アプリケーションノート
D級アンプ用推奨製品
(ノイズサプレッションフィルタ、LPF用インダクタ、ESD保護機能付きノッチフィルタ)
スマートフォンやオーディオ機器などに使われるD級アンプは、小型・高効率が特長ですが、高速スイッチングにともなって発生するノイズへの対策が不可欠です。TDKは信号に影響を与えることなく、高音質を確保したまま、効果的なノイズ対策を実現する各種製品をラインアップしています。本記事では、D級アンプを用いた各種機器のスピーカラインにおける使用例と効果についてご紹介します。
目次
AIスピーカなどにも採用されているD級アンプ
スマートフォンやAIスピーカなどバッテリーでの長時間駆動や小型化が要求される機器でのスピーカ用オーディオアンプには、小型・高効率を特徴としたD級アンプ(クラスDアンプ)が採用されています。
AIスピーカの基本ブロックダイアグラムを図1に示します。
高音質が求められるオーディオ機器においては、スピーカラインに挿入されるノイズサプレッションフィルタの特性がきわめて重要になります。また、D級アンプの出力段のLPF(ローパスフィルタ)に用いられるインダクタの特性も音質に影響します。
本記事では、スマートフォンやAIスピーカ、タブレットPC、各種オーディオ機器などに使われているD級アンプのスピーカラインにおけるノイズ対策を中心に解説します。
スピーカラインのノイズ対策の概要
TDKはスピーカラインのノイズ抑制に最適なフィルタとして、ノイズサプレッションフィルタMAFシリーズ(積層タイプ)およびVAFシリーズ(巻線タイプ)をラインアップしています。LPF用のインダクタとしては、高特性フェライト材を用いたLPF用インダクタVLS-AFシリーズを推奨しています。
またスピーカラインにはESD(静電気)対策を行うことがあります。ESD保護機能付きノッチフィルタは高いノイズ抑制効果を発揮するとともに、ESDから回路を保護できる部品です。このため、1つの部品でノイズ対策とESD対策をともに実現できるメリットがあります。
これらの製品をD級アンプのスピーカラインに適用することで、高音質の確保、放射ノイズ抑制、ESD対策などを効果的に実現することができます。その基本的手法を以下にまとめました。
対象機器:スマートフォンなど(スピーカ出力100mW~2Wクラス)
スピーカ出力が比較的小さいスマートフォンなどのスピーカラインでは、LPFを省いたD級アンプが主流で、ノイズサプレッションフィルタMAFの挿入により、効果的なノイズ抑制が実現します(図2)。
対象機器:AIスピーカ、タブレットPC、オーディオ機器など(スピーカ出力2W~20Wクラス)
スピーカ出力2W~20WクラスのAIスピーカ、タブレットPC、オーディオ機器などでは、LPF用インダクタが外付けで必要となります。LPF用インダクタVLS-AFシリーズは放射ノイズ抑制効果も併せもちます(図3)。
LPF用インダクタVLS-AFを用いるとともに、ノイズサプレッションフィルタVAFを併用すると、さらに効果が増します (図4)。
各アプリケーションにおける製品の効果
以下に各アプリケーションにおける製品の効果を具体的に説明します。
- 出力100mW~2WクラスのスピーカラインにおけるノイズサプレッションフィルタMAFシリーズの効果
D級アンプのスイッチングに起因する高周波ノイズは、スピーカラインから放射ノイズとなって飛び出します。
その最も簡便な対策はチップビーズをスピーカラインに挿入する方法です。しかし、チップビーズは放射ノイズの抑制に有効であっても、信号波形を歪ませて音声歪みを起こすという問題をかかえています。チップビーズではノイズ抑制と高音質の確保を両立させることは困難なのです。ノイズサプレッションフィルタは信号に影響を与えない そこで、独自開発の低歪みフェライトを採用し、オーディオライン用のノイズサプレッションフィルタとして製品化したのが、MAFシリーズおよびVAFシリーズです。
