3端子貫通型フィルタによる電源ラインの放射ノイズ対策

ソリューションガイド

電子機器の高速化・高周波化とともに、ノイズフィルタ用途やデカップリング用途に使用されるコンデンサや3端子貫通型フィルタには、さらなる低ESL(等価直列インダクタンス)特性が求められています。また、自動車の電装システムにおいても、安全・快適性の向上やインフォテインメント化に対応するため、低ESLタイプのニーズが高まっています。TDKの先進の低ESL部品による車載電子機器に向けた各種ソリューションをシリーズでご紹介します。

車載電子機器の電源ラインにおける3端子貫通型フィルタによる放射ノイズ対策　概要

ECU(電子制御ユニット)をはじめとする車載電子機器の電源として、DC-DCコンバータが多用されています。
DC-DCコンバータは高効率が特長ですが、スイッチング方式の電源であるため、半導体のスイッチングにともなう放射ノイズが発生して、他の電装システムに悪影響を与えたり、車載アンテナに干渉してAM/FMラジオや地デジの受信障害を起こしたりします。また、多くのECUがエンジンルームやダッシュボード内に集中して配置されるようになり、互いに放射ノイズの影響を受けやすくなっています。
ノイズは発生源から断つことがEMC対策の基本です。快適なカーコネクティビティや自動運転システムを実現させるためにも、車載電子機器の電源ラインには万全の放射ノイズ対策が求められます。
TDKの車載用3端子貫通型フィルタYFF-AC/AHシリーズは、材料や設計の最適化などにより、車載電子機器向けに特化して開発した高信頼性・大電流対応のEMC対策部品です。小型ながら広帯域で良好な減衰特性をもつため、車載電子機器の電源ラインの放射ノイズ対策としても、きわめて効果的です。

ECUのDC-DCコンバータが放射ノイズの主な発生源

自動車に搭載されるECUは、上級車では100個以上にものぼります。これらはバッテリから電力を供給する電源線と、ECU間で情報をやりとりするための信号線とが束になったワイヤハーネスで結ばれます。図1に車載ネットワークの主なノイズの発生源および伝播経路を示します。

図1 ：車載ネットワークの電源ラインにおける主なノイズ発生源

ソリューション：車載電子機器の電源ラインの放射ノイズ対策

TDKの3端子貫通フィルタYFF-AC/AHシリーズを用いた車載電子機器の電源ラインの放射ノイズ対策を、評価・測定事例に沿ってご紹介します。
車載電子機器の電源回路からの放射ノイズを調べるための評価回路と、3m電波暗室法による測定システムの概略図を図2に示します。車載バッテリに相当するDC電源(12V)と評価回路(DUT：被試験デバイス)をケーブルでつなぎ、3m離れたアンテナで放射ノイズレベル(電界強度)を測定します。

図2 ：電源ラインの放射ノイズの評価回路と3m法電波暗室による測定システム

ラジオやテレビといった車載用受信機を放射ノイズから保護するためのEMI試験は、国際EMC規格であるCISPR25によって定められていて、その規制値は民生機器よりもはるかに厳しいものとなっています。
上記の評価回路において、フィルタなしの場合、4素子のLPF(ローパスフィルタ)を挿入した場合、3端子貫通型フィルタを挿入した場合の周波数-電界強度(放射ノイズレベル)を比較してみました(図3)。赤線の枠はきわめて厳しいCISPR25 Class5が規定するFM帯や地デジ帯の放射ノイズレベルの限度値(limit)です。

図3 ：3端子型貫通フィルタの放射ノイズ抑制効果とメリット

フィルタなしの場合は、地デジ帯で限度値を大きく上回るレベルのノイズが発生していますが、LPFや3端子貫通型フィルタを挿入すると、ノイズレベルは限度値以下に抑制されます。しかし、このLPFは2個のMLCCとチップビーズ、金属コイルを用いた4素子フィルタです。かたや3端子貫通型フィルタは、CISPR25 Class5が要求する規制値を1素子で実現できます。部品コスト・実装コスト・実装スペースの削減などのうえでも、3端子型貫通フィルタはきわめて優位なソリューションとなります。