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Bluetooth Audio 機器のノイズ対策とオーディオ品質の向上

                   
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近年、ケーブルを使った接続を必要としないワイヤレスオーディオが広く普及してきました。ハイレゾ化による音源データの増加や定額制音楽配信サービスなど、従来のCDなどのメディアを使用しないネットワークオーディオの利用も広がっています。新しいオーディオ利用はスマートフォンを中心としたサービスが多く、音の出力としてBluetooth接続を利用したスピーカーやイヤホンが多数を占めるようになりました。TWS(True Wireless Stereo)イヤホンが登場して、ケーブルなしの快適な装着感と外部からのノイズをキャンセルする機能を搭載することで、大音量での再生を減らす結果にもなり、周囲への音漏れについても気にすることなく使用することができるようになりました。また、Bluetooth接続のスピーカーでは信号伝送にケーブルが不要なため、再生機器とスピーカーの配置を自由にすることができるため、バッテリー駆動が可能なアンプ内蔵のモバイルスピーカーでは持ち歩きが可能となっています。
このように手軽で多くのメリットを持っているBluetooth Audio機器ですが、無線信号を必ず必要とするためケーブル接続によるオーディオ機器では発生しない問題も発生します。
本記事では、Bluetooth Audioの設計で問題になる現象とその対策例について紹介します。

目次

RF信号と動作への影響

無線接続によりワイヤー接続から解放された機器では、データの送受信性能を決定するRF接続の品質(受信感度)が動作やバッテリーの持続時間に影響を及ぼします。小型の無線機器では、回路基板や各入出力の配線が送受信で使用するアンテナと近接することになります。アンテナから出力されるRF信号はマイクやスピーカーなどのオーディオラインへ入力されるとノイズとなってオーディオ品質を低下させます。
また、オーディオ機器で使用されるデジタルアンプはスイッチング動作によって高調波ノイズをスピーカーラインから放射し、アンテナで送受信されるBluetoothのRF信号に干渉します。
アンテナと配線の距離が近いことによって結合が発生し、アンテナ特性の劣化がおこり受信感度が劣化する問題もあります。

図1 : RF信号と動作への影響イメージ

スピーカーラインで発生するノイズ問題

Bluetooth Classic Audioでは一定周期で通信(TDD通信)が行われますが、そのRF信号がオーディオアンプに入力されると非線形効果による包絡線(エンベロープ)波形が出力されます。この包絡線波形の周波数は可聴域のためオーディオ出力と一緒にスピーカーから出力されてノイズ音(TDDノイズ)として聴こえます。
RF無線の包絡線波形による可聴ノイズの問題はBluetooth特有のものではなく、セルラーのシステムやWiFiなどでも発生する現象です。

図2 : スピーカーラインで発生するノイズ問題イメージ

スピーカーラインへのノイズ対策

包絡線波形によるノイズは可聴周波数のため、それ自体をフィルタで対策した場合、オーディオ信号も減衰してスピーカーからの出力が得られません。包絡線波形の原因となるBluetoothのRF信号(2.4GHz帯)を減衰させることで対策を行います。これは、小型パッシブフィルタによって対策でき、そのようなフィルタがTDKのノイズサプレッションフィルタMAFシリーズです。図3にMAF0603GWのインピーダンス(/Z/)の周波数特性を示します。

図3 : MAF0603GW インピーダンス(/Z/)周波数特性

またTWSイヤホンは取り扱い時に手が接触する製品ですが、音響の入出力用の空隙を持つマイクとスピーカーは、外部から静電気が入る可能性があるためBluetooth SoCとの配線部分にESD対策が必要となります。TDKではオーディオ信号ラインへのRFノイズ対策とESD対策を同時に対策な製品として、ESD保護機能付きノッチフィルタを製品化しています。図4に、ESD保護機能付きノッチフィルタAVRFシリーズの挿入損失周波数特性(左)と放電電圧波形(右)を示します。

図4 : AVRFシリーズの挿入損失周波数特性(左)と放電電圧波形(右)

図5はオーディオライン向けのノイズサプレッションフィルタMAFシリーズとESD保護機能付きノッチフィルタAVRFシリーズを組み合わせてフィルタを形成した場合の挿入損失特性です。2.4GHz帯で大きな減衰特性があるため、オーディオアンプへのRF信号の侵入を防ぎ包絡線波形によるノイズが発生することはありません。

