静電気で電子機器が故障!劣化しにくいチップバリスタの選び方

独自の材料を採用しているTDKのチップバリスタAVRシリーズは、繰り返しサージに強いのが特長です。高速で頻繁なON/OFF動作で使用される小型の電磁弁やステッピングモータなどにおいて、ツェナーダイオードなどと置き換えできる製品も提供しています

独自の材料を採用しているTDKのチップバリスタAVRシリーズは、繰り返しサージに強いのが特長です。高速で頻繁なON/OFF動作で使用される小型の電磁弁やステッピングモータなどにおいて、ツェナーダイオードなどと置き換えできる製品も提供しています。

電磁弁やステッピングモータなどでも、ツェナーダイオードなどとの置き換えが可能

この記事では、繰り返しサージ耐量にすぐれたTDKのチップバリスタAVRシリーズの特徴と置き換えメリットをご紹介します。

図1 誘導性負荷の逆起電力によるサージの発生とサージ保護デバイスの役割

図1 誘導性負荷の逆起電力によるサージの発生とサージ保護デバイスの役割

モータやトランス、電磁弁(ソレノイドバルブ)など、コイルを利用した誘導性負荷をもつ装置では、電源OFF時にコイルの自己誘導作用により大きな逆起電力が生じ、供給電圧の数倍~10倍以上の高いピークをもつパルス性のサージが発生します。このサージは回路を誤動作させたり、半導体素子などの周辺部品を破損したりするおそれがあり、サージアブソーバ、サージキラーなどとも呼ばれる各種のサージ保護デバイスが使用されます。
回路電圧が比較的低いシステムにおいては、チップバリスタ、ツェナーダイオード、TVSダイオードなどが使用されています。いずれもサージを生む過電圧を抑制することで回路を保護します(図1)。

積層工法で製造されるチップバリスタは、小型ながらサージ吸収性能にすぐれ、また実装面でスペースメリットやコストメリットもあることから、サージ保護用やESD(静電気放電)対策用として電子機器で多用されています。しかし、従来、電磁弁やステッピングモータなど(図2)、ON/OFFを頻繁に繰り返して使われることの多い誘導性負荷の装置においては、伝統的にもっぱらツェナーダイオードやTVSダイオードなどが選択されてきました。チップバリスタは頻繁なON/OFFにともなって発生する繰り返しサージに対して弱いというイメージがもたれていたからです。
独自の材料を採用しているTDKのチップバリスタAVRシリーズは、繰り返しサージに強いのが特長です。高速で頻繁なON/OFF動作で使用される小型の電磁弁やステッピングモータなどにおいて、ツェナーダイオードなどと置き換えできる製品も提供しています。また、ツェナーダイオードなどとの置き換えは、さまざまなメリットももたらします。

図2 電磁弁の構造例とステッピングモータの駆動システムの基本構成

図2 電磁弁の構造例とステッピングモータの駆動システムの基本構成

ZnO(酸化亜鉛)の結晶粒を取り巻く粒界の物性がバリスタ特性を発現

バリスタとは変化する抵抗器を意味する"Variable Resistor"を略した合成語で、電圧-電流特性がオームの法則に従わずに非直線性となる抵抗素子です。チップバリスタの内部構造を図3に示します。

チップバリスタは、主原料のZnO(酸化亜鉛)に各種の添加物を加えたバリスタ材料のシートに内部電極を印刷し、これを積層して所定のチップサイズに切断、焼成炉で焼成してから端子電極をめっきで形成したSMD部品です。焼成されたバリスタ素体は微細なZnO粒子からなる多結晶体の半導体セラミックスであり、焼成プロセスにおいて添加物は結晶粒の周囲に偏析し、高抵抗の粒界を形成します。このため、チップバリスタは回路電圧や信号電圧などの低電圧に対しては高抵抗を示しますが、一定値を超える過電圧に対しては急激に抵抗値を下げて、過電圧をサージ電流として流すようになります。この電圧をバリスタ電圧といい、一般に端子間にDC1mAの電流が流れるときの端子間電圧と定められているため、バリスタ電圧はV1mAと表記されます。このようなバリスタ特性の発現は、多数の結晶粒を取り巻く粒界の物性によるものです。