いずれも、低Rdc(直流抵抗)と高い定格電流を実現し、大電流が必要なスピーカラインに最適です。挿入によって音声歪みなどを起こすことなく、すぐれた放射ノイズ抑制効果を発揮します。チップビーズとノイズサプレッションフィルタでは、音像定位や音場感に明らかな差異 オーディオラインにおける音声歪みの度合は、一般にTHD+N(Total Harmonic Distortion + Noise:全高調波歪み+ノイズ)という数値で表され、数値が小さいほど音質が良いことを示します。
図5にD級アンプ(LPFレス)のスピーカラインにおけるチップビーズとノイズサプレッションフィルタMAFの対出力THD+N特性と出力信号の周波数スペクトル測定例を示します。チップビーズでは出力を上げていくとTHD+N値は上昇しますが、MAFにおいてはフィルタなしの場合と同等のTHD+N特性を示します。これは出力を大きくしても信号への影響はなく、音声歪みを起こさないことを意味します。これを出力信号(1kHz)の周波数スペクトルで確認すると、高調波のレベルはチップビーズでは顕著に高く、この高調波成分が歪みとして聴こえます。それに対しMAFではフィルタなしの場合と同等のレベルで、本来の信号である1kHzだけが聴こえます。
チップビーズの挿入は、放射ノイズの抑制に効果はあっても、信号を歪ませ音質劣化の原因となってしまうのです。実際、チップビーズを使用した場合とノイズサプレッションフィルタMAFシリーズを使用した場合とで高音質の音源を聴きくらべると、音像定位や音場感に明らかな差異が現れます。したがって、スマートフォンなどのスピーカラインへのMAFシリーズの適用は、ノイズを抑制しつつ、高音質を確保するうえでの優位なソリューションとなります。
MAFによる放射ノイズ抑制効果を図6に示します。フィルタなしの場合のノイズ強度は、MAFの使用により、D級アンプOFFと同等のレベルまで抑制されています。
図6:MAFによる放射ノイズ抑制効果 - 出力2W~20WクラスのスピーカラインにおけるLPF用インダクタVLS-AFシリーズの効果
低THD+N特性で高音質なLPF用インダクタVLS-AFシリーズ LPFに使用されるインダクタは、スピーカラインに挿入されるため信号に影響を与えないことが重要です。VLS6045AFはフェライトを用いた巻線型・磁気シールド構造のLPF用インダクタで、低Rdc(直流抵抗)と大電流対応を特長としています。
図7は、VLS6045AFとメタルインダクタの対出力THD+N特性および出力信号の周波数スペクトルの測定例です。
メタルインダクタは金属磁性材料をコアとするインダクタで、大電流対応を特長とし、電源回路のパワーインダクタとして重用されています。しかし、メタルインダクタのTHD+N値は出力を上げていくと上昇します。一方、VLS6045AFでは僅かなTHD+N値の変化であり、挿入による影響はほとんどありません。また、周波数スペクトルではメタルインダクタの場合、出力信号(1kHz)の高調波のレベルが顕著に高くなっていますが、VLS6045AFではフィルタなしの場合に近い低い高調波レベルとなります。
図7:VLS6045AFとメタルインダクタの対出力THD+N特性および周波数スペクトルの測定例 VLS6045AFによる放射ノイズ抑制効果を図8に示します。広い周波数範囲において放射ノイズは大幅に抑制され、CISPR Class B規格の限度値もクリアしています。
図8:VLS6045AFによる放射ノイズ抑制効果例 - 出力2W~20WクラスのスピーカラインにおけるノイズサプレッションフィルタVAFシリーズの効果
VAFシリーズは、出力2W~20Wのオーディオライン向けに製品化したノイズサプレッションフィルタです。
図9は、チップビーズとVAF201610FAの対出力THD+N特性および周波数スペクトルの測定例です。
チップビーズは出力を上げていくとTHD+N値は上昇しますが、VAFではフィルタなしの場合とほぼ同等の特性を示し、挿入による歪の発生はありません。
