ソリューションガイド
電子機器の高速化・高周波化とともに、ノイズフィルタ用途やデカップリング用途に使用されるコンデンサや3端子貫通型フィルタには、さらなる低ESL(等価直列インダクタンス)特性が求められています。また、自動車の電装システムにおいても、安全・快適性の向上やインフォテインメント化に対応するため、低ESLタイプのニーズが高まっています。TDKの先進の低ESL部品による車載電子機器に向けた各種ソリューションをシリーズでご紹介します。
3端子貫通型フィルタによる車載電子機器の電源ラインのノイズ対策 概要
自動車の電装システムにおいては、従来の「走る・曲がる・止まる」という基本機能に関わる用途に加え、衝突被害軽減ブレーキ、レーンキープアシスト、歩行者検知など、「安全」に関わる用途で、画像認識技術と融合した車載カメラシステムやミリ波レーダーシステムなどの搭載が増加しています。こうした先進運転支援システム(ADAS)を担う車載電子機器は、大容量のデータを高速処理する必要があるため、発生するノイズもより高周波化しています。
さらに近年、車載電子機器の電源ラインでは、5Aを超えるような比較的大きな電流下でのノイズ抑制も求められるようになっています。大電流電源ラインのEMC対策としては、従来、コンデンサやインダクタ、チップビーズなど、複数素子を組み合わせたフィルタ回路で対応してきました。TDKの車載用3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズは、材料や設計の最適化などにより、車載電子機器向けに特化して開発した高信頼性・大電流対応のEMC対策部品です。小型ながら広帯域で良好な減衰特性をもつため、複数素子のフィルタ回路と同等のノイズ抑制効果を1素子で実現できます。
図1 :先進運転支援システム(ADAS)の構成(イメージ)
車載電子機器の電源ラインのEMC対策部品に要求される特性
低ESL特性が求められる理由
電子機器の電源ラインのノイズ対策用として、コンデンサは最も基本的な電子部品です。コンデンサは周波数の高い交流電流ほど通しやすい性質があり、電源ラインとグランドをコンデンサを通してつなぐことで高周波ノイズをグランド側にバイパスして分離します。
理想的なコンデンサはキャパシタンス(C)のみをもつ素子ですが、現実には端子電極、内部電極などによる抵抗成分(R)やインダクタンス(L)ももっています。これをESR(等価直列抵抗)およびESL(等価直列インダクタンス)といいます。このため、コンデンサは自らのキャパシタンスとESLによって、LC共振回路として作用してしまいます。この周波数を自己共振周波数(SRF)といい、コンデンサのインピーダンスは自己共振周波数を境に減少から上昇に転じ、インピーダンス-周波数特性はV字型のカーブを描きます。つまり、コンデンサのインピーダンスは、自己共振周波数まではキャパシタンスで決まる容量性領域ですが、自己共振周波数を超えるとESLで決まる誘導性領域となり、インダクタとしての働きが支配的になります。
したがって、高周波ノイズ除去用のコンデンサとしての特性は、ESRやESLが低く、自己共振周波数がより高いものが求められます。前述したように、ESRやESLは端子電極や内部電極の抵抗成分やインダクタンス成分によるものです。そこで、通常の2端子MLCC(積層セラミックチップコンデンサ)の端子電極の長手方向と幅方向を逆転(フリップ)し、電流方向を太く短くすることで低ESL化を図ったフリップコンデンサもノイズ対策用として有効な手段です。
こうした2端子MLCCよりも、さらに低ESR・低ESLを実現したのが、TDKの3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズです。図2はTDKの2端子MLCC(低ESL製品)、フリップコンデンサ、そして3端子貫通型フィルタのインピーダンス-周波数特性およびESL値の比較例です。
図2 :TDKの代表的な低ESL製品のインピーダンス-周波数特性の比較例
AEC-Q200対応の高耐久性の3端子貫通型フィルタ
TDKの車載用3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズは、高温・高湿環境や熱衝撃などに対して、すぐれた耐久性をもつAEC-Q200対応品です。表1は民生用途と車載用途での要求される試験条件の比較例です。2端子品で蓄積した技術・ノウハウを生かし、材料・設計の最適化を図って開発したTDKの車載用3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズは、民生用途よりもはるかに厳しいAEC-Q200の要求試験条件をクリアしています。
表1 :民生用途と車載用途の3端子貫通型フィルタに要求される試験条件の比較例
