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2025年03月
アプリケーションノート

10BASE-T1Sに最適なコモンモードチョーク及びチップバリスタ

全自動運転を目指した次世代の車両の開発が活発になっており、車載ネットワークのアーキテクチャが大きく変わり始めています。
車載ネットワークにおいては車載Ethernetが注目されており、OPEN Allianceによってスペックが定められている100BASE-T1(100Mbps)や1000BASE-T1(1Gbps)が普及し始めています。最近、この車載Ethernetに新たに10BASE-T1S(10Mbps)が加わり、マルチドロップ接続が可能ということで大きな注目を集めています。
本記事ではいち早くOPEN Allianceのスペックに準拠したコモンモードチョークとチップバリスタについてご紹介いたします。

10Base-T1Sの概要

10BASE-T1SはIEEE802.3cg規格として策定されたIEEEオートモーティブ・イーサネットの最新規格の1つです(表1)。また、OPEN Alliance(*)においても車載関連メーカーの指標となるような10BASE-T1S関連の規格が策定され始めています。
この10BASE-T1Sのデータレートは、既存の100BASE-T1(100Mbps)や1000BASE-T1(1Gbps)よりも10Mbpsと遅いですが、大きく異なる点としてマルチドロップ接続が可能なことがあげられます。従来の100BASE-T1や1000BASE-T1の接続方式としては、通信するECU同士が1対1で接続されるPeer to Peer接続(P2P接続)のみが可能となっていました。それに対して10BASE-T1Sでは、1つのライン上に複数のノードを持つことができるマルチドロップ接続に対応しており、Ethernetプロトコルを用いてCANのようなネットワークを組むことができます(図1)。
しかし、マルチドロップ接続では、1つのライン上に複数のノードがぶら下がるため、P2P接続よりも電子部品に求められるライン間寄生容量の制約が厳しくなります。これについては10BASE-T1Sも例外ではありません。実際、EMC対策用のコモンモードチョーク(CMC)や静電対策部品(チップバリスタ)に求められるライン間寄生容量はOPEN Allianceにおいて厳しく規定されており、10BASE-T1Sで使用する電子部品を選定する場合は注意が必要となります。
TDKのCMCとバリスタはそれぞれ、OPEN Allianceで規定されているCMCスペック(**)とESD部品スペック(***) に準拠しており、10BASE-T1Sにおいて問題なく使用することができます。次項より、この10BASE-T1S向けのCMCとESD部品についてご紹介します。

* Open Alliance (One-Pair Ether-Net Alliance SIG) : 車載Ethernet の規格策定および普及促進のために設立された業界団体
** EMC Test Specification for 10BASE-1S CMC
*** EMC Test Specification for 10BASE-1S ESD Suppression Devices

10BASE-T1 100BASE-T1 1000BASE-T1 Multi-Gig BASE-T1
IEEE IEEE802.3cg IEEE802.3bw IEEE802.3bp IEEE802.3ch
データレート 10Mbps 100Mbps 1Gbps 2.5/5/10Gbps
コーディング 4B/5B (DME)*2 PAM3 PAM3 PAM4
通信方式 半二重通信
全二重通信(オプション)
全二重通信 全二重通信 全二重通信
トポロジー Peer to Peer
Multidrop
Peer to Peer Peer to Peer Peer to Peer

*2:DME: Differential Manchester Encoding

表1. IEEE802.3 物理層規格
図1 10Base-T1Sのマルチドロップ接続におけるコモンモードチョークとチップバリスタの搭載例

10Base-T1S推奨部品(コモンモードチョーク/フィルタ)