図5 : スピーカーラインへのノイズ対策イメージ

マイクラインでのノイズ問題

マイクラインにBluetoothのRF信号が入力されると、スピーカーラインと同様にその包絡線波形が形成されマイクからの入力信号に合成されます。
マイクからのノイズは通話先の相手に不快なノイズとして再生されてしまいます。またノイズリダクション用のマイクでは誤動作の原因になります。

図6 : マイクラインでのノイズ問題イメージ

マイクラインへのノイズ対策

図7は、マイクラインへノイズ対策部品としてノイズサプレッションフィルタMAFと一般的なチップビーズを挿入した結果です。
チップビーズでは2.4GHz帯のインピーダンスが不足しノイズの減衰が不十分ですが、MAFではノイズが大きく減少し、可聴周波数帯へのノイズも聴こえないレベルまで下がっています。

図7 : マイクラインへのノイズ対策イメージ

音質を劣化させないノイズ対策への転換

従来のノイズ対策ではチップビーズと積層コンデンサが使用されていました。チップビーズ、積層コンデンサは電流と電圧によって非直線的な特性変化をするため、これらの製品をオーディオラインに挿入するとオーディオアンプの出力を上げると高調波ひずみが発生しスピーカーから出力されます。このときの聴感は高音成分が付加されることで高音強調された音になります。
オーディオアンプからの出力をオーディオアナライザを使用してノイズ対策部品がない場合とノイズ対策部品を使った場合のTHD+N特性(*)を測定すると図8のようになります。
チップビーズと積層コンデンサを使用するとグラフの赤線のようにアンプの出力を上げていくと大きくTHD+Nが上昇していきます。対策の効果とオーディオ品質はトレードオフの関係で、ノイズ対策をした結果、音質の低下は避けられませんでした。
一方、MAFとAVRFを使った場合とノイズ対策部品を使用しない場合ではTHD+Nの上昇はありません。THD+Nの測定結果からMAF、AVRFはスピーカーとして使用される電圧、電流範囲において非直線的な変化を起こさないため高調波歪みが発生せず、フィルター回路がない場合と同様に、オーディオアンプからの信号が歪みなくスピーカーから出力されると言えます。
*THD+N (Total Harmonic Distortion + Noise):全高調波歪み率+雑音
オーディオ特性の中でも音質との相関が高い特性で値が小さいほど音質が優れます。

図8 : ノイズ対策部品を使った場合のオーディオアンプからの出力の比較

オーディオサウンド スペクトラム (f=1kHz, Po=10mW)

TWSイヤホンにおける通信品質の劣化(通信エラーの発生)について

TWS(True Wireless Stereo)イヤホンではスピーカー部分は基板から必ず配線される部分でアンテナとの結合は無視できません。
また、スピーカーをスイッチング方式を使ったデジタルアンプで駆動する場合には、スイッチングに伴う高調波ノイズがスピーカーラインから放射されます。この放射されるノイズは非常に微弱ですが、アンテナとの距離が20mm以内と非常に近く、微弱なBluetoothのRF信号に干渉します。
また、アンテナとの結合についてもスピーカーラインとマイクラインが近いことによってより影響を受けやすくなっています。オーディオ配線からのノイズとアンテナとの結合によって感度劣化が起こりますが、これらの確認は簡単ではありません。TWSイヤホンとBluetoothで接続される機器が非常に近く、お互いに強い電波を受信できる状態であれば、オーディオ配線からのノイズの干渉はほとんど影響なくデータのエラーなく通信が維持されます。
Bluetooth通信が行われる距離が離れたり、遮蔽物が存在すると、アンテナが受信する電波が弱くなります。この時RF帯へのノイズ干渉があるとTWSイヤホンの受信感度特性を下回る状態になりデータにエラーが発生し動作の中断が起こり、さらにはお互いの機器同士の存在を確認できなくなり無線接続が遮断されます。

図9: TWSイヤホンのブロック図

ノイズ対策部品による受信感度劣化の対策

スピーカーラインからの放射ノイズ、アンテナとの結合を防いで受信感度の劣化を改善するにはどのような対策が有効でしょうか?
アンプからの高調波ノイズに対してインダクタ成分、キャパシタ成分を持った部品を使い、ノイズの反射やグランドへのバイパスによってBluetoothの2.4GHz帯でのノイズの放射をなくすことが考えられます。またノイズ対策部品を挿入することによってアンテナとの結合が減少する効果もあり受信状態が改善される結果へ向かいます。

