ESD対策成功の鍵: GNDパターン設計とESD保護部品の活用
ESD可視化装置について
ESD可視化装置とは、ESD(Electro-Static Discharge :静電気放電)の流れを非接触の磁界プローブで自動走査させ、ESD電流の可視化を行うことができる装置です。(図1参照)
ESD可視化測定に用いる評価基板
おもて面:基板中央に電源・信号パターン、外周にフレームGNDパターンを形成しています。
うら面:基板中央にシグナルGNDパターンを形成し、1mmギャップを空け、外周にフレームGNDパターンを形成しています。(図2参照)
ESD可視化測定条件
ESD条件:基板うら面のコーナー部にESDを印加します。除電プローブはESD印加部と対角のコーナーに接続します。(図3参照)
ESD可視化測定条件:測定プローブは、基板面から1mmのギャップを設け、X、Y方向各2mmピッチで測定します。(図4参照)
実験1) フレームGNDとシグナルGNDパターン間ギャップの効果確認①
実験の目的
ESDをフレームGNDパターンに印加した場合、フレームGNDと1mmギャップを設けたシグナルGNDパターンへESD電流が拡散するのか、ESD可視化装置によって確認します。
想定した状況
- 一般的に、機器に印加されたESDは基板の外周部分から侵入する。
- ESDによる機器・ICの誤動作は、シグナルGNDに侵入したESDによって、基準GNDレベルが乱されることにより発生する場合が多い。
- フレームGNDとシグナルGNDは、1mmのギャップが設けてあるため、フレームGNDに印加されたESDは、シグナルGNDへは伝搬されない。(パターン間は絶縁されているため)
- パターン間の1mmギャップが、フレームGNDからシグナルGNDへのESD侵入を抑制することが可能であれば、ESD対策基板設計として活用することが可能と考える。
・シグナルGNDへのESD侵入は見られない。
・シグナルGNDパターンへESD電流が侵入している。
実験1)のまとめ
- フレームGNDとシグナルGNDは、1mmのギャップが設けてあるが、フレームGNDに印加されたESDは、シグナルGNDへ侵入してしまう。
- ESD電流は、ESD充電電圧が高いほど、フレームGNDからシグナルGNDへ拡散している。
実験2) フレームGNDとシグナルGNDパターン間ギャップの効果確認②
実験の目的
実験1)の結果に対し、フレームGNDとシグナルGND間ギャップ5mmとした場合、シグナルGNDパターンへESD電流が拡散するのか、ESD可視化装置によって確認します。
想定した状況
- 実験1)の結果より、フレームGNDとシグナルGND間ギャップ1mmでは、フレームGNDに印加されたESDは、シグナルGNDへ侵入してしまった。
- フレームGNDからのESDをシグナルGNDと絶縁させるには、フレームGNDとシグナルGND間ギャップ1mmでは、十分ではない。
- パターン間ギャップを5mmまで広げた場合、フレームGNDとシグナルGNDが絶縁され、フレームGNDに印加されたESDは、シグナルGNDへ伝搬されない。
実験2)のまとめ
- フレームGNDからシグナルGNDパターンへのESD拡散は、いずれも大差は見られなかった。
- フレームGNDとシグナルGNDは、5mmのギャップが設けてあるが、フレームGNDに印加されたESDは、シグナルGNDへ侵入してしまう。
- パターン間にギャップを設けることで、フレームGNDからシグナルGNDへのESD侵入を抑制することは難しい。
なぜシグナルGNDにESDがはいりこんでしまうのか?