10BASE-T1Sはスイッチが無いマルチドロップ接続の為、1ライン上に多くのECUが接続された場合にはワイヤーハーネスの長さや分岐による反射やECUの容量成分が大きくなり、信号波形にリンギングが発生するなど通信品質への影響が生じやすくなります。そのためEMC対策用のCMCはおいては、できるだけ小さな寄生容量となることが求められます。
CMC部品に対するスペックは、OPEN Alliance 「10BASE-T1S EMC Test Specificaton for Common Mode Chocks」 によって定められており、その中で寄生容量はClass I (17pF以下)から Class IV (7pF以下) にクラス分けされています。ACT1210E-131-2P-TL00 は、最も厳しいClass IV に業界で初めて対応したCMC製品です。
また、寄生容量以外にも、インサーションロスやリターンロス、モードコンバージョンといった、Sパラメータにも推奨値が規定されています。モードコンバージョンとは、通信信号であるディファレンシャルモードとノイズとなるコモンモードの伝導モードが互いに変換されてしまうことを言います。このようなモードコンバージョンは、ECUがノイズを出したり、ノイズ耐性が悪くなることで誤動作を起こす要因となります。
以下のグラフで示すように、TDKのCMCはモードコンバージョンに特性においても優れた製品となっております。

OPEN Alliance「10BASE-T1S EMC Test Specification」に準拠

製品品番 コモンモード
インダクタンス
μH(Typ.) @100kHz
寄生容量
pF(Max.)
直流抵抗
Ω(Max.)
定格電流
mA(Max.)
ACT1210E-241-2P-TL00 240 10 4.1 70
ACT1210E-131-2P-TL00 130 7 2.9 70
表2 10BASE-T1推奨コモンモードチョーク/フィルタ

10Base-T1S推奨部品(チップバリスタ/セラミック過渡電圧サプレッサ)

ESD部品についてもコモンモードチョークコイルと同様に厳しいスペックが要求されます。OPEN AllianceによるESD対策部品向けの10BASE-T1Sのスペックでは、ESD対策部品についてもライン間静電容量が厳しく規定されています。具体的な値としては、ライン間静電容量としては1pF以下、片方のライン上での静電容量に置き換えると2pF以下と小さい静電容量値となっています。TDKのESD対策部品であるチップバリスタは表3のようにこの規格値をみたしており、10BASE-T1Sにおいて静電容量を気にすることなくESD対策が可能です。
また、車載Ethernetでは一般的なESD対策部品よりも静電容量が狭公差の製品が求められます。10BASE-T1S向けに推奨しているラインナップでは、静電容量の公差が±0.13pFとなっており、これにより通信品質やモードコンバージョン特性への影響を抑えてイミュニティに強いECU設計が可能になります。
もちろんESDに対しての保護性能も高く、車載信頼性規格のAEC-Q200に準拠しているため、TDKのチップバリスタは10BASE-T1S向けESD保護素子としてトータルバランスに優れています。

製品品番 LxW寸法
mm
バリスタ電圧
V(Nom.)@1mA
静電容量
pF
ESD耐量
IEC61000-4-2
AVRH10C101KT1R2YE8 1.0×0.5
EIA0402
110(100 to 120) 1.23(1.1 to 1.36) 8kV
AVRH10C221KT1R5YA8 1.0×0.5
EIA0402
220(198 to 242) 1.5(1.37 to 1.63) 25kV
表3 10BASE-T1推奨チップバリスタ/セラミック過渡電圧サプレッサ

推奨部品の寄生容量およびSパラメータ

上記のように、10BASE-T1S規格においてはOPEN Allianceで寄生容量およびSパラメータについての規格が定められています。各特性ごとにclass分けされた規格線がありますので、使用状況にあわせて規格を満たしている部品を選定いただくことが可能です。
以下に、各推奨部品の特性と規格線を示します。

寄生容量

図4 CMC-Sdd21、Scc21
図5 CMC - Sdd11, Sdd22
図6 CMC - Ssd21, Ssd12
図7 ESD - Sdd11, Sdd21
図8 ESD - Ssd12

まとめ

全自動運転を目指した次世代車両においてECUと各機器を接続する車載ネットワークは非常に注目されています。車載Ethernetは異なるデータレート毎に規格があります。TDKでは本記事でご紹介した10Base-T1Sの他にも、各規格に合わせたコモンモードチョークやチップバリスタの製品をご用意しております。

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