チップバリスタによるスマートフォンのオーディオライン・ESD保護ソリューションガイド 概要
スマートフォンのスピーカーやヘッドホンなどのオーディオライン(音声ライン)は、一般にESD保護(Electro-Static Discharge:静電気放電)対策として、TVSダイオードやチップバリスタ(積層チップバリスタ)が挿入されます。また、オーディオラインのノイズ対策はESD保護などのイミュニティ対策だけでなく、スマートフォン内部の回路配線から放射される電磁ノイズの対策も必須です。
TDKのチップバリスタは、オーディオラインのESD保護対策用としてはもちろん、
- 実装面積の大幅削減
- 音声歪みが小さい
- 受信感度の改善
- ノイズ抑制
オーディオライン・ソリューション用TDKチップバリスタのご案内
ヘッドホンライン向け | スピーカーライン向け | ||
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AVRM0603タイプ | AVRM1005タイプ | ||
AVRM0402タイプ | AVRM0603タイプ |
TVSダイオードからチップバリスタへの置き換えによるオーディオライン・ソリューション
スマートフォンなどのオーディオラインでESD保護対策が特に重視される理由
電子機器におけるヒューマン・インタフェースであるスピーカーやマイクロホン、ヘッドホンは、電子機器へのオーディオ信号の入出力を行うアプリケーションです。一般的に電子機器の外側に配置されることが多いため、外来ノイズの影響を受けやすくなっています。電子機器に対する外来ノイズの代表的なものの一つにESD(Electro-Static Discharge:静電気放電)があります。
近年、ICの低電圧化などにより、ESDによる電子機器の故障や誤動作が深刻な問題となっています。 特にヘッドホンジャックはピンプラグを頻繁に抜き差しするため、帯電したピンプラグを挿入する際にESDが発生し、機器内に気中放電される可能性が高く、対策が必須です。
こうしたインタフェース端子におけるESD試験方法として、特に人体に帯電した電荷が電子機器へ放電されることを想定した人体モデル(HBM:Human Body Model)が用いられます。図1はIEC61000-4-2規格の静電気イミュニティ試験で用いられる人体モデルです。
図1 :静電気イミュニティ試験(IEC61000-4-2)の人体モデル
TVSダイオードからチップバリスタへの置き換えが奨められる理由
ESD保護に使用される電子部品として、MLCC(積層セラミックチップコンデンサ)、ESDサプレッサ、TVSダイオード(ツェナーダイオード)、チップバリスタなどがあります。
図2にスマートフォンのオーディオラインの回路ブロック図を示します。スマートフォンでは、スピーカー用のパワーアンプに、デジタルアンプであるD級アンプ(クラスDアンプ)が使われています。また、ヘッドホンライン、マイクロホンラインはオーディオコーデックからダイレクトに音声信号が出力されます。このため、スピーカーラインやヘッドホンラインのESD保護対策として保護部品が挿入されます。このESD保護部品として使用されているTVSダイオードをチップバリスタに置き換えることで、多くのメリットが得られます。
図2 :スマートフォンのオーディオラインにおけるESD保護部品の使われ方
TVSダイオードとチップバリスタのESD保護性能はほぼ同等ですが、TVSダイオードからチップバリスタへの置き換えはさまざまなメリットがあります。大きくはスペースメリットとコストメリットですが、ノイズ抑制にも有効です。これはチップバリスタが大きな静電容量をもち、MLCCとしても機能するからです。 まずは、最大90%以上の実装面積を削減するチップバリスタならではのスペースメリットについて解説します。
メリット1. 最大90%以上の実装面積削減が可能
近年、スマートフォンの高機能化が急速に進んだことにより、メインボードは超過密状態で余裕のスペースがなく、従来よりもさらに小型の電子部品を使用する傾向がみられます。
TVSダイオードによるオーディオライン・ソリューションとして、ESD対策とともにノイズ除去も目的とすると、TVSダイオードの静電容量は小さいため、並列にMLCCを挿入する必要があり、部品2個分の実装面積を要します。一方、チップバリスタは大きな静電容量をもつため、TVSダイオードとMLCCの2チップを1チップで置き換えることができます。