図3 チップバリスタの内部構造およびZnO粒子の多結晶体構造と粒界(模式図)

図3 チップバリスタの内部構造およびZnO粒子の多結晶体構造と粒界(模式図)

バリスタが特性を劣化させないで処理できる電流の大きさをサージ電流耐量といい、特性を劣化させないで吸収できるエネルギーの大きさをエネルギー耐量といいます。
バリスタは定格を超えるサージ電流の吸収を繰り返すと、バリスタ電圧がしだいに低下していく傾向があります。これはサージ電流が繰り返し流れると、そのつど発生するジュール熱により、粒界層が部分的に破壊されていくからと説明されています。

図4はチップバリスタの一般的な劣化例です。劣化が進行すると、発熱によって内部電極の溶解、バリスタ素体の溶融が起こります。
その結果、チップバリスタがショートモードとなる可能性があります。

図4 繰り返しサージによるチップバリスタの劣化例

図4 繰り返しサージによるチップバリスタの劣化例

独自材料の採用による繰り返しサージ耐量にすぐれたTDKのチップバリスタ

バリスタの繰り返しサージ耐量は、主成分のZnOに加えられる添加物の種類・組成など、材料系によって大きく異なります。
素材技術を駆使して開発した独自材料を採用しているTDKのチップバリスタは、繰り返しサージ耐量にすぐれるのが特長で、頻繁なON/OFF動作で使用される電磁弁やステッピングモータなどにおいて、ツェナーダイオードなどとの代替を可能にする製品も提供しています。

図5は一般的なチップバリスタと、TDKのチップバリスタ(車載グレードAVRシリーズ)の繰り返しサージ耐量特性を比較したグラフです。横軸はIEC6100-4-2のHBM(人体モデル)試験における15kVの電圧の印加回数で、縦軸はバリスタ電圧(V@1mA)の変化率です。ともに10素子で測定しています。
一般的なチップバリスタでは、10回の印加で約5%低下し、10000回では10%近くも低下しています。一方、TDKのチップバリスタは10000回の印加でも低下はみられず、格段にすぐれた繰り返しサージ耐量を有することがわかります。

図5 一般的なチップバリスタとTDKの独自材料によるチップバリスタの比較:繰り返しサージ耐量特性

図5 一般的なチップバリスタとTDKの独自材料によるチップバリスタの比較:繰り返しサージ耐量特性

図6は電圧の繰り返し印加による28Vdcでのリーク電流(漏れ電流)の変化を示したグラフです。一般的なチップバリスタは、10回の印加で漏れ電流は約100倍も増加しています。一方、TDKのチップバリスタは10000回の印加でも変化はみられません。

図6 一般的なチップバリスタとTDKの独自材料によるチップバリスタの比較:リーク電流(漏れ電流)の変化

図6 一般的なチップバリスタとTDKの独自材料によるチップバリスタの比較:リーク電流(漏れ電流)の変化

図7は一般的なツェナーダイオードとTDKのチップバリスタ(車載グレードAVRシリーズ)の繰り返しサージ耐量の比較例です。図5の比較試験と同じ条件での結果です。TDKのチップバリスタはツェナーダイオードと遜色のないすぐれた特性をもつことがわかります。