民生用途 | 車載用途 | |
---|---|---|
温度サイクル試験 | -55〜85℃ / 5cycles | -55〜125℃ / 1,000cycles |
耐湿負荷試験 | 40℃ / 90〜95%RH / 500h | 85℃ / 85%RH / 1,000h |
高温負荷試験 | 85℃ / 1,000h | 125℃ / 1,000h |
3端子貫通型フィルタの構造と原理
すぐれた低ESL特性を実現する内部電極構造
3端子貫通型フィルタの構造や原理について、少し詳しく解説します。3端子貫通型フィルタの外観、等価回路および内部構造の概念図を図3に示します。一般に3端子と呼ばれますが、実際は2つの端子電極と2つのグランド電極からなり、内部は通電用内部電極とグランド用内部電極を交互に積層した構造となっています。
図3 :3端子貫通型フィルタの外観、等価回路、内部構造
図4は電源ラインにフィードスルー接続した3端子貫通型フィルタにおけるノイズ電流の流れを表したものです。電源ラインから通電用内部電極に流入したノイズ電流は、グランド用内部電極を経由してグランドへとバイパスされます。貫通型構造により、コンデンサとグランドの距離が短くなって低ESL化するとともに、2つのグランド電極の並列効果により、さらに低ESL化してノイズ抑制効果が大幅に高まっています。
図4 :3端子貫通型フィルタの電源ラインへの実装とノイズ電流の流れ
車載電子機器の電源ラインにおける3端子貫通型フィルタのEMCソリューション
ソリューション:高速スイッチングにともなう高調波ノイズ対策
TDKの3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズを用いた車載電子機器の電源ラインのノイズ対策を、評価・測定事例に沿ってご紹介します。
車載電子機器の電源の主流であるDC-DCコンバータは、半導体素子のON/OFFにより、直流電流を高周波のパルスにして電圧変換するスイッチング方式の電源です。このパルスはスイッチング周波数の正弦波と、その整数倍の正弦波である高調波からなるため、無対策のままでは高次の高調波成分がノイズの原因となります。
CMOSインバータ(NOTゲート)を用いた評価回路(図5)により、3端子貫通型フィルタの高調波ノイズ抑制効果を確認してみました。電源ラインに2端子MLCCを挿入した場合と、3端子貫通型フィルタを挿入した場合とに分けて、CMOSインバータにスイッチング周波数40MHzのパルスを送ったときに発生する高調波を調べてみました。入力ラインで測定された電圧波形、およびそのデータをスペクトラム・アナライザでフーリエ変換して得たノイズスペクトルを以下に示します。2端子MLCCでは40MHzの整数倍の高調波ノイズが顕著に立ち上がっていますが、3端子貫通型フィルタを挿入した場合は、高調波ノイズは大幅に抑制されています。
図5 :3端子貫通型フィルタによる高調波ノイズ抑制効果
図6の減衰量-周波数特性を比較したグラフからも、3端子貫通型フィルタは約20MHzを超える高周波領域で、すぐれた減衰特性をもつことがわかります。
5nsec/div
ノイズは発生源から断つことがEMC対策の基本です。TDKの3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズは、車載電子機器向けに特化して開発した高信頼性・大電流対応のEMC対策部品です。小型ながらすぐれた低ESL特性により、広帯域で良好な減衰特性をもつため、車載電子機器の電源ラインの高周波ノイズ対策として最適です。快適なカーコネクティビティや自動運転システムなどの実現などに向け、抜群のパフォーマンスを発揮します。
《車載用3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズの主な特長・用途・電気的特性》
【主な特長】
- 車載用途に特化した小型・高性能のEMC対策部品。デカップリング用途でもすぐれた効果を発揮します。
- AEC-Q200対応。
- 広帯域で良好なノイズ減衰特性を実現します。
- 大電流(6~10A)に対応しています。
- 部品点数・実装コスト・実装スペースの削減し、基板レイアウトを簡素化します。
【主な用途】
- ECU、カーナビゲーションシステム、車載カメラシステム、ミリ波レーダーシステムなど、各種車載電子機器の電源ラインのEMC対策およびデカップリング用。
【製品ラインアップおよび主な電気的特性】
【車載用3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズ】製品情報およびサンプル購入
※お客様の用途に応じたタイプ/品番をお選びいただき、お客様の製品の信頼性向上にお役立てください。