ボンダブルNTCとは?SiCパワーモジュールの温度監視に最適な選び方
TDKはNTCWSシリーズをはじめ、小型品から200℃耐熱品まで幅広いボンダブルNTCラインナップを展開しています。
ボンダブルNTCサーミスタとは?基本原理と車載パワーモジュールでの役割
ボンダブルNTCサーミスタとは、上下面または上面に金(Au)電極を形成し、ワイヤボンディング工程でパワーモジュール基板に直接実装できる小型の負特性サーミスタ(NTC thermistor)です。
従来のSMD(表面実装)タイプやMELFタイプのNTCサーミスタは基板上のパターンに実装することが前提でしたが、ボンダブルNTCはワイヤボンディングによって電気的な接続を行うため、基板パターンへの依存を大きく低減できます。
NTCサーミスタの基本特性
NTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient Thermistor)は、温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する性質を持つ抵抗素子です。この特性を利用して、回路上でリアルタイムに温度変化を電圧信号として検知し、冷却制御・動作制限・過熱保護等に活用されます。
主な特性パラメータ:
- R25(公称抵抗値):25℃における抵抗値(例:10kΩ)
- B定数(B25/85):温度感度を示す指数。B定数が大きいほど温度変化に敏感
- 許容差:抵抗値精度(±1%または±3%)
TDKのNTCWSシリーズでは、例えば NTCWS3UF103FC1GT90B は R25=10kΩ±1%、B25/85=3930K±1% という高精度仕様を提供しています 。
ワイヤボンディング実装とは
ワイヤボンディングとは、細い金属線(アルミ線・Au線・Cu線等)を用いて半導体チップと外部電極を接続する実装技術です。パワーモジュール製造において広く採用されており、NTCサーミスタをこの工程で同時に実装できることで、追加の実装工程を必要とせず、パワーモジュール組み立てと一体化した温度センシング設計が可能になります。
車載パワーモジュールでの用途
ボンダブルNTCサーミスタの主要用途は、車載インバータに搭載されるパワーモジュール内のSiC/IGBTチップの温度センシングです。パワーモジュール内でSiCが発熱すると、近くに配置されたNTCサーミスタが温度変化を検知し、冷却システムの制御や動作制限トリガーとして機能します。
主なアプリケーション:
- 車載インバータ(EV/HEV用モーター駆動)
- DC-DCコンバータ
- 車載充電器(OBC)
- 産業用パワーモジュール(インバータ、UPS、太陽光発電PCS)
なぜパワーモジュールに専用のワイヤボンダブルNTCが必要なのか
従来方式(MELF/SMDチップNTC)の課題
パワーモジュールの温度センシングに従来から使用されてきた方式には主に以下があります。
| 方式 | 特長 | 課題 |
|---|---|---|
| MELFタイプNTC | 高耐熱・高信頼性 | 高価。基板パターンへの実装が必要 |
| チップNTC(SMD) | 安価。量産性高い | 雰囲気温度の計測のみ。発熱体直近への配置が困難 |
| ボンダブルNTC | 発熱体直近配置可能 | 一般的には比較的高価。電極設計の選択が重要 |
高電圧環境という根本的制約
パワーモジュール内のパワー半導体実装ランドには、数百Vから数kVに及ぶ高電圧がかかっています。従来のNTCサーミスタ(SMD・MELF)はこの電圧に耐える絶縁性能を持たないため、半導体チップから離れた位置にしか設置できませんでした。
その結果、以下の課題の連鎖が生じていました。
❌発熱体から離れた位置での計測 →温度検知に時間遅延と誤差が発生
❌検知精度の低さを補うために実際の耐熱温度より低い温度で動作制限をかける → 半導体の性能が制約される
❌性能制約により同等の出力を得るためにパワー半導体の搭載数が増える → コスト・面積が増加
ボンダブルNTCが解決できること
ボンダブルNTCサーミスタは、基板パターンへの依存なく、パワー半導体のダイ(チップ)に隣接した位置への配置を実現します。
ボンダブルNTC採用による主なメリットは次の3点です。
✅SiC/IGBTチップ直近での高精度温度検知
✅発熱体への距離を最小化し、温度上限付近での安全な動作制御を実現
