ソリューションガイド
リングバリスタによるモータノイズ・ソリューションガイド 概要
ワイパやパワーウィンドウ、パワーシートなどの自動車補機用の車載モータには、マグネットを界磁とする小型のブラシ付きDCモータが多用されています。ブラシ付きDCモータは構造がシンプルで低価格、起動トルクが大きいといった特長をもちますが、回転にともなってブラシとコミュテータ(整流子)の接点で火花放電が起き、ノイズの発生やブラシの摩耗の原因となります。そこで、このノイズの吸収・抑制や接点保護を目的に、サージ保護デバイスであるリングバリスタがコミュテータ部に装着されます。
TDKのリングバリスタVAR-18シリーズは、チタン酸ストロンチウム系の半導体セラミックス材料を用い、電気的特性や物理的性能を従来レベルより大幅に向上させた製品です。形状・寸法についても従来製品と同様、豊富にラインアップしており、多様なご要請に的確・柔軟にお応えするとともに、使いやすさの面からも大きなメリットをご提供いたします。
バリスタとは?
バリスタ(Varistor)とは、電圧によって抵抗値が変わる素子を意味するバリアブル・レジスタ(Variable Resistor)を略した造語です。ある電圧(バリスタ電圧)までは高い抵抗値を保ち、ほとんど電流を流しませんが、その電圧を越えると急に抵抗値が低くなって大電流を流すようになります。このため、瞬間的に異常な高電圧として侵入するサージなどによる回路の誤動作やICの破壊を防ぐサージ保護デバイスとして用いられています。電子機器にはディスク(円板型)タイプ、積層チップタイプが多用されるほか、自動車補機用などのブラシ付きDCモータにおいては、ノイズ対策や接点保護を目的に、薄いリング形状のリングバリスタが広く使われています。
マイクロモータ用リングバリスタの役割
リングバリスタはブラシ付きDCモータのコミュテータ(整流子)部に取り付けられます。コミュテータはロータの回転に応じて、電流の向きを切り替える装置です。コミュテータとブラシとの接点では、電流の向きが切り替わる瞬間に高いサージ電圧が発生して火花放電が起き、これがノイズの原因となったりブラシを摩耗したりします。リングバリスタはこのサージ電圧を吸収して火花放電を抑止します(図1)。
図1 :リングバリスタの構造および原理
車載DCモータのノイズ対策① リングバリスタによるモータノイズ・ソリューション
DCモータのコミュテータ部に簡便、コンパクトに装着でき、かつ優れたノイズ吸収、抑制効果と接点保護効果が得られるのがリングバリスタの特長です。リング状のバリスタ素体の表面に電極を形成した平面電極構造で、コミュテータの極数に応じて、3極、5極品などがあります。TDKは様々な極数、寸法の製品を用意しており、車載DCモータをはじめ、ほとんどの小型DCモータに的確に対応可能です。
車載DCモータのノイズ対策② 積層型リード付きコンデンサとの組み合わせによるソリューション
TDKはリングバリスタと他の電子部品を組み合わせた、より効果的な車載DCモータ用のノイズ対策もご提案しています。車載DCモータのノイズ対策としてはコンデンサが活用されていますが、この用途においては、基板にはんだ接合されるMLCC(積層セラミックチップコンデンサ)よりも、溶接や加締めで簡便・確実に接続できる積層型リード付きコンデンサがきわめて効果的です。リングバリスタと積層型リード付きコンデンサの双方を製造して提供しているのはTDKの強み。豊富な製品ラインアップからお客様のご要望に応じたソリューションをご提供いたします。
リード付きコンデンサとして、新たにハロゲンフリーの新シリーズを提供しており、音鳴き対策、基板たわみ対策およびDCモータのノイズ対策などに、きわめて効果的なパフォーマンスを発揮します。
リングバリスタによる簡便・効果的なモータノイズ・ソリューションのご紹介
バリスタの原理・特性とともに、TDKのリングバリスタを用いた車載DCモータにおける具体的なノイズ・ソリューションを以下にご紹介いたします。
1.バリスタの材料と特性
オームの法則に従わない特殊な半導体セラミックス
図2 :バリスタの電圧-電流特性
純粋な抵抗素子はオームの法則のV =RI (V:電圧、R:抵抗、I:電流)という関係が成り立ち、電流は印加された電圧に比例して増加し、グラフで表すと直線になります。しかし、ある種の抵抗素子はオームの法則に従わず、印加される電圧によって抵抗が変化するものがあります。この特性を利用したのがバリスタで、サージ電圧やESD(静電気放電)など、イレギュラーに発生する高電圧を吸収してグランド側に逃がします。