図10 : ノイズ対策部品による受信感度劣化の対策イメージ

スピーカーラインでの受信感度劣化の改善結果

Bluetoothオーディオ信号送信機とTWSイヤホンで音楽再生を行い、送信機側のRF出力を下げていき再生音が途切れ始める状態となるときのTWSイヤホンの受信感度を確認しました。
ノイズ対策部品をスピーカーラインに挿入した場合はより弱い受信状態まで音声途切れが発生しないことから、アンテナへ干渉するノイズが減少していると考えられます。
Bluetoothの通信で使用される2.4GHz帯でノイズ減衰効果を発揮するMAF、AVRF、MAF+AVRFを挿入することで約6dBの受信感度が改善される結果となりました。

図11 : スピーカーラインでの受信感度劣化の改善結果

ノイズ対策、ESD対策推奨製品

図12は、最新のTWSイヤホンでのオーディオ回路の例です。
高音質、ノイズキャンセルの性能を上げるためにオーディオラインにEMC+ESDの部品が多く使われています。

図12 : TWSイヤホンのオーディオ回路例

図13は、オーディオライン用のノイズサプレッションフィルタであるMAFシリーズのラインナップです。
ノイズ対策を行いたい周波数帯に適合した製品を選択して使用してください。
ESD保護機能付きノッチフィルタAVRFと組み合わせたフィルタとすることでより大きな減衰効果を得られます。

図13 : オーディオライン用ノイズ対策部品 MAFシリーズ ラインナップ
サイズ
mm
[inch]
品名 インピーダンス
[Ω]
@900MHz
Typ.
直流
抵抗
[Ω]
定格
電流
[A]
対応する周波数領域
Typ. Max. Max. セルラー帯 WiFi, Bluetooth
2.4GHz
WiFi
5GHz
700MHz-
1GHz
1.5GHz-
2.7GHz
0603
[0201]
MAF0603GWY551A 550 1.70 2.20 0.125
MAF0603FAL330B 250 0.37 0.70 0.2
MAF0603FAL470B 390 0.42 0.70 0.2
1005
[0402]
MAF1005GAD152A 1500 0.55 0.70 0.40
MAF1005GAD262A 2600 1.00 1.20 0.30
MAF1005GWZ102A 1000 1.3 1.6 0.15

図14は、ESD保護機能付ノッチフィルタであるAVRFシリーズのラインナップです。

図14 : オーディオライン用ノイズ+ESD対策部品 AVRFシリーズ
サイズ
mm
[inch]
品名 定格
電圧
Vdc [V] MAX.
静電容量
C (1MHz)
[pF]
ブレークダウン
電圧
Voltage Vbr
[V]
挿入損失 IL
[dB]
対応する周波数領域
セルラー帯 WiFi Bluetooth
2.4GHz
WiFi
5GHz
Dアンプ
ノイズ
700MHz-
1GHz
1.5GHz-
2.7GHz
0402
[01005]
AVRF041A150MT242 10 15 16 20min.
(2.4GHz)
0603
[0201]
AVRF060V600MT102 3.5 60 6.8 20min.
(1GHz)
AVRF060W650MT102 5.5 65 8 20min.
(1GHz)
AVRF061P160MT212 12 16 20 20min.
(2.1GHz)
AVRF060X100LT242 7 10 12.8 20min.
(2.4GHz)
AVRF060X8R2LT272 7 8.2 12.8 20min.
(2.7GHz)
AVRF061D2R4ST532 20 2.4 43 15min.
(5.3GHz)
1005
[0402]
AVRF101U6R8KT242 28 6.8 39 20min.
(2.4GHz)
1608
[0603]
AVRF161Q861LT201 19 860 27 20min
(200MHz)

まとめ

TWSのようなアプリケーションでは、限られたサイズのパッケージにすべてを収めなければならない以外にも、さまざまな課題があります。小型化が求められる中、様々な電気回路が互いに影響し合う可能性があり、特にアンテナのRF信号のノイズが、スピーカー接続ラインやマイクラインに伝搬したり、どちらかのノイズがRFアンテナ回路に結合することが懸念されます。TDKは、不要な可聴ノイズ源をフィルタリング/減衰させるだけでなく、目的の信号にほとんど歪みを与えない受動部品ソリューションを開発し、本文で取り上げたノイズサプレッションフィルタのMAFシリーズ、ESDノッチフィルタのAVRFシリーズを量産しています。AVRFシリーズはフィルター機能に加え、非常に高いレベルのESD保護機能も持っています。