ソリューションガイド

MLCC(積層セラミックチップコンデンサ)のたわみクラック対策

高信頼性MLCCによるたわみクラック対策 概要

図1:素体クラック (断面図)

図1:素体クラック (断面図)

たわみクラックの主な要因と信頼性への影響

たわみクラックが発生する最も大きな要因は基板たわみ応力によるものであり、基板たわみの要因としては様々なケースが考えられます。
・製造時の取り扱い:吸着ノズルによる応力、不適切な量のはんだによる応力、MLCCとの熱膨張差が大きい基板による応力、PCB割板時の応力、ビス止めによる応力、過剰な基板曲げによる応力など
・使用時の取り扱い:落下衝撃による応力、振動による応力など

図2:MLCCへ大きな応力がかかる事例

図2:MLCCへ大きな応力がかかる事例

ビス止め付近、割板付近のMLCC

熱膨張が大きい基板

基板製造や組立時の過剰な基板曲げ

セラミック素体は圧縮応力には強いが引っ張り応力には弱いという性質があり、はんだ実装されたMLCCへ基板方向から過剰な応力が加わると素体クラックが発生する要因となります。その際、対向する内部電極が導通するとショートモード故障が発生します。

また、クラック発生当初はオープンモードであっても、市場で使用される間にショートモードに進行する危険性があります。ショートモードは異常発熱や発火などを引き起こす可能性があるため対策が不可欠です。

図3:たわみクラックの主な要因と信頼性への影響

図3:たわみクラックの主な要因と信頼性への影響

たわみクラック対策が効果的なアプリケーション

部品実装からセット組立工程中に発生した微細なクラックが、市場で使用される間にセラミック素体クラックへ進行する危険性があります。特に下記のようなアプリケーションでは注意が必要です。
・常に振動や衝撃にさらされる機器:車載電装機器、鉄道車両用機器、産業機器など
・落下衝撃が頻繁に起こりえる機器:モバイル機器、スマートキーなど

また、多湿な環境で使用される機器では、結露による水分が素体クラック内部に侵入することでオープンモードからショートモードに進行する危険性が高まります。

図4:たわみクラック対策が効果的なアプリケーション

図4:たわみクラック対策が効果的なアプリケーション

常に振動や衝撃にさらされる機器

落下衝撃が頻繁に起こりえる機器

多湿な環境で使用される機器

基板たわみによるショート発生リスクを低減するために、TDKの高信頼性MLCC 5シリーズを是非ご検討ください。

1   樹脂電極がたわみ応力を緩和し、セラミック素体への負荷が軽減
 樹脂電極品

樹脂電極品は端子電極構造が通常端子品と異なる製品です。通常端子品は銅、ニッケル、スズの3層構造ですが、樹脂電極品は銅とニッケルの間に導電性樹脂層を設けた4層構造となっています。この樹脂層が応力を緩和することでセラミック素体をクラックから守ります。

図5:樹脂電極品の構造

図5:樹脂電極品の構造

基板を10mm曲げても素体クラックは発生せず

その効果は基板たわみ試験で確認できます。基板曲げ10mmで比較しますと、通常端子品では素体クラックが発生しますが樹脂電極品では素体クラックは確認されません。

図6:基板たわみ試験の結果

図6:基板たわみ試験の結果

樹脂電極の剥離で素体クラック発生を抑制

さらに加圧していくと、通常端子品ではセラミック素体にクラックが入りますが、樹脂電極品ではニッケル層と樹脂層の剥離が見られますが素体クラックの発生は見られず、素体クラックを抑制する効果があることが解ります。

図7:素体クラックと樹脂電極剥離

図7:素体クラックと樹脂電極剥離

10,000回の落下試験でも素体クラックは発生せず(*保証項目ではありません)

モバイル用途を想定して落下試験を行いました。樹脂電極品は10,000回の落下後でも素体クラックは発生せず、衝撃が緩和されていることが解ります。

図8:落下試験の結果

図8:落下試験の結果
【樹脂電極品の特長】
樹脂電極品の特長
  • 樹脂電極構造による優れた機械的応力/熱衝撃耐性
  • 150°Cまで使用可能なX8R/X8L品もラインナップ
  • 安定した静電容量温度特性やDCバイアス特性を有するC0G品もラインナップ
【主な用途】
  • バッテリーライン用安全設計
  • 工程内での基板たわみ対策
  • 熱衝撃によるはんだクラック対策
  • モバイル機器やスマートキーなどの落下の可能性が高いセット
【樹脂電極品】製品情報およびサンプル購入