バリスタの電圧-電流特性は、 I =KVα という式で近似されます。Kは定数で、αは電圧非直線係数(α係数)といいます。純粋な抵抗素子ではα=1ですが、バリスタではα>1となり、この数値が大きくなるほど、オームの法則からはずれた非直線性の電圧-電流特性となります(図2)。バリスタ材料としては、ZnO(酸化亜鉛)系、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)系などの半導体セラミックスが使用されます。
2. 車載DCモータのノイズ対策① リングバリスタによるソリューション
広範囲のノイズを抑え、車載電子機器への悪影響を防ぐ
近年、自動車の安全性や利便性の向上が進む中で、搭載される小型DCモータの数は、多いものでは100個以上にものぼります。自動車ではたとえばワイパを作動するたびにラジオに雑音が入るなど、車載DCモータが電子機器に悪影響を及ぼすことがあります。これはDCモータのコミュテータとブラシの接点に生じる火花放電によるもので、低周波から高周波までの広い周波数範囲のノイズとなります。そこで、車載DCモータのノイズ対策として、コンデンサなどのほか、特に小型形状のDCモータにおいてはリングバリスタが広く採用されています(図3)。
図3 :車載用小型DCモータにリングバリスタが使用される可能性がある電動装置
TDKのリングバリスタの特長
TDKではSrTiO3(チタン酸ストロンチウム)系の半導体セラミックスを用いた各種リングバリスタをVAR-18シリーズとして提供しています。以下にTDKのリングバリスタの主な特長や電気的・物理的特性についてご説明いたします。
- ●サージアブソーバとパスコンの機能を合わせもつ素子
- SrTiO3は広い温度範囲で高い誘電率を示す材料です。これにバリスタ特性をもたせることで、優れた機能を発揮することができます。サージのような高い電圧レベルに対してはバリスタとして機能するとともに、低い電圧レベルのノイズに対してはコンデンサとして機能し、ノイズ成分をバイパスして抑制します。つまり、サージアブソーバとパスコンとしての性質を合わせ持ちます。
- ●銅電極および耐熱性・抗折強度に優れたセラミック素子を採用
- TDKのリングバリスタは銅電極および耐熱性に優れたセラミック素子を採用しています。このため、はんだを非鉛化することではんだ付け温度が上昇しても、電極喰われやサーマルクラックの心配がありません。また、セラミック素子は抗折強度が高く、モータの自動組み立てにも好適です。
- ●バリスタ電圧の温度特性が正特性
- TDKのリングバリスタは温度上昇とともに抵抗値が増加する正の温度特性をもちます。このため、高温時にバリスタ電圧が低下してバリスタに大きな電流が流れる危険性がありません。また、ノイズカットレベルを犠牲にして常温でのバリスタ電圧(E10値)を高めに設定する必要がなく、設計面でもメリットを有します。さらには、低温時にノイズレベルが増大することがなく、モータの寿命に悪影響を与えません。
- ●静電容量とα係数の最適化により、広い周波数帯域で優れたノイズ吸収・抑制効果を発揮
- 出力が小さい小型形状のDCモータにおいては、リングバリスタのみの対策で高周波の放射ノイズ抑制に効果を発揮します(図4)。
図4 :リングバリスタによるノイズ抑制効果
3. 車載DCモータのノイズ対策② 積層型リード付きコンデンサとの組み合わせによるソリューション
プリント基板を使わずリングバリスタとともに簡便・確実・コンパクトに搭載
リングバリスタとともにコンデンサなどの電子部品を組み合わせると、より効果的なDCモータノイズ・ソリューションが実現します。一般に電子機器のノイズ対策としては、MLCC(積層セラミックチップコンデンサ)などのSMD部品が使われます。しかし、車載DCモータにおいては、SMD部品を実装するためにプリント基板を使用すると、スペースやコスト、配線によるノイズ除去効果の低下など、さまざまな問題が発生します。この問題のソリューションとして、近年あらためて注目を集めているのがリード付き電子部品です。
