サーバー電源回路用TLVRインダクタ
そうした市場動向に対応すべく、CPU,GPU,FPGA等の半導体プロセッサーでは、製造プロセス技術の微細化が進展し、単位面積当たりのゲート集積数が増加して、動作周波数が高くなり、 情報処理能力が大幅に向上しました。
こうしたプロセッサーの能力向上に対応して、Server用電源回路においても、大きな進化が起こっています。
目次
サーバー用電源の現状
半導体プロセッサーの微細化により電源電圧は低下していますが、消費電流の増大により、消費電力は増大の一途をだどっています。
低電圧大電流化が進展するにつれて問題となるのが、高速負荷変動への応答です。
低電圧化によって、電圧の許容公差は非常に小さいものとなります。例えば、プロセッサーの誤動作を避ける為、コア電圧を±3%の精度で供給するとすれば、電圧が1Vではその公差は±30mVに抑える必要があります。サーバー用の電源では、1000Aを超える大電流負荷が急変する駆動条件においても、出力電圧はできる限り一定に保たなければなりません。
継続的に進展してきている低電圧大電流化に対して、これまでは高周波化とマルチフェーズ化によって対応することが可能でした。
マルチフェーズVRの場合、大電流の負荷変動に対して、1フェーズのデューティ制御だけでは対応できず、複数フェーズにわたるデューティ制御が必要となりますが、
フェーズの切り替わりには時間を要する為、応答速度を上げるためには、さらに高周波化する必要がありました。
高周波化は負荷応答性の向上に対して大きな効果がありますが、一方でスイッチング素子の損失があまりにも大きなものになり、省電力化が重要特性となるサーバー用電源においては、既存回路構成であるマルチフェーズVRのこれまで以上の高周波化は困難になっています。
また大電流の電圧変動に対しては、大容量の外付けコンデンサの使用によっても、ある程度抑えることはできますが、実装面積とコンデンサのコストが増大してしまうという問題もありました。
こうした状況に対応すべく、低電圧大電流用途における高速負荷変動に対応する方法として、現在は、TLVR(Trans-Inductor Voltage Regulators)という回路構成が主流です。
この回路構成は、各フェーズのスイッチに接続されたインダクタに巻き線が追加され、その各フェーズの巻線と補償インダクタを直列ループで接続することで、各相からの電流供給を同時に行うものです。このTLVRによって、電源の損失を抑えつつ、半導体プロセッサーでは負荷の要求に対応した高い過渡応答性能を得ることができ、出力コンデンサの値を小さく抑えられ、実装面積とシステムのコストを低減することが可能となりました。
TLVRにおける回路構成
図2を用いて、TLVRの動作メカニズムについて説明します。マルチフェーズVRにおいて電流需要が突然増加した場合、出力電圧を維持すべく、そのタイミングでONとなっているフェーズのデューティが拡大し、出力電流を増加させます。特定フェーズのデューティを拡大する事で、そのフェーズの出力電流は増加させることができますが、大電流の負荷変動が発生した場合には、電流値が足りず、それに続く複数のフェーズにおけるデューティの拡大により、出力電流の増加に対応する事になります。
その場合、必要な電流需要確保にかかる時間は容認できないほど長く、出力電流のスルーレートは低くなり、急変する負荷に対する十分な応答ができません。
一方で、TLVRにおいては、各フェーズのスイッチに接続されたインダクタには巻き線が追加され、各インダクタに追加された巻線と補償インダクタを直列ループで接続されています。この回路構成で、突然大きな電流需要が増加した場合には、そのタイミングでONとなっているフェーズのデューティが拡大して、出力電流を増加させるのに加えて、スイッチがONになっていない他のインダクタとも連動し、同じタイミングで全てのインダクタから電流を供給する事ができます。そのことによって、大電流の負荷変動が発生した場合でも、電源電圧をほとんど低下させることなく、高い負荷過渡応答を得ています。
高速で電流を供給できるTLVR方式は、出力コンデンサの削減にも効果があり、現在主流の回路構成となっています。
マルチフェーズVR | TLVR |
---|---|
|
(C) (D) New I_Lc New |
図:従来のマルチフェーズVRの回路構成と動作 (A)回路構成 (B)各相を駆動するPWM波形 (C)負荷過渡時の電圧レギュレータ応答 |
図:TLVR方式の回路構成及びトランジェント動作 (A)回路構成 (B)各相のインダクターを流れる電流 (C)二次巻線を流れる電流 (D)各相の出力電流 |
TLVRを用いた負荷応答シミュレーション
限られた条件下ですが、比較事例として、回路シミュレータを用い、8phaseのマルチフェーズVRとTLVRによる負荷急変時の出力電圧の変化を比較しました。
以下は、スイッチング周波数800kHzで12Vから1.8Vへの変換を想定し、出力平滑コンデンサの値を1850μFとした場合、240A→360A→240Aの負荷変動に対する電圧変動を計算した結果です。
その結果、マルチフェーズVRにおける、負荷電圧の変動は1.8Vに対して±0.3Vでした。
一方で、TLVRにおける出力の変動は、±0.1V未満となり、電圧安定化に必要な時間も大幅に短縮できることが確認できました。
仮に、負荷変動時の許容電圧変動を±0.3Vとした場合、TLVRの回路構成にすることで、出力平滑コンデンサの値は、230μFと、およそ1/8近くまで削減され、電圧安定化に必要な時間も大幅に短縮できることが確認できました。
マルチフェーズVR
TLVR
想定駆動条件:Vin=12V
Vo=1.8V-240A、Fsw=800kHz
負荷変動:Io=240A⇒360A⇒240A
インダクタンス値:L1-L8 =120nH
負荷変動
回路構成 | 電圧変動 |
---|---|
マルチフェーズVR C:1850μF |
|
TLVR C:1850μF |