図7 一般的なツェナーダイオードとTDKの独自材料によるチップバリスタの比較:繰り返しサージ印加によるバリスタ電圧への影響

図7 一般的なツェナーダイオードとTDKの独自材料によるチップバリスタの比較:繰り返しサージ印加によるバリスタ電圧への影響

TVSダイオードとコンデンサの組み合わせからチップバリスタ単体への置き換えメリット

チップバリスタはサージ吸収性能とともにノイズ抑制効果もあわせもちます。
図8にチップバリスタの等価回路を示します。チップバリスタは逆向きに接続したツェナーダイオード2素子とコンデンサを並列接続したものと同等です。電流-電圧特性は対称で、極性をもちません。高抵抗の粒界により通常はコンデンサとして機能し、広い周波数帯でノイズ吸収効果を発揮します。

図8 チップバリスタの等価回路

図8 チップバリスタの等価回路

TVSダイオードでESD対策、コンデンサでEMI対策を行っている回路の場合、チップバリスタ単体で置き換えることが可能です。

図9 TVSダイオード+コンデンサからチップバリスタ単体への置き換え

図9 TVSダイオード+コンデンサからチップバリスタ単体への置き換え
チップバリスタの特徴
  • ●極性がないので、1素子で双方向のESD/サージ対策が可能
  • ●高静電容量化が容易
  • ●小型・低背
  • ●すぐれたESD/サージ耐性

スペースメリット、コストメリット、ノイズ対策の面からも有力な選択肢

サージ保護デバイスであるバリスタにはさまざまなタイプがあり、その特性は材料系によって大きく異なります。
大型の電磁弁やモータは逆起電力の影響を受けにくく、電磁弁自体も過電圧に強いので、サージからの保護用に一般的なディスクバリスタなどが使われています。また、過電圧が印加される回数があまり多くない場合は、一般的なバリスタでも十分にセットを保護することが可能です。
一方、ON/OFFが高速で頻繁に繰り返されるような電磁弁やステッピングモータなどは、長期間の使用で過電圧がバリスタに1000万回、1億回以上も印加される可能性があり、印加による劣化が起こらない材料系を選択することが重要になります。

素材技術を駆使して開発したTDKのチップバリスタは繰り返しサージ耐量にすぐれるのが特長で、ツェナーダイオードと遜色のない特性の製品も、車載グレードAVRシリーズとして提供しています。ON/OFFが高速で頻繁に繰り返される小型の電磁弁やステッピングモータなどにおいて、ツェナーダイオードなどとの置き換えを可能にします。さらには、1005サイズの小型チップバリスタでも安定した特性を示すため、スペースメリットやコストメリット、ノイズ抑制やESD対策などの面からも有力な選択肢となります。

車載グレードAVRシリーズとして提供しているTDKのチップバリスタの中から、特にすぐれた推奨製品を以下に示します(表1)。いずれもIEC61000-4-2のHBM試験において印加電圧25kVの耐量を有しており、高信頼性と長寿命が求められる車載用途はもちろん、上記で示したような電圧印加の繰り返し耐量が求められる産業機器においても、安定した特性を示します。12V回路系、24V回路系で使用できる推奨製品をサイズごとに記載しています。

表1 繰り返し耐量に特にすぐれる車載グレードの推奨製品
回路系 シリーズ・タイプ L×W寸法
[EIA]
バリスタ電圧
V1mA
@DC1mA

(V)
定格電圧
Vdc


(V)
静電容量
C
@1kHz,
1Vrms
(pF)
使用温度
範囲


(°C)
12V
回路系
AVRH10C270KT150NA8 1.0×0.5mm
[EIA0402]
27 19 15 -40 ~150
AVR-M1608C220KT6AB 1.6×0.8mm
[EIA0603]
22 16 560 -40 ~125
AVR-M2012C220KT6AB 2.0×1.2mm
[EIA0805]
22 16 800 -40 ~125
24V
回路系
AVRH10C390KT500NA8 1.0×0.5mm
[EIA0402]
39 28 50 -40 ~150
AVRM1608C390KT271N 1.6×0.8mm
[EIA0603]
39 28 270 -40 ~125
AVR-M2012C390KT6AB 2.0×1.2mm
[EIA0802]
39 28 430 -40 ~125

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