✅基板パターン制約から解放され、レイアウト設計の自由度向上
✅温度検知精度が向上し、パワー半導体の性能を最大限活用可能
SiCパワーモジュールにおける温度センシングの技術的要件
SiCデバイスは従来シリコン(Si)デバイスと比べてより高い接合温度での動作が可能という特長を持ちます。しかし同時に、その高い効率を引き出すためには発熱体近傍での精確な温度計測が不可欠です。
SiCデバイスの発熱特性と温度上限の考え方
SiCパワーデバイスは高耐熱性を持ちますが、パワーモジュール内でのスイッチング損失・導通損失により局所的な高温環境が発生します。車載インバータ向けでは接合温度(Tj)の上限として175〜200℃が設計目標とされるケースが増えています。
一方、従来のシリコン系パワーモジュールでは125〜150℃程度が一般的であり、SiCへの移行に伴い温度センシング素子への要求仕様も引き上げられています。
車載向けNTCサーミスタに求められる主要仕様5項目
以下は、SiC搭載車載パワーモジュール向けに設計者が確認すべき技術要件チェックリストです。
| 方式 | 特長 | 課題 |
|---|---|---|
| ① 最高動作温度 | 175〜200℃ | SiCデバイスの高温動作環境に対応するため |
| ② チップサイズ | 0.3〜0.5mm角クラスの小型品 | パワーモジュール内の実装スペースが極めて限定的 |
| ③ 電極構造 | 上面2電極(Au電極)対応 | ワイヤボンディング実装で発熱体直近に配置するため |
| ④ 実装プロセス適合性 | はんだ / 銀焼結(ギ酸雰囲気対応) / ワイヤボンド | パワーモジュール製造工程に応じた選択が必要 |
| ⑤ 車載信頼性規格 | AEC-Q200準拠 | 車載用電子部品の信頼性を担保するため |
実装プロセス別の電極材料要件
パワーモジュールの製造工程では複数の実装プロセスが混在するため、NTCサーミスタの電極材料との適合性確認が重要です。
| 実装プロセス | 対応電極材料 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| ワイヤボンディング(Al重ワイヤ) | 上面:Ni-Au電極 | Al線最大太さ(例:150μm)の確認が必要 |
| ワイヤボンディング(Au/Cu線) | 上面:Ni-Au電極 | 最大300μmまで対応の品種もあり |
| はんだ実装 | 底面:Ag/Ni-Au電極 | 鉛フリー対応確認 |
| 銀焼結(ギ酸雰囲気) | 底面:Ag厚膜電極 | ギ酸耐性の要求有無を確認 |
ボンダブルNTCサーミスタの選び方と主要評価指標は?
ワイヤボンダブルNTCサーミスタを選定する際の主要評価指標は、①最高動作温度、②チップサイズ、③電極構造、④実装プロセス適合性の4点です。
① 最高動作温度の選定
- SiC搭載インバータ:175〜200℃対応品を推奨
- Si-IGBT搭載モジュール:125〜155℃対応品で十分なケースも多い
- 動作環境の最高温度に対して、十分な余裕(デレーティング)を持たせた選定が基本
TDKのラインナップは125℃〜200℃まで複数レンジをカバーしています。
② チップサイズの選定
パワーモジュール内の実装スペースは極めて限定的であるため、チップサイズは設計トレードオフの重要軸です。
- 小型優先(スペース制約が厳しい):0.3〜0.35mm角クラス
- 一般用途:0.4〜0.5mm角クラス
- 特定用途(MELF等との代替):1.6mm角以上
TDK NTCWSシリーズの代表品(NTCWS3UF103FC1GT90B)は L,W=0.33±0.04mm、厚さ0.25mm以下 という小型設計です。
③ 電極構造の確認
| 電極仕様 | 特長 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 上下面電極(従来型) | 汎用性高い。基板パターンへの実装 | SMD実装、MELFとの代替 |
| 上面2電極(ボンダブル専用) | 基板パターン不要。配置自由度が高い | パワーモジュール内、発熱体直近への配置 |
④ 実装プロセス適合性の確認
設計しているパワーモジュールの製造フロー(はんだ/焼結/ワイヤボンド)を確認し、NTCの電極仕様がそのプロセスに適合するか必ず確認してください。
