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アプリケーションノート
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10BASE-T1Sに最適なコモンモードチョーク及びチップバリスタ

全自動運転を目指した次世代の車両の開発が活発になっており、車のアーキテクチャが大きく変わり始めています。その中でも先進運転システム(ADAS)を担うECU間を繋ぐ車載ネットワークは非常に重要な要素です。
車載ネットワークにおいては車載Ethernetが特に注目されており、100BASE-T1(100Mbps)、1000BASE-T1(1Gbps)がカメラやレーダー、ライダーといったセンサーシステムに採用されています。また、車載Ethernetの新たな規格である、データレートが10Mbpsの10BASE-T1Sが注目されています。使用されるアプリケーションとしては、例:アクチュエータ系やセンサー等への使用が見込まれています。

10BASE-T1Sの概要

10BASE-T1SはIEEE 802.3cg規格として策定さたIEEEオートモーティブ・イーサネットの最新規格の1つでUTP(アンシールデッドツイストペア)といったシールドの無い2芯1対のケーブルを使用して通信を行います。10BASE-T1Sは100BASE-T1や1000BASE-T1といったスイッチを介してネットワーク構成をする1対1のPeer to Peer接続(図1)とは異なり、スイッチ不要のマルチドロップ接続(図2)が可能なため、低コスト化をはかることが出来ます。これにより、近年の車両における電子システムの進化によるネットワーク数の増加に最適な車載通信の構築が可能になります。

図1 100BASE-T1 , 1000BASE-T1(Peer to Peer接続)
図2 10BASE-T1S(マルチドロップ接続)

バス接続

デイジー接続

10BASE-T1S推奨製品(コモンモードチョーク/フィルタ)

10BASE-T1Sはスイッチが無いマルチドロップ接続の為、1ライン上に多くのECUが接続された場合にワイヤーハーネスの長さや分岐による反射、ECUの容量成分が大きくなり、通信波形によるリンギングの発生がしやすくなってしまいます。そのためEMC対策用のコモンモードチョークはライン間浮遊容量を出来る限り小さくする必要があり、モードコンバージョン特性(Sds21、Sds12、Ssd21、Ssd12)も良好な製品が求められます。そのため、TDKのコモンモードチョークコイルはライン間浮遊容量とモードコンバージョン特性のどちらも優れた設計となっており、10BASE-T1Sに最適な製品となっております。

表1 10BASE-T1推奨コモンモードチョーク/フィルタ

OPEN Alliance「10BASE-T1S EMC Test Specification」に準拠

製品品番 コモンモードインダクタンス
μH(Typ.) @100kHz
寄生容量
pF(Max.)
直流抵抗
Ω(Max.)
定格電流
mA(Max.)
ACT1210E-241-2P-TL00 240 10 4.1 70
ACT1210E-131-2P-TL00 130 7 2.9 70

10BASE-T1S推奨製品(チップバリスタ/セラミック過渡電圧サプレッサ)

ESD対策部品についてもコモンモードチョークコイルと同様に厳しいスペックが要求されます。特に静電容量と静電容量公差については、一般的なESD対策部品よりも低容量で狭公差の製品が求められます。TDKのESD対策部品であるチップバリスタは静電容量が最大で1.5pF(Typ.)で容量公差は±0.13pFとなっており、低容量で狭公差な製品をラインナップしています。これにより通信品質やモードコンバージョン特性への影響を抑えてイミュニティに強いECU設計が可能になります。もちろんESDに対しての保護性能も高く、車載信頼性規格のAEC-Q200に準拠しているため、TDKのチップバリスタは車載Ethernet向けESD保護素子としてトータルバランスに優れています。

表2 10BASE-T1推奨チップバリスタ/セラミック過渡電圧サプレッサ
製品品番 LxW寸法
mm
バリスタ電圧
V(Nom.)@1mA
静電容量
pF
ESD耐量
IEC61000-4-2
AVRH10C101KT1R2YE8 1.0×0.5
EIA0402
110(100 to 120) 1.23(1.1 to 1.36) 8kV
AVRH10C221KT1R5YA8 1.0×0.5
EIA0402
220(198 to 242) 1.5(1.37 to 1.63) 25kV

Sパラメータ

一般的に車載Ethernetでは、モード変換特性(Sdc11、Ssd21、Ssd12)やリターンロス(Sdd11)、インサーションロス(Sdd21)を参考に部品の選定およびECUの設計を行います。
これらのSパラメータはIEEE802.3cgに規格線(Sdd11、Sdc11)が設けられており、また、OPEN ALLIANCEでも現在、策定中です。
したがって、部品単体のSパラメータや部品を組合せたSパラメータはECUを設計をする上で重要な指標となります。
以下にコモンモードチョークとバリスタの代表品名(Typ値)の各Sパラメータを記します。

図3 Sdd11
図4 Sdc11
図5 Sdd21
図6 Scc21
図7 Ssd21
図8 Ssd12

モードコンバージョンについて

差動通信信号はディファレンシャルモードといわれる伝導モードで流れ、ノイズはコモンモードといわれる伝導モードで流れます。時折、差動通信ラインで使用される電子部品の影響により、この伝導モードがディファレンシャルモードからコモンモード、もしくはコモンモードからディファレンシャルモードに変換されることがあります。この伝導モードの変換のことをモードコンバージョンと言います。伝導モードの変換(モードコンバージョン)により、差動信号がノイズに変換される、もしくはノイズが差動信号に変換されることになり、結果としてECU自体のノイズ耐性が悪くなることでECUの動作不良に繋がったり、ECU自体がノイズを出してしまうことになります。これらを引き起こす電子部品の影響は、一般的に差動通信ラインの非対称性に起因します。非対称性とはつまり、インダクタンスや静電容量の差といった特性です。図4、7、8に示す様に本記事で紹介している製品はモードコンバージョン特性に優れた製品となっています。

デイジーチェーン接続におけるコモンモードチョークとチップバリスタの搭載例

図7 10BASE-T1S(マルチドロップ接続)

IEEE802.3 物理層規格

10BASE-T1Sについては、IEEE802.3cg「10Mbpsシングルペアイーサーネット」として、10Mbpsの動作関連や電力供給のための物理層仕様と管理パラメータが既に策定されています。
IEEE802.3da「10Mbpsシングルペアマルチドロップセグメント」といったケーブル長やノード数といった機能強化のための物理層の仕様および管理パラメータのエンハンスメントの策定として現在、議論が行われています。

10BASE-T1 100BASE-T1 1000BASE-T1 Multi-Gig BASE-T1
IEEE IEEE802.3cg IEEE802.3bw IEEE802.3bp IEEE802.3ch
データレート 10Mbps 100Mbps 1Gbps 2.5/5/10Gbps
コーディング 4B/5B (DME)*2 PAM3 PAM3 PAM4
通信方式 半二重通信
全二重通信(オプション)
全二重通信 全二重通信 全二重通信
トポロジー Peer to Peer
Multidrop
Peer to Peer Peer to Peer Peer to Peer

*2:DME: Differential Manchester Encoding

まとめ

全自動運転を目指した次世代車両においてECUと各機器を接続する車載ネットワークは非常に注目されています。車載Ethernetは異なるデータレート毎に規格があります。TDKは各規格に合わせたコモンモードチョークやチップバリスタの製品を用意しております。なかでもACT1210E-241-2Pタイプは車載Ethernetの新たな規格である、データレートが10Mbpsの10BASE-T1Sに最適化された製品となります。