車載電源ライン用コモンモードフィルタ
目次
DC入力フィルタ回路基本構成
DC入力フィルタ回路のフィルタ構成は基板パターンのGNDの取り方に大きく左右され、減衰させる帯域とノイズ伝搬ルートによって適切な部品を使い分ける必要があります。EMI対策において設計初期段階はインダクタ(L)、コンデンサ(C)、コモンモードフィルタ(CMF)を配置できるパターン構成が望ましいです。
ノーマル(デファレンシャル)モードノイズとコモンモードノイズ
伝導ノイズにはノーマル(デファレンシャル)モードノイズとコモンモードノイズの2種類があります。ノーマルモードノイズは回路ライン間に発生して逆相に流れ、コモンモードノイズは回路ラインとGNDの間に発生して同相に流れます。ノイズ対策を行う場合はどのモードで発生しているかを確認し、適切な対策部品を使用する必要があります。
ノーマルモードノイズにはインダクタ、コンデンサが使用され、コモンモードノイズにはコモンモードフィルタが使用されます。
ノーマルモード
回路のラインを流れるノイズ(ラインに逆相に流れる)
図4
コモンモード
フレームグランドを流れるノイズ(ライン同相に流れる)
図5
車載ECU用DC-DCコンバータのトレンド
電子化が進む自動車は多くのECUが搭載されており、コモンモードノイズの対策が必要です。現在の自動車ECUのDC-DCコンバータはAM帯を避けるためにDC-DCコンバータのスイッチング周波数が2MHzとなっており高域のノイズ対策が重要となります。
スイッチング周波数が2MHzになった場合のノイズの変化
条件:入力5V-出力1.2V/2A , 入力フィルターなし
スイッチング周波数が2MHzになると基本波がAM帯以上となり、FM滞のノイズが大きくなる。
図7:スイッチング周波数:400KHz
図8:スイッチング周波数: 2 MHz
参考としてCISPR25 Level5(Peak)の規格値を記載
FM帯域のノイズが大きくなる要因
FM帯域のノイズが大きくなる要因としてはスイチングの立ち上がりスピードが速くなると、高周波成分が大きくなります。高周波成分はフレームグランドの寄生容量によってコモン電流が抜けやすくなります。
図9
図10:台形波のスペクトラム
図11
浮遊容量はGNDの取り方によって大きく変化するため、コモンモードノイズに関して予想するのが難しいが、コモンモードノイズの対策にはコモンモードフィルタが有効
周波数80MHzのノイズ電流 1μAが20cmのケーブルループ面積20cm2に
流れていたとする。 距離1m地点での電界強度の値は、
ED= 0.084μV/m
EC=9μV/m
同じ電流値でもコモン電流の影響が大きい(上記例で約100倍)
各モードにおける放射エミッションの大きさは
ディファンレシャル電流:ID
コモンモード電流:IC
ライン長:L ライン間:s
距離:d
とすると以下の式で求まります。
TDKの車載電源ライン用コモンモードフィルタの特徴とラインナップ
TDKでは各種DCパワーラインの8Aまでの大電流に対応するラインナップを拡大中です。製品は広い周波数帯で高いインピーダンスを確保し、使用温度範囲は「Ta(環境温度) = -40~125℃」に対応しています。
Item | コモンモードインピーダンス(at 100MHz) | 直流抵抗 | 定格電流 | 定格電圧 | 絶縁抵抗 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(Ω) min. | (Ω) typ. | (mΩ) max. | (A) max. | (V) max. | (MΩ) max. | |||
ACT32P-102-2P-TL00 | 3.2x2.5x2.5 | - | 1000 | 250 | 0.65 | 80 | 10 | |
ACM55V-701-2PL-TL00(開発中) | 5.5x5.5x3.5 | - | 700 | - | 3.0 | 80 | ||
ACM70V-701-2PL-TL00 | 7.0x6.0x3.5 | 500 | 700 | 15 | 4.0 | |||
ACM90V-701-2PL-TL00 | 9.0x7.0x4.5 | 500 | 700 | 10 | 5.0 | |||
ACM90V-152-2PL-TL00 | 1100 | 1500 | 16 | 3.6 | ||||
ACM12V-701-2PL-TL00 | 12.0x11.0x6.0 | 500 | 700 | 6 | 8.0 | |||
ACM12V-172-2PL-TL00 | 1200 | 1700 | 12 | 4.8 |
表1
広帯域かつ高いノイズ抑制効果
FM帯, Cellular帯 などが代表される帯域においても高いコモンモードインピーダンスを所持します。
低背設計
3.5mm Max. と低背設計でありシールドが必要とされるような低背設計のECU にも適しています。
まとめ
DC-DCコンバータの動作周波数の高周波化にともない、FM帯域のノイズ対策が重要になってきます。EMI対策を行う上でノーマルモードとコモンモードの切り分けを行うことがポイントとなり、特にコモンモードに起因するノイズはパターン及び層構成やGNDの取り方に左右されることがあります。コモンモードノイズの対策を行うにはコモンモードフィルターが有効です。下図のようにノーマルモードフィルターのみでは50MHz以上のノイズを落としきれませんが、コモンモードフィルターを併用することで50MHz以上のノイズを落とすことができます。
コモンモードノイズが原因でEMIとがNGとなっている場合、コモンモードフィルターで対策するのが有効ですが後から追加するのは設計変更が必要となるので設計段階で搭載できるようパターンを用意しておくことを推奨します。