パワーモジュールの温度センシング設計でご要件をお持ちの方は、TDK ボンダブルNTCサーミスタのサンプルをご請求ください。ご要件に合う品種の技術的なご提案も承ります。
TDK NTCWSシリーズの高信頼性:車載環境を想定した信頼性試験データ
NTCWSシリーズはあらゆる環境において高信頼性を実現しました。例えばDry Heat testは125℃の環境に2000時間放置するという厳しい試験ですが、2000時間後の抵抗値変化率は+0.23%と過酷な環境下においても安定したパフォーマンスを発揮します。また、低温(‐40℃)と高温(125℃)に交互に30分ずつ放置するThermal Shock Testは、急激な温度変化に製品がさらされるため、非常に厳しい試験条件になりますが、2000サイクル後の結果も試験後の抵抗値変化率+0.19%と安定しています。
- Cold Test
:-40℃, 2000 hours
- Damp Heat Test
:85%RH at 85℃, 2000 hours
- Sulfidation Test
:H₂S 5ppm, 40±2℃ - 75±3%RH, 240hours
- Thermal Shock Test
: -40℃/30min-125℃/30min, 2000 hours
ボンダブルNTCサーミスタに関するよくある質問(FAQ)
Q1. ボンダブルNTCサーミスタと通常のチップNTC(SMD)の違いは何ですか?
A. 通常のチップNTC(SMD)は基板上のハンダパッドに実装することを前提とした製品です。一方、ボンダブルNTCは上面(または上下面)にワイヤボンディング用のAu電極を形成しており、基板パターンに依存せず、ワイヤボンディング工程で直接接続できる設計です。これにより、パワーモジュール内の発熱体直近への自由な配置が可能となります。
Q2. AEC-Q200とは何ですか?車載設計で必須である理由は?
A. AEC-Q200は、自動車用受動電子部品の信頼性試験規格(Automotive Electronics Council)です。高温負荷・温湿度サイクル・はんだ耐熱・振動試験等が規定されており、車載部品として電子部品メーカーに採用されるためには一般的にこの規格への準拠が求められます。車載設計では安全・信頼性への要求水準が民生品と大きく異なるため、AEC-Q200準拠品の選定が設計の基本となります。
Q3. 200℃耐熱のNTCサーミスタが必要になる設計はどのような場合ですか?
A. 主にSiCパワーモジュールを搭載するEV/HEV用車載インバータにおいて必要になるケースが増えています。SiCデバイスは接合温度の上限がシリコンより高く、パワーモジュール内部の動作温度が175〜200℃に達するケースがあります。また、シリコンベースであっても高負荷動作・高密度実装の設計では局所的な高温環境が生じることがあり、175℃以上の耐熱品が選ばれることがあります。
Q4. 銀焼結(ギ酸雰囲気)プロセスにも対応できるNTCサーミスタはありますか?
A. 銀焼結(Silver Sintering)プロセスは、ギ酸(Formic Acid)を還元剤として使用する高信頼接合技術です。対応するNTCサーミスタを選ぶ際は、底面電極のAg厚膜構造とギ酸環境への耐性を持つ品種を選定する必要があります。製品によって対応状況が異なりますので、TDKへの技術問い合わせをご利用ください。
まとめ
ボンダブルNTCサーミスタは、EV・HEV向けSiCパワーモジュールにおける温度センシングの精度を根本的に改善する重要な部品です。従来の
SMD/MELFタイプでは解決できなかった「高電圧環境への近接配置」という課題を、ワイヤボンディング実装と電極設計の工夫によって克服します。
設計者が選定時に確認すべきポイントは5つ:
1. 最高動作温度(SiCインバータ向けには175〜200℃対応品が基本)
2. チップサイズ(パワーモジュール内スペースに合わせた小型品選定)
3. 電極構造(上面2電極設計で配置自由度を最大化)
4. 実装プロセス適合性(はんだ/銀焼結/ワイヤボンド工程との整合)
5. 高信頼性
TDKのNTCWSシリーズは小型チップ(0.31〜0.48mm角)から200℃耐熱品まで複数バリエーションを展開しており、車載パワーモジュール設計
のさまざまな要件に対応できるラインナップを備えています。