出力信号(1kHz)の周波数スペクトルをみてもチップビーズの場合、高調波のレベルがきわめて高くなっていますが、VAFにおいてはフィルタなしの場合とほぼ同等のレベルです。これらの結果から、スピーカラインにおけるフィルタをチップビーズからVAFへ置き換えることによって、歪が低減され音質の向上に大きな効果があることがわかります。図9:VAF201610FAの対出力THD+N特性および周波数スペクトルの測定例 VLS-AFとVAFの組み合わせは、すぐれた放射ノイズ抑制効果を発揮 図10は、VAF201610FAシリーズのインピーダンス-周波数特性およびVLS-AFとVAFの併用によるノイズ抑制効果です。
ノイズ強度-周波数特性のグラフは、VLS-AFのみの場合と、VLS-AFとVAFを併用した場合のD級アンプのスピーカラインの放射ノイズ強度の測定例です。VLS-AFのみではCISPR Class Bの規格(赤色の破線)をクリアするにはやや不十分ですが、VLS-AFとVAFを併用することで、100MHz~400MHzの帯域におけるノイズ強度が、顕著に低減しているのがわかります。
これはVAFが100MHz~400MHzの帯域において高いインピーダンスをもつことによりD級アンプのノイズ対策に最適なことを示しています。図10:VLS2016FAのインピーダンス-周波数特性およびVLS-AFとVAFの併用によるノイズ抑制効果 - 出力2W~20WクラスのスピーカラインにおけるVLS-AF+VAF+ESD保護機能付きノッチフィルタAVRFの組み合わせの効果
出力2W~20Wクラスのスピーカラインにおいて、VLS-AFとVAFの組み合わせは、放射ノイズの抑制に効果的であることを示しましたが、さらにESD保護機能付きノッチフィルタを併用することで、より効果は高まります。
ESD保護機能付きノッチフィルタを挿入しても音質に悪影響を与えない ESD保護機能付きノッチフィルタは高いノイズ抑制効果を発揮するとともに、ESD(静電気放電)から回路を保護できる部品です。ESD保護機能付きノッチフィルタは双方向性のTVSダイオード(ツェナーダイオード)とコンデンサが並列接続された等価回路で表されます。侵入したESDなどをグランドにバイパスするとき以外はコンデンサとして機能するため、スピーカラインにVLS-AFやVAFと併用することにより、ノイズ抑制効果がいちだんと向上します。
図11は、VLS-AF(LPF用)にVAF、ESD保護機能付きノッチフィルタAVRFを組み合わせた回路の対出力THD+N特性、およびフィルタなし、VLS-AF、VLS-AF+AVRF、VLS-AF+VAF+AVRFの各組合せの放射ノイズ抑制効果の比較です。
VLS-AFにVAFやESD保護機能付きノッチフィルタAVRFを組み合わせた場合において、THD+N特性にほとんど差はなく、音質に悪影響を与えることはありませんが、ESD保護機能付きノッチフィルタAVRFの併用は、放射ノイズを大幅に抑制することが、図11のノイズ抑制効果の比較グラフからわかります。
このようにESD保護機能付きノッチフィルタAVRFは、ESD対策とともに、放射ノイズ抑制効果も向上させることができるため、VLS-AF+VAF+AVRFの併用は、さまざまなメリットをもたらす最適のソリューションとなります。図11:VAF、LPF、ESD保護機能付きノッチフィルタの併用によるノイズ抑制効果
D級アンプのスピーカラインへの適用ガイド
D級アンプのスピーカラインでご使用いただけるLPF用インダクタVLS-AFシリーズとノイズサプレッションフィルタMAFシリーズおよびVAFシリーズの適用ガイドを図12に示します(図12)。スピーカ出力やアプリケーションに合わせて製品をご使用ください。
適用ガイド:LPF用インダクタVLS6045AFシリーズ
適用ガイド:ノイズサプレッションフィルタMAF/VAFシリーズ
[関連ページ]ノイズサプレッションフィルタ セレクションガイド
マイクロホン、ヘッドホン、スピーカのESD対策とノイズ対策に効果的なESD保護機能付きノッチフィルタAVRFシリーズの適用ガイドを図13に示します。
適用ガイド:ESD保護機能付きノッチフィルタAVRFシリーズ
[関連ページ]ノイズサプレッションフィルタとESD保護機能付きノッチフィルタAVRFによるマイクロフォンラインのTDMAノイズ対策、受信感度の改善、ESD(静電気放電)対策