術、磁気回路設計技術、高周波技術、シミュレーション技術など、さまざまな技術が求められます。フェライトを原点とする素材技術はじめ、長年にわたって蓄積した総合的なコアテクノロジーを有するのがTDKの強みです。TDKでは小型・低出力ワイヤレス給電システムに必須である小型コイル(送電コイル、受電コイル)、制御回路と一体化したコイルモジュールなど、お客様のニーズに合わせて最適化した高効率システムをご提供いたしております。
《TDKの小型・低出力ワイヤレス給電システムの特長》
- 超小型コイル技術:機器の形状に応じた超小型送受電コイルを開発・提供します。
- カスタム送受電システム開発:最大効率を実現するシステム提案可能です。
- 高特性フレキシブル磁性シート:TDKの豊富な磁性材料から最適材をセレクトできます。
- カスタム出力対応:さまざまな出力に設計対応可能です。