図3は、TVSダイオードとMLCCを組み合わせた場合と、チップバリスタを使用した場合の実装面積の比較です。部品のサイズはそれぞれ、TVSダイオード:1006形状(1.0×0.6mm)、MLCC:0603(0.6×0.3mm)形状、チップバリスタ:0603形状を想定しています。0603形状のチップバリスタで80%以上の実装面積を削減することができ、その省スペース効果は絶大です。TDKでは0402形状(0.4×0.2mm)のチップバリスタも量産しており、この場合、90%以上の実装面積削減となり、スマートフォンのさらなる小型・高機能化に貢献することができます。
図3 :TVSダイオード+MLCCの2素子の組み合わせとチップバリスタ1素子の実装面積比較
メリット2. 音声歪みが小さい
スマートフォンのオーディオラインにESD保護部品を挿入すると、オーディオ信号を歪ませ、結果として音声歪みをもたらします。その度合はTHD+N(全高調波歪み+ノイズ)という数値で表されます。
図4は、ESD保護部品の対出力-THD+N特性です。ESD保護部品を挿入しない場合が、最も音声歪みが小さい状態であり、これを基準値とします。TVSダイオードを挿入すると、高出力領域でTHD+Nが大きく増加しました。一方、チップバリスタでは挿入なしの場合と同じように、音声歪みは起きませんでした。
図4 :ESD保護部品別 THD+N測定結果
これは、TVSダイオードやチップバリスタの電流-電圧特性(IVカーブ)が影響しています。TVSダイオードのIVカーブは、「急峻に立ち上がること」また「極性をもっている場合があること」が、オーディオ信号の歪みを生んでいる原因と考えられます。
チップバリスタは極性がなく、IVカーブはTVSダイオードとくらべて、緩やかに立ち上がることが特徴です。このため、オーディオ信号の歪みを抑えて高音質を保つためには、TVSダイオードよりチップバリスタが適しているといえます。
メリット3. 静電容量によるノイズ抑制効果
スマートフォンのオーディオラインでは、オーディオコーデックやD級アンプなどからノイズが発生し、内部アンテナに干渉して受信感度の劣化を引き起こします。その対策として、一般的にローパスフィルタ(LCフィルタ)が構成されますが、できるだけ幅広い静電容量ラインナップから最適製品を選定できることが望まれます。
表1に各種ESD保護部品がカバーする静電容量レンジを示します。MLCCは静電容量レンジが広く数pF~数µFまで、チップバリスタは数pF~数百pF、TVSダイオードは数pF~数10pFの領域をそれぞれカバーしていることがわかります。オーディオラインの配線から放射される電磁ノイズは、数100MHz~数GHzの周波数帯のものが多く、これらの周波数帯のノイズ減衰効果を高めるには、静電容量が数pF~数100pFの製品による対策が効果的です。
表1 :各種ESD保護部品の静電容量ラインアップ
0603形状(0.6×0.3mm)、1005形状(1.0×0.5mm)のTVSダイオードの静電容量は5~15pF程度のものが多く、狙いのローパスフィルタを構成するためには、図5のようにTVSダイオードと並列にMLCCを挿入する必要があります。MLCCを使用せずTVSダイオードだけの場合では、静電容量が十分でなく、電磁ノイズを除去することはできません。
チップバリスタの数10pF~数100pFの製品ラインナップは、数100MHz~数GHzのノイズ抑制に効果が得られます。チップバリスタの等価回路は、図6に示したように、双方向ダイオードとMLCCを並列に配置した構成です。TDKのチップバリスタは積層構造を採用しており、内部構造の設計を変えることで静電容量を容易に調整することができます。TDKでは1005形状(EIA0402):650pF以下, 0603形状(EIA0201):330pF以下までの幅広い静電容量ラインナップを用意し、ノイズ抑制が必要な周波数帯域に合ったものを選定することができます。
図5 積層チップバリスタの等価回路
図6 TVSダイオードを用いた電磁ノイズの除去
メリット4. 受信感度が改善される
図7はESD保護部品を使用した場合の受信感度の測定結果です。
ESD保護部品を取り除いた状態(保護部品なし)に対し、TVSダイオード(静電容量:5pF)では受信感度の低下がみられました。このTVSダイオードと並列にMLCC(静電容量:100pF)を挿入すると受信感度の改善がみられました。一方、チップバリスタ(静電容量:100pF、AVRM0603C6R8NT101N)は、1素子で受信感度の改善がみられました。
図7 :ESD保護部品別 スマートフォンの受信感度測定結果