2   独自の端子構造で高信頼性と低抵抗を両立
 低抵抗タイプ樹脂電極品

樹脂電極品は樹脂層によりメカニカル応力が緩和されますが、一方でESR等の抵抗分が上昇するデメリットもあります。そのデメリットの抑制に向けて、端子構造を一新することで抵抗分を抑えた、新タイプの樹脂電極品を製品化しました。端子の構成成分は銅、樹脂層、ニッケル、スズで変わりませんが、低抵抗タイプは実装面側のみに樹脂層が塗布されています。

図9:端子構造を一新した低抵抗タイプ

図9:端子構造を一新した低抵抗タイプ

実装面側のみの樹脂層で基板たわみ応力を緩和

その狙いについて基板たわみ応力の観点から説明します。基板たわみにより、基板実装面側である端子電極下部へ応力が掛かります。端子電極全面ではなく、その部分のみへ樹脂層を集中的に塗布することで応力を緩和させるのが本製品の狙いです。

図10:基板たわみによるMLCCへの応力

図10:基板たわみによるMLCCへの応力

端子電極内の電流通過イメージ

その構造によるメリットについて、端子電極内を電流が通過する際の違いから説明します。従来樹脂電極品では、樹脂層が端子全面を覆うため電流は樹脂層を必ず通ることになります。樹脂層は銅などの金属よりも抵抗が高いため、通常端子品よりも若干ですが抵抗分が上昇します。一方、低抵抗タイプでは樹脂層を通らずに電流が通過できます。そのため、抵抗分は通常端子品と同等程度に抑えられます。

図11:端子電極内の電流通過イメージ

図11:端子電極内の電流通過イメージ

インピーダンス/ESRの低減

その効果はインピーダンス/ESR周波数特性へ反映されます。従来樹脂電極品(緑)の抵抗値は通常端子品(黒)より高くなっていますが、低抵抗タイプ(青)は同等レベルとなっています。また共振点(SRF)での比較では、低抵抗タイプは従来樹脂品よりESRが約60%低下しており、発熱量も同等の低減が期待されます(発熱量はESRに比例)。さらにインピーダンスやESRが同等ということは通常端子品からの変更時のリスク低減につながり、樹脂電極品への置換が促進されるのではないかと考えています。

図12:インピーダンス/ESR周波数特性、共振点でのESR/発熱量

図12:インピーダンス/ESR周波数特性、共振点でのESR/発熱量

従来樹脂電極品と同等の基板たわみ耐性

続いて、基板たわみ試験の結果です。樹脂電極品では従来品と低抵抗タイプのいずれも、基板曲げ10mmでもクラックは確認されませんでした。以上の結果より、低抵抗タイプ樹脂電極品はたわみ耐性を有しながら抵抗分が抑えられることが確認されました。

図13:基板たわみ試験の結果

図13:基板たわみ試験の結果
【低抵抗タイプ樹脂電極品の特長】
【低抵抗タイプ樹脂電極品の特長】
  • 基板実装面側のみを樹脂層で覆うことで樹脂層を通らずに電流が通過できるため、電気抵抗を抑えることが可能
【主な用途】
  • バッテリーライン用安全設計
  • 工程内での基板たわみ対策
【低抵抗タイプ樹脂電極品】製品情報およびサンプル購入

3   2直構造でクラック発生時のショートリスクを低減 (+樹脂電極)
 安全設計品

安全設計品は1素子内にコンデンサ2個を直列に配置した内部構造 (2直構造) を持つ製品です。

図14: 安全設計品の内部構造 (2直構造)

図14: 安全設計品の内部構造 (2直構造)

2直構造の特長

基板たわみなどにより発生したクラックが対向する内部電極間を貫通すると、湿気などがそのクラックを通じることでショートが発生するリスクが高くなります。

図15: 一般品でのたわみクラック

図15: 一般品でのたわみクラック

安全設計品では左側のコンデンサ構造部にクラックが発生した場合でも、2直構造により右側のコンデンサ構造が残ることでショートが抑えられます。

図16: 安全設計品でのたわみクラック

図16: 安全設計品でのたわみクラック

樹脂電極の採用

さらに、樹脂電極品と同様に端子電極へ導電性樹脂層を設けており、優れた機械的応力、熱衝撃耐性を有します。 このように安全設計品は高信頼性MLCCとして非常に優れた製品です。

図17: 安全設計品の構造

図17: 安全設計品の構造

安全設計品への置き換え例

バッテリーラインではMLCCのクラックによるショートリスクを低減するため、しばしば2個のMLCCが直列に実装されています。安全設計品は製品内部の2直構造がこの機能を果たすため、MLCCの員数削減へも貢献可能です。

図18:安全設計品への置き換え例

図18:安全設計品への置き換え例
【安全設計品の特長】
  • 2直構造でクラック発生時のショートリスクを低減
  • 樹脂電極構造による優れた機械的応力/熱衝撃耐性
【主な用途】
  • バッテリーライン用安全設計
  • より安全な設計が必要とされる回路
【安全設計品】製品情報およびサンプル購入