ESD保護部品のパフォーマンスを引き出す回路設計|静電気の見える化
しかし、昨今、従来までは効果が見られた積層チップバリスタ製品が、お客様の機器の小型・軽量化や高機能化に伴い、十分な保護効果が得られない場合が発生しております。
そこで、この原因を調べるために、お客様の機器の小型化を想定したESD試験を行いましたので、ご紹介致します。
目次
背景
5G化により機器間の相互連携・リアルタイム通信が実現し、あらゆる機器に、小型・軽量化、低消費電力化、高機能化、長時間稼働、高信頼性、EMC耐量向上など、より高品質な設計が求められています。
自動車や産業機器、医療機器といった大型機器と、スマートフォン、VR、ドローンなどの小型モバイル機器では、機器の基板設計や筐体設計が異なります。小型モバイル機器では、基板のサイズを大きくできないため、ESDが侵入しやすく、また、ESDを逃がすためのGNDパターンや筐体も不安定な場合が多く、ESD対策が難しい機器の一つです。
TDKでは電圧保護素子としてバリスタ(酸化亜鉛)とアレスタ(放電管)の両方を幅広くラインアップ。小電流から大電流まで様々な用途にご使用いただけます。
本記事で紹介するESD試験は、下図の製品マップに載せているESD対策用チップバリスタを使用します。製品をクリックすると詳細がご覧になれます。
実験概要
- 【実験の目的】
- GNDパターン設計の異なるPCBを用い、ESD印加時にESD保護部品を介してGNDパターンにESDをバイパスさせる様子を、ESD可視化装置によって確認します。
- 【想定した状況】
- ・機器の小型化により、基板サイズを大きくできない。
- ・GNDパターンを広く取ることができない。
- ・基板のGNDパターンは、金属筐体には接続されていない。
- 【実験水準】
- 【実験に使用する基板】
材質:FR4
設計:2層基板
厚み:1.6mm
Cu厚み:40um
ESD可視化装置について
ESD可視化装置とは、ESD(Electro-Static Discharge :静電気放電)の流れを非接触の磁界プローブで自動走査させ、ESD電流の可視化を行うことができる装置です。
基板のGNDパターン設計
本実験は、2層基板(おもて面:信号パターン、裏面:GNDパターン、おもて面のGNDパターンはViaを介して裏面に接続)を用いて行います。
裏面のGNDパターンは、それぞれ面積が異なっており、①パターンが狭い(10x20mm)、②パターンが広い(85x50mm) の2種類を用意しています。
実験 - セッティング
基板おもて面の信号パターンとGNDパターン間にチップバリスタを配置します。 GNDパターンは、金属筐体やアースGNDから分離されています。
この状態で、IEC61000-4-2条件のESD 1kVを、信号パターン上に印加します。
実験 - 測定結果
GNDパターンが狭い場合、ESDはバリスタを通過し信号パターンへ拡散していきます。一方、GNDパターンが広い場合、ESDはチップバリスタを介してGNDパターンへバイパスされます。これは、信号ラインに対するGNDパターンのインピーダンスの大小によるものです。 GNDパターンが狭い場合、GNDパターン側のインピーダンスが高くなるため、チップバリスタを介してESDをバイパスすることができません。
GNDパターンが狭い場合
裏面のGNDパターンへ接続
✔ ESDは、チップバリスタを通過し、信号パターンを拡散し、回路内へ侵入。
GNDパターンが狭い場合、ESDが印加された信号パターンに比べ、GNDパターンは高インピーダンスとなってしまう。 この場合、ESDはチップバリスタを通過し、信号パターンを拡散し、回路内へ侵入する。
GNDパターンが広い場合
裏面のGNDパターンへ接続
✔ ESDは、チップバリスタを経由してGNDパターン側へバイパスされている。
一方、GNDパターンが、金属筐体やアースGNDから浮いていても、GNDパターンが広く、ESDが印加された信号パターンよりも低インピーダンスであれば、ESDはチップバリスタを介してGND側へバイパスすることができる。
実験 - GNDパターンサイズとインピーダンスの考え方
実験 - ESD対策方法の改善
GNDパターンが狭く、チップバリスタのESD抑制効果が得られない場合、GNDパターンを金属筐体に接続することにより、チップバリスタのESD抑制効果を引き出すことができます。
MLCCの効果: MLCC 0.1uFは、ESDに対し低インピーダンス特性を示すため、GNDパターンと金属筐体の間をMLCCで接続することによって、GNDパターン(MLCCを介した金属筐体を含む)全体では、下図のように低インピーダンスを示します。これにより、GNDパターンの大きさによらず、ESDはチップバリスタを経由してGNDパターン(MLCCを介した金属筐体を含む)にバイパスされます。
✔ ESDは、チップバリスタを経由してGNDパターン側へバイパスされている。
実験結果のまとめ
- GNDパターンが金属筐体やアースGNDから浮いている場合のESD対策
- 小型電子機器やモバイル機器では、回路のGNDパターンが、金属筐体やアースGNDと分離している設計が多くみられます。このようなケースでも、回路のGNDパターンを極力広く取ることで、チップバリスタのようなESD保護部品のパフォーマンスを発揮させることができます。
一方、GNDパターンを広く取れない場合は、ESD保護部品のESD抑制効果が得られない場合があり、ESDの回路内への侵入リスクが高まります。
しかし、機器の筐体とGNDパターンの設計を見直すことで、 ESD保護部品のパフォーマンスを発揮させることができる可能性があります。
ESD保護部品を介してバイパスされるGNDパターンのインピーダンスを下げる回路設計を取ることで、より効果的なESD対策回路が実現できます。
ESDトラブルのデバッグ
- オシロスコープとアッテネータを使って、信号ラインのESDの振舞いを測定する場合
- 実験-1と同様のセッティングにおいて、ESDの振舞いを、ESD可視化装置ではなく、オシロスコープとアッテネータを用いて確認します。
- ✔ GNDのパターンの大きさによらず、ESDはチップバリスタを流れず、アッテネータ(50Ω)側へ侵入しGNDへバイパスされた。
(参考波形のような、チップバリスタによるESD電圧の抑制波形は確認できなかった。) - ✔ 先の実験では、GNDパターンが広い場合、チップバリスタを介してGND側にESDをバイパスする様子が確認されたのに対し、
オシロスコープによる波形確認では、GNDパターンの大きさによらず、チップバリスタによるESD抑制波形は確認できなかった。 - ✔ ESD波形を確認するための測定系の接続によって、基板上を流れるESDの振舞いは異なる結果となった。
ESDトラブルのデバッグの際、波形確認のために、プローブやアッテネータを接続する場合、測定系によってESDの経路に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
ESD可視化装置は、プローブ等の接続が不要で非接触で測定が可能です。
ESD技術サポート
TDKでは、ESD可視化装置を用いたESD測定が可能です。ESD・ノイズ対策でお困りの際は、弊社までお問合せください。
NECプラットフォームズ(株)製 ESD可視化システム
- 特長
- ◆ ESDの経路を特定することができる。
- ◆ 基板上のESD電流マッピングが可能。
- ◆ ESDをnsオーダーで測定が可能。
- ◆ 非接触での測定が可能なため、
測定系の影響を与えずESDの挙動が確認できる。