これらの結果は、ESD保護部品の静電容量に従った伝送特性(挿入損失-周波数特性)の影響と考えられます。図8のESD保護部品の伝送特性においては、静電容量100pFのチップバリスタとMLCCが同等特性を示しており、1GHz付近の減衰が大きくなっています。一方、TVSダイオードは静電容量が5pFと小さいために、減衰領域は3GHz付近にあり、1GHz付近のセルラー帯の受信感度を改善することができません。TVSダイオードを用いたソリューションで受信感度を改善するためには、やはり静電容量100pFのMLCCを並列に挿入する必要があります。
図8 :ESD保護部品別 伝送特性(挿入損失-周波数特性)
メリット5. ESD保護効果
ESD保護はチップバリスタおよびTVSダイオードの基本的な性能です。IEC61000-4-2の人体モデル(HBM:Human Body Model)を用いた静電気イミュニティ試験においては、ESDクランプ波形の評価パラメータとして、立ち上がり部分の電圧をピーク電圧(Vpeak)、立ち上がり以降30~100nsの平均をアベレージ電圧(Vave)と規定しています。
図9は、静電気イミュニティ試験によるESD保護部品のESDクランプ波形を比較したグラフです。TVSダイオード(5pF)のESD保護性能は、MLCC(100pF)と並列接続して挿入した場合において、チップバリスタと同等であることが分かります。
図9 :ESD保護部品のESDクランプ波形
「チップバリスタによるスマートフォンのオーディオライン・ソリューション」まとめ
TDKはスマートフォンのオーディオラインのESD保護対策として、チップバリスタを用いた最適ソリューションを提案しています。特にTVSダイオードからチップバリスタへの置き換えは、効果的なESD保護対策とともに、スペースメリット、コストメリットなど、ノイズ抑制など、さまざまなメリットをもたらします。
TVSダイオードからチップバリスタへの置き換えメリット
- きわめて良好なESD保護対策が実現できます。
- TVSダイオード(ESD保護)とMLCC(ノイズ抑制)の2チップによる機能を、チップバリスタ1チップで対応できます。
- 広い静電容量ラインナップにより、ノイズ抑制が必要な周波数帯域に合ったものを選定できます。
- セルラー帯のノイズを効果的に減衰させることができ、受信感度を改善できます。
- 音声歪みの指標であるTHD+Nは、部品を挿入しない場合と同等レベルで、音声品質が確保できます。
《チップバリスタAVRMシリーズの主な特長・用途》
【主な特長】
- 独自開発のプラセオジム酸化亜鉛系材料を採用、先進の積層工法とプロセス技術で製造されるSMDチップタイプのバリスタです。
- 電流-電圧特性が対称であるため極性がありません。
- 小型ながら、すぐれた静電気吸収能力をもちます。
- 幅広い静電容量の製品をラインアップしています。
- スマートフォンのオーディオラインなどにおいて、TVSダイオード+MLCCからの1素子での置き換えが可能です。
- 省スペース化、部品点数の削減、実装コストの低減など、さまざまなメリットが得られます。
【主な用途】
- 各種電子機器のESD保護対策
(インタフェース端子、ボタン/スイッチ部、バッテリ端子など) - 特にスマートフォンのオーディオラインにおけるESD保護対策やノイズ対策など
【オーディオライン・ソリューション向けチップバリスタAVRMシリーズ】製品情報およびサンプル購入
ヘッドホンライン向けチップバリスタの推奨製品
Application | Cap.(pF) | EIA0201 Part# | EIA01005 Part# |
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ヘッドホンライン | 100 | AVRM0603C6R8NT101N | AVRM0402C6R8NT101N |
33 | AVR-M0603C120MTAAB | AVRM0402C120MT330N |
スピーカーライン向けチップバリスタの推奨製品
Application | Cap.(pF) | Over 2W(Vdc=17V) | 1W(Vdc=5.5V) |
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スピーカーライン | 100 | AVRM1005C270KT101N | AVRM0603C120MT101N |
30 | AVR-M1005C270MTAAB | AVR-M0603C120MTAAB | |
15 | AVR-M1005C270MTABB | AVRM0603C120MT150N |
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