|
TLVR C:230μF |
TLVRの回路構成に最適化されたVLBUCインダクタ
TLVRの回路構成に最適化された、デュアルコイルパワーインダクタVLBUCシリーズとLc補償パワーインダクタVLBU6565100を紹介いたします。
VLBUC12060120シリーズは、高い飽和磁束密度を持ち、高周波スイッチングに最適化された磁性材料と独自の電極構造によって、低損失を実現した大電流対応のデュアルコイルパワーインダクタです。2つのコイル間の耐電圧として、DC100Vを確保しています。
また、VLBU6565100シリーズは、Lc補償パワーインダクタに適した、高周波帯での低損失を重視した製品です。
いずれも、–40 to +125°Cの使用温度範囲に対応しています。
6フェーズの場合
品番 | Coil | インダクタンス | Lk | K | Test | 直流抵抗 | 定格直流電流(A) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
at 0A (nH) |
Tol. (%) |
(nH) | (-) | Freq. (kHz) |
Spec.Typ (m-Ohm) |
Tol. (%) |
Isat_20% Typ. | Itemp_40C Typ. |
|||
25°C | 100°C | ||||||||||
VLBUC12060120R07MF3 | Primary Secondry |
70 60 |
+/-20% +/-20% |
4.4 | 0.94 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
155 | 130 | 70 40 |
VLBUC12060120R08MF3 | Primary Secondry |
75 60 |
+/-20% +/-20% |
4.4 | 0.94 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
148 | 120 | 70 40 |
VLBUC12060120R09LF3 | Primary Secondry |
90 90 |
+/-20% +/-20% |
4.3 | 0.96 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
138 | 110 | 70 40 |
VLBUC12060120R10LF3 | Primary Secondry |
105 105 |
+/-20% +/-20% |
4.2 | 0.96 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
125 | 100 | 70 40 |
VLBUC12060120R12LF3 | Primary Secondry |
120 120 |
+/-20% +/-20% |
4.3 | 0.97 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
106 | 90 | 70 40 |
VLBUC12060120R15LF3 | Primary Secondry |
150 150 |
+/-20% +/-20% |
4.3 | 0.97 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
82 | 70 | 70 40 |
VLBUC12060120R17LF3 | Primary Secondry |
170 170 |
+/-20% +/-20% |
4.3 | 0.97 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
70 | 60 | 70 40 |
VLBUC12060120R20LF3 | Primary Secondry |
200 200 |
+/-20% +/-20% |
4.3 | 0.98 | 100 100 |
0.125 0.45 |
+/-10% +/-10% |
58 | 50 | 70 40 |
注意)Isat_20%:1次コイルに直流電流のみを供給する時、インダクタンス飽和に依存します。(初期L値より20%減少)
Itemp_40C: 1次コイルまたは2次コイルに直流電流のみを供給する時、自己温度上昇(40℃)に依存します。
Lp(L1次): pin1-pin4
Lk(Lリーケージ):pin1-pin2 (pin3とpin4のショート時)/2
K(結合係数):1-(Lk/Lp)
品番 | インダクタンス | Test | 直流抵抗 | 定格直流電流(A) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
at 0A (nH) |
Tol. (%) |
Freq. (kHz) |
Spec.Typ (m-Ohm) |
Tol. (%) |
Isat_20% Typ. | Isat_30% Typ. | Itemp_40C Typ. |
|||
25°C | 100°C | 25°C | 100°C | |||||||
VLBU6565100R10LF4 | 0.10 | +/-15% | 100 | 0.17 | +/-10% | 83 | 70 | 86 | 73 | 70 |
VLBU6565100R12LF4 | 0.12 | +/-15% | 100 | 0.17 | +/-10% | 65 | 55 | 68 | 57 | 70 |
VLBU6565100R15LF4 | 0.15 | +/-15% | 100 | 0.17 | +/-10% | 50 | 42 | 53 | 44 | 70 |
注意)Isat_20%: インダクタンス飽和に依存します。(初期L値から20%減少)
Isat_30%: インダクタンス飽和に依存します。(初期L値から30%減少)
Itemp_40C: 自己温度上昇(40℃)に依存します