プリント基板にはんだ付けされるSMD部品は、過酷な環境で使用される車載用途では、熱的・機械的ストレスにさらされる頻度が高く、はんだクラックの発生などのリスクをかかえています。その点、リード付き部品は溶接や加締めの方法で簡便・確実・コンパクトに搭載できるため、高信頼性の確保とともに、スペースやコストの問題も解決できる可能性があるからです。プリント基板を使用しない部位にも対応できるというのはリード付き部品ならではの優位性なのです。
図5は小型DCモータへのリングバリスタおよび積層型リード付きコンデンサの搭載例です。狭いブラシホルダーに2個の積層型リード付きコンデンサがコンパクトに溶接で接続されています。さらに車載DCモータでは、耐候性や耐湿性なども求められますが、樹脂コーティングされた積層型リード付きコンデンサはこうした要求にも応えます。
図5 :積層型リード付きコンデンサとリングバリスタを組み合わせたモータノイズ・ソリューション
きわめて厳しいノイズ規制CISPR25 Class5もクリア
DCモータが発生するノイズには、伝導ノイズと放射ノイズの2タイプあります。図6のグラフに示すように、リングバリスタと積層型リード付きコンデンサを併用することで、伝導ノイズおよび放射ノイズともに著しいノイズ抑制化を示し、きわめて厳しい自動車のノイズ規制であるCISPR25 Class5への対応も可能となります。
また、パワートレイン系、走行・操舵系などのモータユニットは、エンジンルーム内に置かれるものが多く、150℃対応の電子部品のニーズが高まっています。TDKでは150℃対応の積層型リード付きコンデンサをはじめ、数多くの車載グレード150℃対応製品をラインアップしています。
図6 :積層型リード付きコンデンサとリングバリスタの併用によるノイズ抑制効果
リングバリスタとリード付きコンデンサをともに提供
図7はリングバリスタと積層型リード付きコンデンサの車載DCモータへの採用例です。おおむねモータ径30~40mmを境に、リングバリスタは小型モータへ、積層型リード付きコンデンサは比較的大きなサイズのモータに使用されています。自動車のノイズ規制は今後さらに厳しくなることが予測されており、リングバリスタと積層型リード付きコンデンサの併用というモータノイズ・ソリューションには大きな期待が寄せられています。リングバリスタと積層型リード付きコンデンサの双方を製造しているのは電子部品・デバイスメーカーであるTDKの強みであり、豊富な製品ラインアップからお客様のご要望に応じた最適ソリューションをスピーディにご提供いたします。
図7: 積層型リード付きコンデンサとリングバリスタの車載モータへの採用例
積層型リード付きコンデンサの製品情報はこちらから
リングバリスタによるモータノイズ・ソリューションガイド まとめ
TDKのリングバリスタVAR-18シリーズは、チタン酸ストロンチウム系の半導体セラミックス材料を用い、電気的特性や物理的性能を従来レベルより大幅に向上させた製品です。自動車補機用モータなどのブラシ付きDCモータのコミュテータ部に装着することにより、ノイズの発生やブラシの摩耗を抑制できる簡便で効果的な保護デバイスです。安全性や利便性の向上に向けて、自動車のノイズ規制は今後、ますます厳しくなることが予測されています。リンクバリスタを積層型リード付きコンデンサなどと組み合わせることでCISPR25 Class5への対応も可能になります。このすぐれたパフォーマンスを、お客様の製品にぜひご活用ください。
《マイクロモータ用リングバリスタVAR-18シリーズの主な特長・用途・特性》
【主な特長】
- SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)を主成分とする半導体セラミックスを用いたバリスタ
- 銅電極と耐熱性を向上させたセラミック素子を採用
- セラミック素子の抗折強度が高く、モータの自動組み立てに好適
- 各種寸法の製品を用意しており、ほとんどのモータに的確に対応
【主な用途】
- 車載DCモータをはじめとするマイクロモータのノイズ対策、接点保護
【主な特性】
- バリスタ電圧(E10値)の温度特性が正特性
- 低温時にノイズレベルが増大することがなく、モータの寿命に悪影響を及ぼさない
- 従来タイプ同様、大きな静電容量を有しており、高周波帯におけるノイズの除去・抑制に優れる
マイクロモータ用リングバリスタVAR-18シリーズ 製品ラインアップ
VAR-18-P(平面電極タイプ)
性能例
【リングバリスタVAR-18シリーズ】 製品情報およびサンプル購入
※お客様の用途に応じたタイプ/サイズをお選びいただき、お客様の製品の信頼性向上にお役立てください。