ESDの強さやパターン形状によっては、フレームGNDへESD電流が流れることで、パターン周囲に磁界が発生し、隣接するパターンへ誘導することによって、ESD電流がシグナルGNDへ伝搬したと考えます。
実験3) フレームGNDとシグナルGNDパターン間への部品搭載の効果確認
実験3のアプローチ
実験1)、2)では、フレームGNDに印加されたESDを、シグナルGNDへ侵入させない対策を考えました。
しかし、実験1)、2)の結果から、パターン間にギャップを設ける対策では、フレームGNDからシグナルGNDへのESD侵入を抑制することは難しいことが分かりました。
シグナルGNDに侵入したESDを逃がすことで、シグナルGNDの基準GNDレベルの乱れを最小限に抑えることができるのではないかと考え、実験3)では、シグナルGNDに侵入したESDをESD保護部品によって効果的に逃がすことが可能かを確認します。
実験の目的
フレームGNDとシグナルGND間に、ESD保護部品(チップバリスタ)を配置することで、チップバリスタがESD電流をバイパスさせることが可能か、ESD可視化装置によって確認します。
想定した状況
- 実験1)、2)の結果より、フレームGNDに印加されたESDは、シグナルGNDパターンへ侵入してしまう。
- シグナルGNDに侵入したESDがパターン内に滞留しないよう、意図的にESD電流の通り道を設け、ESDを逃がす。
- シグナルGNDからフレームGNDへESDを導くことができれば、 ESD対策基板設計として活用することが可能と考える。
- シグナルGNDとフレームGNDパターン間にチップバリスタを配置するために、フレームGNDの内側に複数の凸部がある評価基板を使用
- チップバリスタ配置箇所のみ、シグナルGNDとフレームGNDパターン間ギャップが1mmと狭くなっている (部品搭載位置以外は3mmギャップ)
- シグナルGNDとフレームGNDパターン間に、チップバリスタ(1.0x0.5mm、6.8V)を各辺中央に4つ配置
ESDはチップバリスタによってシグナルGND側にバイパスされている。フレームGNDへの拡散は抑制されている。
実験3)のまとめ
- フレームGNDとシグナルGND間に、チップバリスタを配置することで、ESDはチップバリスタを介してシグナルGND側にバイパスされた。
- さらに、シグナルGND側にバイパスされたESDは、チップバリスタを介してフレームGND側へバイパスされた。
- チップバリスタは、シグナルGNDに侵入したESDをフレームGNDへ逃がすためのESD電流の通り道として機能した。
まとめ
本実験は、下記を想定し、シグナルGNDにESDを侵入させないこと(基準GNDレベルの安定化)ために、PCBのGNDパターン設計による対策効果を確認した実験です。
- 一般的に、機器に印加されるESDは基板の外周部分から侵入する。
- ESDによる機器・ICの誤動作は、シグナルGNDに侵入したESDによって、基準GNDレベルが乱されることにより発生する場合が多い。
実験1)、2)では、フレームGNDとシグナルGND間にギャップを設けて、フレームGNDからシグナルGNDへのESD侵入の抑制効果を確認しました。その結果、パターン間にギャップを設ける対策では、フレームGNDからシグナルGNDへのESD侵入を抑制することは難しいことが分かりました。
実験3)では、『フレームGNDに印加されたESDを、シグナルGNDへ侵入させない対策』ではなく、『シグナルGNDに侵入したESDをフレームGNDへ逃がす対策』の可能性を確認しました。
その結果、ESDはチップバリスタを介してシグナルGND側にバイパスされ、別の箇所に搭載されたチップバリスタを介してフレームGNDへバイパスされました。
フレームGNDとシグナルGND間にESD保護部品を配置することで、シグナルGNDに侵入したESDを逃がすためのESD電流の通り道として機能することが分かりました。
シグナルGNDに侵入したESDを逃がすことで、シグナルGNDの基準GNDレベルの乱れを最小限に抑えることができ、ESDによる機器・ICの誤動作の対策になると考えます。
GNDパターン設計と、ESD保護部品の活用をご検討頂くことで、効果的なESD対策が可能と考えます。
今回の実験結果をご活用頂くことで、ESDに強い回路設計の一助になれば幸いです。
ESD技術サポート
TDKでは、IEC61000-4-2やISO10605に準拠したESD試験や、ESD抑制電圧波形の測定を行うことができます。
さらに、本記事に示したESD可視化装置を用いたESD電流測定にも対応することができます。
- 特長
- ◆ ESDの経路を特定することができる。
- ◆ 基板上のESD電流マッピングが可能。
- ◆ ESDをnsオーダーで測定が可能。
- ◆ 非接触での測定が可能なため、
測定系の影響を与えずESDの挙動が確認できる。